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177.寒天とシロップ

「ミィプリンもだけど、アイスクリームのクリーミーさとこんなにマッチするんだね!

これはプリンて言ってるけど、卵じゃなくジャガンダ国の寒天で固めたのかな?」


 黄金色の茶巾絞りを最後に残した従兄様がキラキラ真剣な視線を僕に投げかける。

ケーキ屋さんやカフェを経営してる従兄様も寒天の存在はかなり前にカイヤさんから教えてもらってるんだ。


 他の人達も茶巾絞り以外はほぼたいらげた。


「はい。

寒天はお腹の調子も整えてくれるし、卵を使うよりも対費用効果もあって日持ちもするようになるでしょ?

もちろん卵を使って作る事もできるけど、寒天は常温でも固まる性質があるから」

「そうだね。

南国諸国ではまだ冷凍庫や冷蔵庫はそんなに普及してないからね」


 はっとした顔で茶巾絞りに手を伸ばしてたカンガルーさんが顔を従兄様に向ける。

寒天生産国の商会長カイヤさんは茶巾絞りを半分お口に入れてから良い笑顔を僕に向ける。


 そうなんだよね。

ゼラチンはこの世界にもあるんだけど、北国でもなければ常温で固まりなんてしないんだよ。

南国だと間違いなく魔法や魔具がないと固められないし、温かい気候ではドロッと溶けちゃうんだ。


「それに1番下のカハイゼリー?

初めて食べたけどほろ苦くて美味しい。

カハイだけでもケーキやお菓子に使えそうでいいね。

それにこのゼリーにこのシロップのどっちをかけても合うけど、同じ系統の食材かな?

黒いのはこのカハイみたいだけど、この薄桃色のシロップは何だい?

ほんのり蛍光色だよね」

「これはスラの実を乾燥させて甘さを凝縮した後に煮詰めて蜂蜜で味を調整しました」

「スラ?!

スラってカハイの実の方のあのスラか?!」


 ヨンニョルさんが驚く。

それもそのはずで、食べる所もほとんどないから基本的には廃棄してるんだって。


「はい。

食べるところがほとんどないあのスラですね。

初めはそのまま煮詰めてみたんですが甘みが足りないし、かなり薄味で青臭い感じがしたので乾燥させてみたんです。

乾燥させたものはお茶として煮出してもいいんですが、それなりの量が必要になりますね」


 ヨンニョルさんはびっくり顔でスラシロップをスプーンですくって口に入れてみてるね。


 そんなヨンニョルさんを尻目に甘いの苦手な義兄様達を除いた他の人達は皆茶巾絞りをお口に入れた。

もちろんずっと静観してる僕の付き添いの義兄様達の前には最初から置いてないからね。


(甘~い!)

「ピタの味がする?!」


 可愛らしいサイズ感の闇の精霊さんがまたまたぴょんぴょんしてる横ではゼスト様が予想外のピタの味に目を丸くしている。


「ピタの酸味が丸くなって、何だかほっこり

した甘みだ」

「兄上、南国風だがどこか懐かしい味わいだな!」


 ロイヤル兄弟もにこにこだ。


「これ、ピタと甘芋を混ぜたのかい?」

「はい。

ピタを荒く刻んでシロップ煮にしてから裏ごしした西国産の甘芋と混ぜました」

「北国産にはしなかったのかい?」


 東の商会長カイヤさんの質問に答えれば、西の商会長ウィンスさんも質問する。


 ロイヤル達は栗金団ならぬ、ピタ金団のお話に聞き耳を立て始めたね。


「北国産の物は甘みが強かったので、逆にくどくなっちゃいました。

手持ちの甘芋が東西の甘芋だったのもありますが、ピタそのものが甘い上にシロップ煮にしたので風味を引き立てるのはあっさりした甘みのある西国産を選びました。

ただ、個人の好みにもよると思いますから、もし商品にするなら色々試してみた方がいいと思います」

「確かに北国の甘芋は砂糖の原料になるくらい甘いものね」


 甘芋は甘いお芋を総称した呼び名だよ。

こっちでも芋って言うんだ。

甘くなければ芋、甘ければ甘芋だよ。

甘芋の中にはサツマイモも含まれるし、甜菜も含まれる。

あっちの世界の甜菜はほうれん草と同じ仲間で大根みたいなはずだけど、こっちのは見た目大根みたいなお芋。

寒さに強くて北国ではとってもポピュラーな、従兄様の言う通り砂糖の元にもなってるお芋さん。

だから北国の甘芋はとっても甘みが強いし、できたてで精製しなければクリーム色のほんのり黒糖風味。


 ちなみにサトウキビは今のところ見つかってないよ。


「なるほどな。

逆に完熟しきれずに落ちそうなピタなら北国の甘芋と合うかもしれねえ」

「ヨンニョルさん、そういうのがあるのかな?」

「祭りの時に売ってたのは売り物用の完熟した綺麗なピタなんだ。

完熟前の緑色の状態で収穫して、2週間くらいで完熟する。

だけど大体3割は収穫前に台風で落ちたり傷がついたりしてダメになったりすんだよ」

「それなら傷物を安く仕入れる事もできるのかな?」

「そうだな。

南国の温暖な気候だと落ちたり傷がつくと痛みやすいが、北国ならそれもゆっくり進んで完熟まではいかなかったが、熟しはしてたぞ」


 キラキラ、ギラギラとそれぞれ商売人な笑顔を2人して浮かべる従兄様とヨンニョルさん。


 あ、従兄様のその角度、義母様に似てていいね。

最近大人の男性の色気が出てきたせいか義母様の面影が減ってたから、ちょっと嬉しい。


「アリー、偽物は雷撃しておくよ?」

「俺の天使を誑かすとはいい度胸だな」

「え?!

珍しく2人が静かにしてると思ってたのに、いきなりのとばっちり?!」


 突然ビクッと腰を浮かせて顔を引きつらせる従兄様。

義兄様達との従兄弟同士の戯れに慣れてないヨンニョルさんも体を強ばらせちゃったね。


 他の人達はもう慣れたやり取りだから思い思いに歓談を始めてる。


 そんな僕達のいる空間に、僕にとってはとっても懐かしい、あっちの世界で愛飲していたあの芳しい香りが漂い始めた。

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