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133.泣きの帰還~sideルドルフ

「良い。

俺が悪いのだ。

それより君以外に助けはいないのか?」


 どう見ても単身乗り込んで来たようにしか見えない。

そもそも何でその蔓を採取してるんだ?


「今はございません。

この子達が騒いだのでお嬢様に何かしらあったと思い、急ぎ乗ってついて来たまで。

殿下方と行動を共にしていたのも今知りました」

「そういえば、場数をこなしていると言っていたが····」


 気になった事を尋ねてみれば、衝撃を受ける返答が返る。


「お嬢様はこれまでに何度か拐われておりますし、外部の要因によって命の危険にも晒されてきております。

お嬢様付きの専属侍女は護衛も兼ねておりますが、私は3人目の専属侍女です」

「····なん、だと····」


 つまり、前任の2人の侍女は亡くなったという事か?!

何度か拐わそうになったのは聞いた事があるが、そんなに頻繁に?!


「元々のグレインビル辺境領がどのような場所で、領主は代々何を使命とされるのかお忘れですか?

お嬢様の体質も、とても稀有なものなのですよ」


 そうだった。

今は落ち着いているとはいえ、かの領地は隣国との紛争領地だ。

義理の娘を溺愛しているとの噂くらいは隣国とはいえ届いただろうし、魔力のない子供なら試しに人質として拐ってみるのも容易い。

人質として役に立たないなら殺せばいいと短絡的な考えに及んだ者もいたかもしれない。


 しかも歴史上数名しかいない魔力0という人間はあらゆる研究者の興味をそそる。


 もう何年も前の事だったが、学園で研究対象にさせろと数名で徒党を組んで詰め寄ってきた令息(愚か者)達を入学したばかりのバルトス殿が袋叩きにして半死半生にした挙げ句、グレインビル侯爵がその保護者達に自分の息子の過剰防衛を謝る事なく苦言を呈したと一時期貴族社会で噂になった。


 苦言を呈された保護者達はその後どういうわけか後ろ暗い事が次々発覚し、良くて社交界から追放、悪くて貴族の身分を剥奪されたという。


 その頃から少しずつグレインビルの悪魔使いという単語が浸透し始めた事をアリー嬢は知らない。


『少なくとも俺は王族として立場のある者が弱い者の立場を考えずに行動する事はあってはならないと教えられている。

王族としてアリアチェリーナ嬢は守るべき弱者であり、そしてこの国の王族それぞれが友と認める者達が常に守る家族だ。

これ以上学園で俺の友人とその妹を危険に晒すのは許さない』


 1年程前のある日、俺が隣国の第1王子であるゼストゥウェル=ザルハードに言った言葉を思い出して思わず俯く。

握った拳の爪が深く食い込むが、不思議と痛みを感じなかった。


「落ち込まれるのは後になさって下さい。

一先ず殿下はこの子に乗って助けを呼んでいただけますか。

王族の誘拐ともなれば綿密に計画を練った犯行でしょう。

どれ程の敵が何処に潜んでいるのかもわかりません。

お嬢様以外にも動けない役立たずがいるなら私の手に余るかもしれませんし、当然ですが私は最悪お嬢様のみを優先します」


 何の躊躇いもなく宣言されるが、シルと知らない仲でもないだろうに、もう少し何かしらあっても良くないか?


「····なるべく護衛も助けて欲しいのだが····」

「なるべくは助けるよう努めはします」

「頼むぞ。

本っ当に頼むぞ」


 念を押すが、無表情が更に無表情になった?!


 そもそもこの専属侍女は多分、いや絶対にとてつもなく怒っている。

主が俺に巻き込まれた事も、護衛のシルが主を護衛できていなかった事もだ。

俺達が不必要に絡んだ結果、主が巻き込まれたのも間違いなく推察している。

でも絡んだのは俺じゃないんだけどな!


 さすがグレインビルの悪魔使いの専属侍女だけの事はあるな?!

色々恐すぎる。


「ルフェーヴ、お願いします」


 ブルルッ。


「ルフェーヴ」


 ブルッ。


 ····俺でもわかる、不満そうな鳴き声(やつ)だ。

馬に睨まれるって初めての体験だな。


 ニーアの圧のある声に屈した魔馬が近くに来てとっとと乗れとばかりに尻尾で背中をバシバシ叩く。

それとなく痛い。


 馬に言っても仕方ないけど、俺、一応この国の王子なんだぞ?


 鬣を掴んで背に股がるとニーアが種を1つ取り出して少しばかり観察する。

それをポイッと俺の前に投げると····待て待て、どっかで見た光景だな?!


「な?!」


 発芽して俺と魔馬の腰に蔦が巻きつき、俺達を繋げる。


「ルフェーヴ、()()で走って応援を呼んで下さいね。

殿下は気にしなくて大丈夫ですよ」


 今日1番の優しげな声だが、言ってる内容は優しさの欠片もない。


 ブヒヒヒィーン!!


 応えるようにルフェーヴと呼ばれた魔馬は一声嘶いてから全力で駆け出した。

そこに俺への気遣いは当然のように皆無だった。

普段から鍛えていたのだろう魔馬は俺の知る何よりも速かった。


 洞窟の中という足場の悪さもなんのその。


 洞窟を出て辺境城がかろうじて見えるような距離も何のその。


 数十分後には止めようとした城の騎士や兵士もなんのその。


 魔術師の捕縛魔法も攻撃魔法も普通に弾いてなんのその。


 魔馬は魔力耐性が高いのは知っているが、魔法そのものを弾くし何なら体に水や炎をわざと纏ってみたりとか、普段からどんな訓練してんだよ!!

そして何度でも言うが、俺への気遣いは当然のように皆無!!


 ····恐すぎた。


 ····死ぬかと思った。


 ····振り落とされないよう守ってくれた蔦、ありがとう。


 逞しい前脚が蹴破った城の一角の会議の間で話し合う両親を見つけた時は不覚にも泣きそうになったのは秘密だ。

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