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別れを告げた穏やか系ヤンデレ彼女の、最後のお願い

作者: FactorNull


 幼馴染と付き合ったあなた。

 些細なきっかけで喧嘩し、嫌になったあなたは別れを切り出し、快諾してくれました。


 「最後に一緒に寝たい」

 彼女の最後の頼みを快諾したあなた。

 目を覚ました時に、ある異変に気づきました。

 縛られて身動きの取れない身体、包丁を向けつつ馬乗りになる彼女。

 彼女は貴方に、諭すように語りかけます。


 「別れてもいいけど、最後に一つだけ、私の話を聞いて下さい」


 彼女は、貴方に淡々と語りかけます。

 普段の彼女が取る、時々不安定になる砕けた口調なんて、何処にも無かったかのように。

 彼女の目は、あなたの心を覗き見るかのように睨んでいます。


 「昔のあなたは、幼馴染の私を同性の友達のように扱っていましたね。

 友達相手のように下品なジョークを飛ばしながら、登下校した日々が懐かしいです。

 もう、あなたは忘れてしまったのでしょうか」


 包丁があなたの首元に、つんつんと当てられる。

 恐怖心を煽るかのように。


 「私を女性と認識したのは、中学生の時でしょうか。

 友人によく、『お前たち付き合ってるんじゃないか』と噂をされ、恥ずかしそうに否定していましたね。

 それからでしょうか、私とめっきり話さなくなってしまったのは。

 あの頃から、私のことを嫌っていたのでしょうか」


 「高校に入ってから、あなたは変わってしまいました。

 この頃からあなたは、下らない女とよく話すようになりましたよね。

 おぞましい、甘えるようなねちっこい声で。

 気づかれてないと思いましたか?

 いつから、あなたは気持ち悪い声を出すようになったのですか?

 どうして、良く見られようと、身の丈に合わない話をするようになったのですか?

 答えて下さい」


 彼女があなたの顎を掴み、言葉を催促させる。

 恐怖で言葉が浮かばない。


 「もしかして、あなた、あの子に恋をしていましたか?

 別に高校生ですから、恋をすることは悪いことだとは言いません。

 ……でも、相手されなかったんですよね。知ってますよ」


 彼女は、何処からか知った悲しい初恋の記憶をえぐり出し、あなたを追い詰めようとする。


 「彼女に告白した時、『あなたみたいな人とは関わりたくありません』って拒絶されましたよね。

 あの時の、まるで世界が終わったかのような顔。

 ただ一人の女に拒絶されただけで、あそこまで悲しくなれるんですね。

 彼女に拒絶された今よりも、ずっと悲しそうでしたよ。

 ……ねえ、なんであなたが拒絶されたか、知りたいですか?」


 「知ってますか? 噂話って、簡単に広がるんですよ。悪ければ、悪い程。

 女にこれ見せられて泣き付かれたら、誰だって、あなたのこと嫌いになるんですよ」


 彼女は、ポケットから陽性反応の出た妊娠検査薬を取り出した。


 「これ、買っといて良かった……。

 あなたと私を結びつけてくれた、運命の赤い糸、一生の宝もの……」


 彼女は、妊娠検査薬を舐め回しながら、恍惚の笑みを浮かべる。


 「ねえ、何をしたか知りたいですか?

 わたしは、あなたの友人やあの子に、これを見せたんです。

 『あなたと付き合ってたのに、こうなった途端に捨てられた。でも誰にも話せない』と泣きつきながら。

 『最低』『嫌な奴』『二度と関わりたくない』と、色んな人があなたを否定してくれました。

 とても嬉しかったです。

 だって、誰からも好かれるあなたが、みんなから嫌われて、否定されて。

 でも、私だけはあなたをずっと愛して。

 世界で、私しかあなたを見ていないんです。

 素敵なことじゃないですか?

 悲しいですか? 怒りましたか? 殴り飛ばしたいですか?」


 あなたの口がハンカチで塞がれた。

 拘束されたあなたは、身動き一つ出来ない。


 「あなたは、『失恋して、友達も失った時に優しくされたのが嬉しかった』と言ってましたよね?

 何を勘違いしているんですか?

 私は、ずっとあなたには優しかったんですよ。あなただけを見ていたんですよ。

 どうして、気づいてくれなかったのですか?」


 彼女は、あなたの頭を優しく撫でる。


 「でも、次第にあなたが私を好きになってくれたから、最初は良かったんです。

 顔をくしゃくしゃにして、唯一の友人の私に泣きついて、優しくされて。

 勢いでしちゃって、交際して」

 

 先程まで頭を撫でていた手が離れ、首元にそっと寄せられる。


 「私は、あなたの事を心から愛しています。食べてしまいたい位に。

 でも、あなたは違う」


 首をぎゅっと締められ、ゆっくりと離される。


 「私のこと、甘えられて、体を差し出してくれる都合の良い女だと、思ってませんか?」


 「あなた、私に興味ありませんものね。

 いつも話すのは自分の話題ばっか。

 『寂しい』、『辛い』。

 恋人とは言え、暗い話を延々とされる私の気持ち、考えた事ありますか?

 無いですよね。

 だって、私は都合の良い女ですもの」


 「私は、あなたに興味を持たれたかった。

 だから、あなたが好きな女になろうとし続けた。

 髪型だって変えたし、趣味の話題だって出来るようになった。

 あなたの為なら何でもしてあげた。

 そんな女から手を引く、どういう意味か分かるかな?」


 考えさせる間を空けて、彼女が語りかける。


 「これから、あなたは、一生を捧げた女を裏切るんです。

 別に、あなたが良いなら、気にしませんけど……。

 幼馴染に一生捧げられるような女を裏切る怖さ、あなたは知らないのかな?

 生きる意味を失った人間って、怖いんですよ?」


 彼女の手から包丁が滑り落ちる。


 「……ごめんなさい、怖かったですか?

 大丈夫です、話したい事、全部聞いてもらったから、私は満足しました。

 どうぞ、存分に他の女相手に腰振って、子供でも作ってくださね。

 私はずっと見ていますから」


 彼女が、あなたの拘束を解いていく。


 「私は、ずっとあなたを見ていますからね」

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― 新着の感想 ―
[一言] はい、めっちゃ怖い というか、殺す殺さないとか狂ったよう笑いだすみたいなチープな演出より最後の言葉がかなり背筋に来ました
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