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9.天使の慟哭~ヘルトside2

次回で短めのお話は終わります。

 アリーの部屋の前で気配をうかがうが時間も遅く、予想通り眠っているようだ。

そっとドアを開けて球体の淡い光を作りだす。

起こさないよう認知阻害もかけてゆっくりと近づく。

気配に敏感な時があるから念には念を入れる。


 いつ見ても天使の寝顔だ。

ブルグルのごみ屑が掴んだ手をそっと手に取り確認する。

きちんと治癒されたようだ。


ふと、初めてこの子が泣いた時の事を思い出した。

父親になれたのだと感じた瞬間だった。


『どうして!

僕だけが助けられたかもしれないのに!

方法を知ってるのに!

この世界じゃなければ!

昔みたいな魔力があれば!

今の僕には助けられない!

探してもアレがどこにあるかわからない!

前も今も初めて僕にお母さんをしてくれた人なのに!

どうして!』


 慟哭とは、こういうものなのだと思い知らされた。

まだたった7才の小さな子供が目の前でそれをしていた。

この子を初めて見つけた場所で。

昨日から行方不明となっていた間に、擦り傷や切り傷がいたる所にできて髪も服も埃まみれだ。

同時に最愛の妻はやはり死ぬのだと、医者から告げられても直視できなかった現実を受け入れた。

····私の拾ったこの子は誰だ?


 ここで初めて彼女を見つけた時、赤子とは思えないほど骨と皮だけの衰弱した貧相で小さな体をくすんだ布でくるまれて放置されていた。


 そこは神殿のような建物の入り口だった。

全く泣く事もなく、ただぼうっと宙を見ていた。

数週間前までこの土地はかつての上位の魔獣達が作り出したであろう毒の霧らしき物で覆われていた。

遠目からだが禍々しいほど黒いその霧は古代遺跡のような建物が結界の外から伺えるほど年々薄くなり、300年ほどの時をかけて魔獣ごと自浄したと考えられている。

辺り一帯はかつての魔術師がかけただろう結界で覆われており、長らく出入りできなかった。

文献で確認する限り小国の王都とされているが、それでもこの広範囲に300年も他の干渉を許さないほど強固な結界を張れる魔術師とはいかほどの実力者であったのか。


 その結界が突然解けた。


 それを産まれて間もない娘を亡くして気落ちした妻と遠巻きながら見てしまった。

引きこもりがちになった妻を気晴らしにと誘った私はタイミングの悪さに驚いたが、立場的に確認する必要があった。

何せ文献ではスタンピードにより滅んだ国なのだ。

最古の魔獣が隠れている場合もある。

何が潜んでいるかわからないから中まで入る事はしないし、妻を置いておくよりも私が近くで守りながら偵察する方が危険は少ないだろう。


 念の為、妻には5重に結界を張っておく。


 王都魔術師団団長であり、かの土地を領地内に治めていた領主でもあった私は陛下に知らせを出した後、妻と共に足を踏み入れ天使と運命的な出会いを果たしたのだ。

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