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106.レイチェル嬢の思惑

誤字報告ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

「左様ですわ。

お恥ずかしながら我が領では孤児院出身者への偏見から定職に就けずに生活が困窮する者が一定数ございますの。

当然孤児院への風当たりも良いものではございませんし、犯罪に走る者も出て参りますでしょう」

「そうね。

どこの領でも同じような問題は抱えておりますわね」


 童顔美人も思うところがあるのかな。

清楚美人は大人しく聞き入ってるね。


「ですからこのレースについては編み方と製図をグレインビル侯爵の許可もいただき、アリアチェリーナ様にご協力いただきましたわ」


 従姉様がこちらを驚いた目で見るけど、多分話題には入れないよね。


 清楚美人が興味津々に促してくる。


「それはどのような?」

「特許申請を行っていただいた上でアリアチェリーナ様の製法にロイヤリティを発生させますの。

そうする事で孤児達には分かりやすく目立つように手に職をつけさせつつ領主の監修の元で教育し、偏見の払拭を図る予定にしておりますわ」

「そんなに上手くいくかしら?

それにいつかは製法も流出するのではなくて?」


 童顔美人が否定的な意見をするけれど、それは既にわかってるんだよ。

レイチェル様が微笑む。


「どうでしょうか。

ですが領主がそこに無関心ではないと領民には伝わりますわ。

目的は孤児の救済、ではなく孤児だった者への偏見の払拭と治安の改善。

我が領での無法者の多くに元孤児がおりますし、浮浪者と職に溢れた彼らを含めればかなりの労働力になりますわね」


 労働力という言葉にはっとした顔をする2人の美人達。


「しかしそういった者達がまともに働くかしら」


 気を取り直した笑みを貼りつけ、なおも否定的な童顔美人。


「長い目で考えてらっしゃるのね?」


 反対に肯定感を増す清楚美人。


「左様ですわ。

今の者達もいつかはお亡くなりになりますし、これから新たな取り組みも考えておりますから、そうした者達が変わらない可能性もあれば変わる可能性もございますでしょう?

ロイヤリティはその為の潜在的な労働力への先行投資と考えております。

それに編み方は流出する事を前提にロイヤリティの発生期間を決めております。

ここはグレインビル侯爵とアリアチェリーナ様のご理解をいただきましたわ」


 美人達がこちらを見るから、微笑みを返しておくね。


「少なくとも我が公爵家が孤児院への救済と広く知らしめる以上、そしてその特許はグレインビル侯爵令嬢が行ったと知らしめれば貴族からのレースの製作に関して表立った偏見も少ないでしょう。

それこそどこも同じような問題を抱えておりますものね、スリアンナ様。

私はグレインビル領の教育体制を今後も参考にさせていただきますわ」


 ん?

レイチェル様、何か含みを持たせた?

童顔美人が目を細めたね。

もちろん2人共淑女の微笑みだけど。


「グレインビル領の教育。

そういえば先ほど王妃様にもそのように仰られていましたわね」

「左様ですわ、セディナさま。

グレインビル領は辺境の地であるにもかかわらずこの10年程で領民からの無法者はほぼ0。

領収も右肩上がりですし、領民の識字率や簡単な計算ができる者がほぼ100%ですの」

「そんな事が····」


 とうとう童顔美人が素直に感嘆の声を出した。

それくらい実行するのは正直難しいんだよ。


「それに何より、このレースは偏見の感情を抜きにさせる程に素晴らしいと感じる淑女を多く生むと確信しておりますの。

もちろんこのレースを取り入れた我が領のドレスや装飾品は今いる職人が作成しますから、縫製や作りが劣る事はありませんわ。

それでも偏見が拭えずお嫌でしたら、残念ですがそうした方は依頼されなければよろしいだけですもの。

元々これまで無かったレースですから、無くてもきっと困りませんわ」


 自信を持って微笑むレイチェル様もそこの2人には引けを取らない美人さんだし、双子のお兄さんと今後は広告塔になっていくんだって。


 そうそう、偏見の1番の問題解決は貴族自身を使う事なんだよ。

トップが愛用すれば下はそれに倣うからね。


 それでも孤児への偏見を完全に払拭するのは彼らの犯罪件数が多すぎるし中には凶悪犯罪もあるから、ぶっちゃけ無理。

もちろん孤児だけが犯罪を犯すわけじゃないけど、無知な人間ほどずる賢い人間にいいように使われて犯罪を犯しやすくなるのも事実なんだ。


 だから目指すのは他領とは一味違う教育された孤児。

少なくともうちの領内で生まれた孤児達は読み書きそろばんは最低限の教育として行ってるし、すでに領内での認識は彼らもれっきとした領民になってるよ。


 レースに関してのロイヤリティ期限は3年間で更新制。

それから僕はまだ幾つかの模様の図案をわざと製図として出してないから、流出したとしても最低5年は問題ないはず。

貴族達は新し物好きだから、新たなデザインを出していけばいいし、もしかしたら自分達で新たな模様を考案するかもしれないもの。

それまでにどこまでレイチェル様、もしくはブルグル公爵が製糸業とレースを使ったドレスや装飾品を自領のブランド化までもっていけるかにかかってるんだけど、それは僕の知った事ではないかな。


「そうね。

予期せず素晴らしいお話をうかがえたわ。

ね、リナ」

「ええ、ディナ。

よろしければ今度私の主催するお茶会に····いえ、王妃様のお茶会も今は辞退なさってらしたものね。

レイチェル嬢、今度私とディナで個人的に私の邸に招待したいわ。

その時にそのレースを使った商品を紹介して下さらない」


 そうそう、僕は王妃様のお誘いを辞退したからいくらハイクラス公爵令嬢でも誘えないよね。

良かった、付け焼き刃な壁をそれとなく作っておいた甲斐があるよ。


「もちろん、喜んで」


 にっこり微笑むレイチェル様のお顔は達成感に満ちてるね。

最大の広告塔になりそうだものね。


「それからグレインビル侯爵令嬢。

次にお会いしたらお名前でお呼びしてよろしいかしら」


 え、嫌だ。


「私達の事も名前で呼んでよろしくてよ。

ね、ディナ」


 え、何で言うの決定みたいに言うの?!


「それともお姉様がよろしいかしら?」

「····光栄ですわ、セディナ様、スリアンナ様」


 にっこり微笑みながら、僕は引きこもりを誓う。


「あら、残念ですわね」


 童顔美人、本当に残念そうなお顔だけどさっきまでのちょっと上から目線な態度はどこ行ったの?!


ドーン!!

ドーン!!

ドーン!!

ドーン!!


 あ、4回鳴った。


「狩猟祭が終わりましたのね」


 清楚美人、セディナ様が呟く。


「皆様、先程の合図をもって狩猟祭は終了となりましたわ。

殿方達の成果を確かめに参りましょう」


 アビニシア侯爵夫人が呼びかける。


 王妃様は護衛役の義兄様といなくなってるから、先に転移の魔具が設置されてるホールに行ったのかな。

何でエスコート役の王子が残ってるのか謎なんだけど。


 案内に従ってまずは1番下位の伯爵家から出て行く。

僕達はまだしばらくここで待機だね。

あと少しでこの地獄の円卓から解放だ。


 肩凝ってきたからか抜けそうで抜けない乳歯が痛痒くなってきたぞ。

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