174.試食開始
「それではまず、こちらで試作したグリッゲンから。
ベイと南国の主食のパンも用意しているのでお好みでつけて食べて下さいね」
「う····あの激辛の····」
(あのすっごく辛いやつ····)
うん、闇の精霊さんは悶絶してたし、ゼスト様もかなり頑張ってたものね。
2人共絶句しちゃった。
手の平サイズの闇の精霊さんはここにいる大半の人達には見えてないだろうけど。
ちなみにここで言うパンはナンの事だよ。
全部共通でパンて言うみたい。
もう1つちなみになんだけど、場所を移してるんだ。
さすがに人数が多くて試食するのにあの客室のテーブルが狭すぎた。
以前にルド様達と試食会をしたお部屋だよ。
「あー、あれは俺も苦手なんだよね」
「うーん、俺は年々慣れてきてるが、若者にゃきついんだよな。
俺もおすすめまではしてねえ」
苦笑いを浮かべるのは西と南の獣人会長達。
だから何でそう思うものを屋台で出してたのかな?
南国の不思議感覚?
「そんなに辛いのか?」
「うーん····ルドには厳しいかもしれない。
私はあれくらいなら何とかなったけど、風味は少し苦手かな」
おや、ギディ様は辛党かな?
風味かあ。
やっぱりパクチーの青臭さかな?
苦手な人も多いんだよね。
特にこっちのパクチーであるツァサは僕の知るものよりもう少し個性的なんだ。
「カイヤさんは食べた?
俺今回祭りに行けなかったんだよね」
「祭りで私も食べたけど、確かにあれはなかなかだったよ。
さて、お先に一口いただくよ」
従兄弟様がカイヤさんに聞けば、そう答えてまずはグリッゲン、僕的にはグリーンカレーを一口パクり。
もぐもぐしてから飲み込む。
思案げなお顔がみるみる綻んでいった。
「これはうまいね!
辛いのは辛いけど、屋台のとは違って独特の青臭さが風味に感じられる程度に抑えられたから、ヤッツや他の香草の風味とうまく調和してる。
辛さが和らいでヤッツの甘味が感じられるようになったね!」
「え、そんな事あんのか?!」
ヨンニョルさんが慌ててスープを一口すする。
それを見て他の人達もまずは恐る恐る、次第にぱくぱくと口に運び始める。
義兄様達は最初の試作品から食べてるから、今日は黙々と食べてくれてるよ。
以前にしたカイヤさんとウィンスさんとの試食会の時同様、付き添いだから僕達の会話に入るつもりはないみたい。
義兄様達のは好みに合わせてもう少し辛くしてるんだ。
闇の精霊さんも小さいデザートスプーンを見えないように魔法をかけてゼストの器からちびちび食べてる。
手の平サイズだから何だかほっこりして可愛いね。
「アリー嬢、これ、どうやったの?」
ウィンスさんも一口すすってからナンやベイにつけて食べた後で興味津々に聞いてきた。
虎さんは猫科だから好奇心旺盛だ。
同じ猫科の黒豹アンさんもお鼻をひくひくしてるけど、今日は部外者が多いから護衛に徹するみたい。
後でシル様とリューイさんも入れた3人にお土産に持たせてあげるお約束してるんだ。
「ジャガンダ国の辛青カコを使ったのかい?」
「はい。
今回は全てジャガンダ国の物ですが、辛党の方ならオギラドン国産の物との比率を変えてみるといいかもしれませんね」
さすがカイヤさん。
自国でもあるジャガンダ国の食材を言い当てた。
入れたのはあっちの世界で言えば、獅子唐辛子。
こちらの世界でも炒め物やおひたし、天ぷらにして食べてるって。
「ツァサの青臭さはどうやって消したんだ?」
ヨンニョルさんもウィンスさんと同じお顔してる。
「1度軽く乾燥させてから水で戻しました。
先にそれをペースト状にして、それだけを先に高温で炒めたので、青臭さはそれである程度抜けましたよ」
「なるほど、そんな方法があったのか!
グリッゲンは西のリーとは違って乾燥させねえ生の食材を使うのがこだわりなんだ。
どうにかして国の名産にしたい食材の1つだったんだが、そうやって一手間加えりゃあの青臭さが抜けたのか!
生ってのにこだわり過ぎちまったみてえだ」
ヨンニョルさんが苦笑いする。
口では受け入れられないとか言いながら、やっぱり模索してたみたいだね。
「うん、これなら少しずつ他国の人達も受け入れられるようになるんじゃないかな。
私的にはもう少し辛い方が好みだけど、リーみたいに辛さを何段階かに分けて売り出すのもいいかもしれないね」
ギディ様がそれとなく提案してくれてる。
ヨンニョルさんはメモ帳を取り出して書き込み始めた。
「そうだな。
見た目もどこかリーに似ているし、ベイとも合う。
辛さを調整できるなら浸透もしやすいんじゃないか」
「そうだな。
だがリーのイメージに食われてしまうという事はないか?
チャガン商会としてはオギラドン国の交易の発展に貢献したいのだろう?」
ふむふむ、ゼスト様はあの時ブースで聞いたヨンニョルさんのお話を覚えてたんだね。
「その事なんですけど····」
ニーアがさっと動いて新たなお皿を商会長さん達と従兄弟様の方にささっと置いていった。
それを見て他の給仕係も同様に、ささっと王族3人に置いてくれる。
できる専属侍女達でしょ。
今日はある意味招かれざるお客様だから、王族は後回しでいいと思う。
主賓は商会長さん達だもの。
「赤色と黄色····」
今のところは畑違いのお話ばかりだったからか、黙って静観していた従兄弟様がぼそりと呟いた。
ふふふ、どうせだったら3種類コンプリートしたいじゃない?