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147.ご挨拶と帰宅

「グレインビル侯爵家諸君。

帰られる前に改めて領主として礼が言いたかった」


 侯爵は少し姿勢を正して改めてご挨拶してくれる。

僕達が帰る時に彼がお城にいるかはまだ不安定なこの領ではわからないからね。


「たるんだ騎士や兵士達の再訓練だけではない。

魔獣が多い土地だからこそ領民達との連携の在り方を確認し合う重要性はこのスタンピードの件をそちらから報告された時に痛感した。

軍馬や竜馬の特性や共に闘う様を見せていただいた事についても驚くばかりだ」


 確かに海岸での一件は有事の時にこそ見回りの兵士をちゃんと見回らせれば領民が危険に晒される事はなかったからね。


「そしてただ討伐するだけだった我が領に多く生息する魔獣の価値を教え、販路を得る機会を与えてくれた。

まさかデビパスとクラスクがこんなに旨いとは思わなかったし、名の知れた商会と繋ぎをつけてくれるとは思わなかった。

それにデビパスとクラスクの墨袋と火蜘蛛の糸を掛け合わせて染色して商品にできるなんて思いつきもしなかった。

アビニシア侯爵家として感謝する。」

「私も狩猟祭に来てこのような巡り合わせがあるなど想像もしておりませんでした。

停滞しつつあった事業に光明を見いだせたのもフォンデアス公爵家、グレインビル侯爵家の皆様のお陰。

心より感謝を」


 素敵なおじ様達に改めて謝辞を述べられると照れちゃうね。


 そう、イカ墨はよく見たら青色の粒子、タコ墨は金色の粒子が入ってて、何となく手持ちの火蜘蛛の糸を浸けてみたらジュワッと音がして毒と毒が掛け合わさってどっちの墨も毒が中和されたんだよね。

たんぱく質性の毒の熱変性なんだろうけど、あれには僕もびっくり。


 しかも糸が綺麗に染まるし、染まった糸が黒、金、青でロイヤルカラー。

光沢も出てきて火蜘蛛の糸特有の触ると火傷現象も無くなって強度も増す。


 これ王家に売れんじゃね、なんて思いついたらもちろんギディ様の前でわざと刺繍したハンカチ落として反応見るよね。

個人資産からの慰労金のお礼に、なんてかこつけて王妃様へのお礼状にハンカチ忍ばせてみるよね。


 その後レイチェル様にも新作もちかけたらのりのりで乗ってきて、この国1番の特別な販路を入手。

うちの領周辺は製糸業はあんまり盛んじゃないから、ブルグル領で流行らせてロイヤリティ貰う方がお得なんだ。


 だけど製糸業と染料業は厳密には違うでしょ?

それにうちの領は染料資源だけは豊富だけど、ぶっちゃけ他の事業もやってるし領内の人口も限られてる。

だとすれば他所に売りつける方が費用効果が高いなって思ってたんだ。


 そこで目をつけてたのがブルグル領近くでフォンデアス公爵家の分家にあたるコード伯爵。

国内では既に染色工業で市民層相手には手広くやってたんだけど、大量発注向けだから単価は安い。


 だから大量のお客を捕まえないといけなくて国外への流通経路の確保と、逆に単価を高く設定できる国内貴族相手への進出を目論んでた。

ただ伯爵領は場所柄的にも染料資源を育てるには規模が小さくて特別な色の何かを育てるには不向きな土地。


 そこで製糸業で貴族を相手にするブルグル領、そこや国外の商会にパイプと今まで無かった染料資源を持つグレインビル領、ロイヤルカラーを生み出す魔獣が生息するアビニシア領、染色工業のコード領が手を取り合った。


 王家もロイヤルカラーが気に入っただけで新参物の魔獣の糸なんかを王室御用達になんてしないよ。

そこには魔獣の乱獲に繋がらないよう管理させたり、高位貴族達の領が儲かるからこそ王家に納めさせる税が増額する目論見もあるんだ。


 それに辺境地で作ったり捕れたりする物が他国でも売れるようになれば、隣国が仕掛ける小競り合いも自然に制限される。

それが外交だし、グレインビル領もそんな感じで昔より争い事が激減してて実証済み。

周辺国と各領が勝手に上手くやってくれれば王家は労せずして安泰ってわけ。

もちろん民が潤うのは大前提でね。


 まあそんな訳でコード伯爵と従姉様との婚姻話は本家のフォンデアス公爵家の紹介したグレインビル侯爵家が伯爵家の事業計画を大幅に後押しする事、代わりにうちが従姉様を引き取る事も含めて無事円満解決したんだ。


「こちらこそ、弟妹共々世話になった。

これからも互いに良い関係を築いてまいりましょう」


 僕達兄弟の中で年長者のバルトス義兄様の言葉で僕達2人も頭を下げる。


 僕、レイヤード義兄様にずっと抱っこされてたの忘れてた。


 疲れた僕は先にお城に戻ったよ。

屋台の方は最後領民達も混ざってまずは領民の胃袋をゲットしたみたい。


 余談だけどタコとイカは地元の言葉として語り継がれていくという現象がなぜかその後起こり、国内ではデビパスとクラスクよりもタコとイカの名前で普及していった。


 お城に戻った僕はやっぱり微熱を出してしまった。

グレインビル領に戻ったのはその2週間後。

その日は義父様のお膝の上でずっと過ごしたよ。

恥ずかしいけど、久しぶりに夜は添い寝もしてもらったんだ。

思ってたよりホームシックにかかってたみたい。


 翌日からしばらくの間は、やっぱり疲れが出てお熱続きの数週間になっちゃった。


 そうして気がついたらもう夏が終わりかけ····。


 時間が過ぎるの早すぎない?!

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