172.継続困難~ギディアスside
「それを踏まえてだ。
『確かにお前達は他国の王族と貴族だ。
そして留学中はこの国の王族が後見する。
まずこれは理解できるな?』
『そして他国の王族が自国の民や自国の祭りの為に招いた商人達を傷つける行為は自国への侵略行為と見なされかねないと心得ろ。
今後のお前達の言動で同盟の破棄、戦争が勃発するとわかっての物言いか?
お前達が軽々しく口にする外交問題とはそういう事だが、わかっていて外交がどうのと声高々に口にしているのか?
既に野次馬には聞かれているだろうが、それでザルハード国はいいのか?
そもそもお前達が責任を取れる立場なのか?』
何もおかしな物言いはしていない。
国防や外交的観点からすれば王子の君ですらも何の責任も取れないよね。
違うかな?」
「「「いえ」」」
揃って返事をしてから3人共に黙りこんだ。
「挙げ句にわが国の王宮魔術師団副団長を公衆の面前で嘘つき呼ばわりした上に彼の妹への罵倒。
君達さ····戦争でもしかけるつもりかな?」
「そんな!」
「誤解ですわ!」
「違う!」
最後の言葉はわざとタメを作った上で威圧的かつ魔力を少し放出して問いかければ、カスカス達は口々に慌てて否定する。
「グレインビル侯爵令嬢は王族誘拐に巻き込まれて共に誘拐され、当時11才という幼い身でありながらも彼女の自分の命を危険に晒した機転のおかげでわが国の第2王子が無傷で帰還した。
そればかりか護衛していた近衛騎士団長も傷を負いはしたが生還できたのはその機転のお陰だ。
体の弱い彼女は生死の境を彷徨ったけどね。
そして甚大な被害を被ったはずのスタンピードはグレインビル侯爵家の活躍で未然に防がれ、かつ、その辺境領に馴染みの商人達を紹介し、他領の領益をもたらした。
言わばグレインビル侯爵家息女は王家の恩人であり、グレインビル侯爵家はその辺境領の恩人だ。
それに見合う褒章もアドライド国王家より令嬢本人に与え、広く公布もした。
なのに君は何を言った?」
今度は直接的に殺気を放つと全員が顔を蒼白にしてガタガタと震え始めた。
「『魔術師家系でありながらお前の義妹は魔力0の捨て子だそうだな!』
『しかも誘拐などされてこの国の王家とも距離を置かれた傷物令嬢だ!
無能な捨て子を養うのに相応しい田舎貴族』
よくもそんな事を言えたものだ!」
一喝するとカスマセガキは小さく悲鳴を上げ、話の途中で口をつぐんで震えながらも何とか立ち続けるカス王子の足元にへたりこむ。
カス橙は言葉にならない何かを呟きながらカス王子の後ろで尻餅をついた。
「確かにグレインビル副団長の言う通りだ。
わが国に留学した身であり、すでに何ヵ月も過ごしていながらこの国との交易に支障をきたした行為。
この国の公にされている騎士や魔術師の爵位制度も、この国の前代未聞の誘拐事件による国王陛下の名の元に公布した内容も全く把握できていないとあれば、他国の間者を疑われても仕方ない。
君達が王子や貴族の身分をひけらかす程に、その中身と学と品位のいたらなさは現実味を帯びるだろうな」
「「そんな····」」
そこのカス貴族2人は少しは自覚してきたかな。
先日までならそこで唇噛んで自分のプライドを傷つけられた事に対して怒りに身悶えるカス王子と一緒に、それでも懲りずに食い下がったと思うけど。
バルトスにしてはかなり生易しい拷問だったと思うけど、少しはこのカス2人にも効いたと思いたい。
「だが、あの者がわが国の貴族を拷問したのも事実だ」
カス王子はまだ噛みつくのか。
震えて立つのがやっとのくせに、本当に面倒。
「『何も知らない子供だと言うなら自分達の暴言や暴行について当人達に謝罪しろ』
先にそう言っただろう?
君達がそうしなかったからだ。
挙げ句に王子だ、貴族だと言うくせに王子である君は彼らを置いて逃げたよね?」
「な!
それは!」
「もしかして違うと言いたい?
真意はどうでもいいんだよ。
君は彼らを置いてその場からいなくなった。
王族はね、行動した事が全てだ。
王位継承権を持つ者が留学先で見苦しい真似をするな!」
声を更に一段低くし、今度はカス王子だけに殺気をピンポイントに当てるととうとう腰を抜かしてへたりこんだ。
まだまだ子供だな。
あの兄の入学した頃より弟のこいつの方が程度が低いのは環境のせいだろうか。
今後の留学継続と受け入れについては熟慮しよう。
「グレインビル副団長は言ったはずだよ。
『確かにわが国にも獣人や孤児への偏見はある。
だがそれをわが国の王族も、国の守護を司る職につく俺達も良しとしていない。
大事な民であり、民は宝だ。
そこに貴賤は関係なく、全てがこの国の存続に必要な人財なんだよ。
平民や獣人差別を他国でやる分には口を出さないが、このアドライド国で認める訳にはいかない。
わかるか?
それを国の魔術師としての爵位を持ち、王宮魔術師団副団長という立場の俺が彼らの前で諌めないのは、それを認める事と同意となるんだ。
俺自身が思ってもいない事に同意したなどと取られたい筈もない』
『お前達が彼らにきちんと謝罪した上でお前達の私財から弁償しろとしか俺は言わないし、お前達の俺個人への薄っぺらい謝罪なんぞ、はなからいらないんだよ』
むしろ彼が公衆の面前でそう言って君達2人を凍らせてくれたからこの国の対面が保てたってわかってる?
君達の国も偽物の流言とすれば対面は傷つかない。
もちろんどうするかは君達の国が判断する。
そしてわが国としては君達の素行を理由に留学の継続は難しいと判断している。
エリュシウェル=ザルハード第3王子。
もちろん君もだ」
「そんな!
留学がまともに終わらなかったら聖女として認められないかもしれないのに!」
最後の言葉に婚約者とやらは立ち上がって詰め寄る。
腰抜かしたんじゃないの?
「心を入れ替えます!
留学がまともにできないなんて次代の当主に許されない!」
腰を抜かしたままずりずりと机を支えに立ち上がってくる。
死人みたいでちょっと怖いな。
「ふざけないでいただきたい!
そんな話は前代未聞だ!
俺様は光の精霊王に認められた稀有な存在なんだぞ!
大体直に見たわけでもないのに、あの時あった事の真偽などわかるものか!」
俺様はへたりこんだままだが、その割に威勢がいいな。
というか当の精霊王が否定してたよ、それ。
「そう。
ならこれを見てから言うといい。
君達が祭りに行ってもめ事を起こした場合に備えてわが王家の影を君達が学園を出た時からつけておいた。
君達の留学中の責任は後見でもある私にもあるからね。
発言は一言一句間違えないようその場で記録し、提出させている。
もちろん名による宣誓で虚偽のない記載だ。
グレインビル王宮魔術師団副団長だけの証言だと思うな、愚か者が」
とうとう3人は顔色を失くし、その場に崩れ落ちた。