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プロローグ
月が雲に覆われて何もかもが暗黒に包まれた夜。道を指し示すのは夜空に散りばめられた微小な星だけ。
そんな中を、馬車が猛スピードで走っていた。
「なぁ本当にいいのか?、メウサ」
「あぁ、いいんだ、時が来ればまた会えるだろう」
メウサと呼ばれる女性の腕の中には小さな命の宿った幼児ががスヤスヤと寝ている。その子をメウサは優しく撫でたり、見つめたりと母親とその子供のやり取りを見ているような気分になる。
「見えたぞ」
男の野太い声がメウサを現実に引き戻す。男が指差す先には三階建ての豪邸がありそこら辺にある家とは比べ物にならないほどの大きさがある。
「いっときの別れだ、元気でやれよウォル」
「ウォルまた会おう」
その家の前にウォルこと幼児を置くと、そそくさとまた馬車を走らせた。12年後の再開を思って。