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167.性別・女~レイヤードside

「ふん、お前がここの責任者か」


 西のブースの前に転移して4人で入ってみれば、2人の明らかに頭が弱そうなバカっぽい少年がいた。

ブースのなかは突風に襲われたかのように商品が散乱し、いくつかは切り刻まれている。


 手伝いの子供達は奥に避難でもしたのかな?

奥に人の気配を感じる。


 バカっぽく口を開いた薄い小麦色の肌に山吹色の髪をした暗緑色の目の、手足を組んで座っている子供があの王子の弟ってところか。

その後ろで立ってる橙頭が大方取り巻きだろうね。


 もちろん開口一番のバカ発言は外套仕様の気配隠し用の魔具を羽織った僕ではなく白虎にだ。

黄虎とは先に話してたんだろう。


 兄上も未だに気配隠しは続行しているし、僕達の事は認識していない。

兄上も魔術検証しているのかも。

真正面から入ったにもかかわらず僕達に全然気づいてないなんて、実力も知れてるな。

ま、それはどうでもいいか。


 昨年の誘拐事件の後、アリーの為に更に改良を加えて検証がてら羽織ってみたけど、なかなかの出来栄えになったみたい。

今度アリーにプレゼントしなくっちゃね。


「おい、ザルハード国第3王子殿下の前で頭が高いぞ!

跪け!」

「全く、これだから平民の獣人は嫌なのだ」


 いきり立つ取り巻きバカに、明らかな侮蔑を含んだバカのため息。


 ····そんなにバカで大丈夫?


 普通他国の祭りで騒ぎを起こして王子の身元を明かすとか、むしろ呆れちゃうんだけど。


「おい!」

「バゴラ、やめるんだ」


 侮蔑発言に反応する弟を静かに諌めて白虎が数歩前に出る。


 チラリと兄上を見ると腕を組んで静観する構えだ。


「何か不手際がございましたか?」

「おい!

跪けと言っただろう!」

「今はいたしません」


 穏やかに微笑みつつも下手にでる事なく、背筋を伸ばしてバカ2人をひたと見据える。

アリーのマナーブックとここ数年の経験値が生かされてるね。


「何だと!

外交問題にしたいのか!」

「恐れながらここはザルハード国ではありません。

それに平民とはいえ私は他国の者。

西方諸国の交易を担う商会の1つであり、私はその商会の会長です。

立場あるお2人ならばこのような場で気軽に跪く訳にはいかない立場である事はご理解いただいて然るべきかと」

「おい····」

「もちろんここまでお話すれば、お2人の対応によっては外交問題になるのはこの国と貴国に限らず、西方諸国とも問題になりかねない事もご理解いただけるでしょう」

「そ、それは····。

王子····」


 旗色の悪さにやっと気づいたみたいだね。

ザルハード国のたかが第3王子ごときが解決できる問題でもないのに助けを求めるなんて、本当にバカ。


「ところで、このブース内の惨状はどのような経緯でこうなったのでしょうか?

たまたま突風でも吹いてこうなったのであれば、お2人は何か手助けをしようと駆けつけていただいたのですか?」


 圧のこもった微笑みに、騒がしいほうのバカはたじろぐ。

不遜な方のバカは不機嫌そうに組んだ足を揺らしている。


 これなら兄上に任せておいてもいいよね。


 そのまま奥に入る。

虎兄弟もバカ達も気づかない。

兄上はこっちを軽く見たからわかってるよね。


 アリーからは怪我した手伝いの子供達を癒すように言われたし、怪我を治したらさっさとアリーの所へ行こうっと。


「ほら、土下座して謝ったら許してあげるって言ってるじゃない。

特別にあんたの怪我だって治してあげなくもないわよ」


 奥の部屋からこれまた高飛車な感じの少女らしき声が漏れ聞こえた。


 ····嫌な予感しかしない。


 この手の言葉を発する<性別・女>にはろくな人間がいないとこれまでの経験が教えてくる。

はあ、暖簾を潜って中に入った。


 まず目についたのは琥珀色の長い髪をしたバカ達と同い年くらいの少女の後ろ姿だ。

臨時でブースに作られるような従業員用の狭い休憩スペースだから仁王立ちされると····邪魔。


 体を少しずらして後ろからのぞき込めば、少女の前にはアリーが思わず抱きついてもふりそうな羊属の幼い少年が目に涙を溜め、自分より幼いだろう獣人の幼児2人を背後に庇って立っていた。

彼にだけ手足に小さないくつかの切り傷と頬に殴られた跡がある。


 ブース内の惨状と合わせれば何をされたかは容易に想像がついた。


「そもそも獣人の孤児なんかがザルハード国王子とその婚約者に内定してる私の前に堂々と出てくる事自体があり得ないのよ?

なのにこのブースの責任者を呼びにも行かずに大事なお客様を迎えに行って留守?

いつ戻るかわからない?

責任者の弟が代わりに相手をする?

しかもそいつも野暮ったい獣人····」


 こいつも言ってる内容がバカ過ぎる。


 不意にバカは1歩踏み出して右手を振りかぶり、それに反応した羊少年は歯を食いしばって体を強ばらせて次の衝撃に備えた。


「そこまでだ。

腕を下ろせ、愚か者」


 もちろん殴らせるわけもない。


「え····な、あ····」


 バカはへなへなと座り込み、両腕で自分を抱きしめるようにして体を震わせる。


 この程度の殺気に当てられるなんて、口ほどにもないな。


「う、うぇっ」

「ふぐっ」


 ん?

あ、向こうの子供達まで当てられちゃったか。

狭いスペースはこれだから困るんだ。


 すぐに殺気を引っ込め、気配隠しを停止させてバカの首根っこを掴んで横に退ける。


「うぐっ」


 服で首が絞まったんだろうけど、一瞬だしいいよね。


 顔面蒼白で固まってしまい、後ろの2人のように嗚咽さえ漏らせなくなってしまった羊少年にアリーの言うところの王子様スマイルをすぐさま披露する。

ふわふわなクリーム色の頭をぽんぽんと撫でる。

うわ、この子の頭気持ちいいんだけど。


「よく頑張ったね。

後ろの小さい子達をよく守った。

えらいね」


 そういうとつぶらな目からはぽろぽろと涙が溢れて声を上げて泣き出した。

後ろの子供達も合わせて大合唱だ。


 羊少年をそっと抱き上げて切り傷と頬の傷を治癒するとぎゅっと首にしがみついて小さくありがとうと言われた。


 ま、たまには人助けも悪くないよね。


 治癒魔法が珍しかったのか、子供達が泣き止んでくれて何よりだ。


「ほら、行こう」


 スマイルはそのままに、片手で抱えたまま片手を2人の幼児達に差し出せば、僕の人差し指と小指をそれぞれ握りしめてくる。

僕のアリーにもこんな頃があったなあと昔を懐かしく思ってしまう。


「あの、私、立てないんですのよ?

ザルハード国の貴族令嬢ですの。

留学を終えたら教会からも聖女認定されますの!

ねえ、手を貸して下さらない?」


 いつぞやの従妹を思わせる<性別・女>に嫌悪感がこみ上げる。

そんなどうでもいい情報に興味もない。


「いたいけな幼児を虐げる醜悪な者が聖女?

何の冗談?」

「····え?!」


 緑色の目を大きくして言われた言葉に驚くバカは放置して子供達と出れば、黄虎が向かってきた。


 外套の目立たない所につけてあったボタンを1つ取って兄上に渡すように伝える。

子供達も引き渡して転移した。


 さあ!

5年ぶりに僕の可愛い妹とのお祭りだ!

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