後編
言霊。
日本に古くからある概念だ。言葉には霊力が宿るから、人間の発言には、現実の事象に対する影響力があるという。
少々オカルト的な考え方かもしれないが、鬼が実在するくらいなのだ。言霊だって、本当にあるとしても不思議ではない。
だから……。
2月3日の、節分の日。日本全国の人々が「鬼は外、福は内」なんて叫ぶものだから、そのパワーが集まって、いつもは隠れている『鬼』の身体的特徴が『外』に出てしまうのだろう。
同時に「家にいないといけないのに、何故か外に出たくなる」というのも、みんなが『鬼は外』と言うせいなのだと思う。
近所の神社で豆まきイベントをやっている時間帯になると、ツノの飛び出し具合も、外へ出たいという気持ちも、いっそう強くなる。近くで大勢が「鬼は外、福は内」と叫んでいるからに違いない。
家庭内の小規模な豆まきならば、決まった時間ではなく随時、行われているはずだが、それよりも神社のような大々的なイベントの方が、僕たちに及ぼす影響も大きいらしい。
ちょっと調べてみたところ、場所によっては、2月3日だけでなく2月2日にも節分行事を行う神社があるそうだ。その点、うちの近くは一日だけでよかったと思う。
同時に。
そうやって言霊の力が、ある程度の範囲にしか及ばないのであれば……。
将来は外国の大学に留学して、節分とは無縁な地域で暮らそう。そうすれば、ずっとツノを生やすことなく、普通に生活できるはずだ。
これが目標なので、僕は今日も、がんばって勉強するのだった。
(「2月3日の引きこもり」完)