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128.妹~sideルドルフ

「これは?」

「氷熊の毛皮で作ったケープです」


 シルの低体温が少し落ち着いた頃、うとうとしていた俺はアリーに起こされてケープを手渡された。

彼女の手は冷えていて、毛布を巻きつけていても日が落ちていく程気温が下がっているのだ。

こんな薄手の毛布1枚では寒いに決まっている。


 多少はマシになったとはいえ、顔色がまだ悪いのだから自分こそが使うべきだろう。

上着を取り上げられさえしなければ今すぐこの子に着せてやりたいし、魔法が使えるなら火でもおこしてやりたいが、それもできないのが悔しい。


「····何故?」

「レイヤード義兄様の素敵魔石具だからです」


 物凄くどや顔なところ申し訳ないが、物凄く説明不足だぞ。


 今までの付き合いで中身はとても大人びているのは間違いない。

驚きしかない程に胆が据わってるし、領で引きこもってるくせに何処から仕入れるのかその知識は膨大だ。

今ならわかるがグレインビル領の発展には間違いなくまだ小さなこの少女が絡んでいると確信している。

義理とはいえ流石レイの妹だと素直に感心してしまう。


 だけど時々抜けてたり菓子に目がなかったり、こんな顔をしたりと素は愛嬌があるし、何より兄達を斜め方向に慕うところがいじらしい。

年々凛々しくも頼もしく、悪魔な側面に拍車をかけるレイを羨ましく思う。


 やっぱり妹良いよなあ。


「魔石は付いてないようだが、何をする物なんだ?」

「ふふふ、魔石にはからくりがあるんですけど、それは秘密です」


 口許に人差し指を近づけて、やっぱり相変わらずのどや顔だ。


「そのケープをつけて右肩を5回なでると自分の気配や匂い、音を遮断してくれて、光の屈折を歪めて目眩ましの効果を発揮してくれるんです」


 光の屈折を歪めるっていうのがいまいちピンとこない。


「姿を消すという事か?」

「いえ、あくまで目眩ましの効果を持つだけです。

だから気配や匂いに敏感な獣人さんの側で目立つ動きをすると気づかれやすくなります」

「なるほど。

ならばこの状況ではこれを被っていてもあまり意味はないのではないか?」


 どのみちここからは出られない。

この牢にかかる錠前は魔法錠だから専用の鍵がないと開かないのだ。


「いえ。

多分私達はどこかのタイミングでここから移動するはずです。

日は落ちてますから、あと少しすればこの牢は必然的に開きます」

「どうしてそう思う?」

「あの熊さんは王子を捕虜だと言いました。

王子の人質としての価値は現状では最も低い。

王妃様ならすぐにでも人質にして何らかの交渉や逃げる為の盾にはできるでしょう。

元々殺める事は前提のようでしたし、殺めてこそ無能な王に仕立て上げて他国の国王陛下の価値を下げられます。

もしそうなれば次期王妃として他国から娶らせようと圧力をかける事もできるかもしれません。

同盟を結んでも友好国とまでは言えない国はいくつかありますよね。

けど彼らの言うところのスペアの王子は国王陛下が切り捨てる可能性も考える必要がありますし、殺す価値と等しく生かす価値も低いはず」


 ····スペア発言に少なからず傷ついたぞ。

まあアリーが言ったわけじゃないし、多分そこは気にして話してくれてるのはわかるけどな。


「だがこれだけ時間と手間をかけた計画を無駄にするとは思えないぞ?

事実無根だが、彼らの目的が王家の隠蔽した何らかの事実の公表なら私の命を簡単に奪うよりも生かす可能性の方が高くないか?」


 そうなんだ。

300年前の国同士の紛争が絶えない時代だったとしても当時の王家が他国の民を捕虜にするか?

小国でもそこそこの人数がいるのに管理できるか甚だ疑問だ。


 それに獣人は場合によっては群れを形成し仲間意識をより強固にしやすい。

争い合った違う国同士だったとしても彼らの本能に引かかるような共通の敵がいれば手を取り合う可能性もある。

もちろんこの場合の共通の敵は当時のアドライド国になるんだが。


 そんな危険をわざわざ冒してまで捕虜にした獣人、それも民である彼らを嬲り殺す?


 民を捕虜にした時点で他国には知れ渡るだろう。

隣国との争いが激化する中でそれを完全に隠蔽して歴史を歪ませるとか、当時の時代背景的にそこまでの時間と労力を捻出できるとは思えないぞ。


「はい、ですからここは王子を連れた速やかな撤退が彼らにとって望ましいかなと。

王子という身分には後々の交渉材料としてなら価値があります。

もちろん暴れたり撤退の邪魔になるなら殺すかもしれませんが。

陛下が見捨てられない状況を作ってそれらしい証拠と共に他国に交渉させるのが王子の1番有効な利用方法ではありませんか」

「なるほど。

それなら既に他国に何らかの繋がりがあるかもしれんな」

「はい。

撤退するなら本格的な捜索が始まる前か、始まってすぐの夜に闇に紛れて他国に移動するのがベストです」

「だとしたら、もうそろそろか」


 私の言葉に小さな銀髪がこくりと頷く。


「恐らくはもしもの時の為に陽動となる何かを仕掛けてはいるかもしれません。

せっかく王族や高位の貴族が集まっていますし、1番可能性が高いのは狩場である山でこの事に気づかずに全員が油断している時ですね。

転移用の魔石具も使えなくなるでしょうし」

「そうだな。

だとすれば捜索や救出を期待するのは無駄という事か」

「はい。

ただし今回の狩猟祭には私の家族が全員参加しています。

それにリュドガミド公爵とその血を引くご令息方もいらっしゃいます。

少なくとも王族の方々だけは無傷で守られるはずです」

「ん?

何故リュドガミド公爵なのだ?」


 三大筆頭公爵というならわかるが、何故あの公爵限定なのだろう?


 ふと嫌な予感がして、アリーを見つめる。

この子の察しの良さは····危険かもしれない。

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