16話 古代魔法文明
俺は頑張った。頑張って説得した。そして――俺が10分で折れた。
何か話が食い違っているなーと思った。どうも俺は相手を人間と思って話しているのに対して、相手は自分をあくまで物として話しているためだからなのだが。
結果として、シアンさんも一緒に旅をするという事でまとまった。……若干まとめられた感があるが。
今は地下6階のシアンさんが眠っていた部屋の隣の部屋に来ている。
え? 扉はどうしたのかって? 壊したよ。シアンさんがワンパンで。間近で見ていた俺は正直びっくりしたよ。
大きな音と共に扉が吹っ飛んだんだよ。腰を抜かしそうだったよ。
さすがに戦闘用とか自分で言っているだけはある。古代魔法文明スゲェ。
向かいの部屋は『マリオネット用装備保管庫』とあった。ここにシアンさんたちマリオネットの服があるのだという。なぜ知っているかというと、さっきの説得中に、シアンさんがここの端末にアクセスし、今までの経過ログや地下6階の構造などの情報を調べていたからだそうな。(ちなみにここが地下6階だというのもこの時初めて知った)こういう事を聞くと、ああ、人間じゃないんだなぁと思う。
では少々お待ちくださいと言って、扉を開けそそくさと部屋の中へ入って行ってしまう。……しかし何を思ったのか戻ってきて、
「の、のぞかないでくださいよ……」
そう言って再度中に入って行ってしまう。
……の、覗かないよ、ホントだよ。
扉は横にスライドする自動扉らしく開く際にシャコン! と音がするのがすごくSFっぽい。
さて、女性の着替えってどの程度かかるのだろうか?
周囲を見回す。ここも例にもれず怪しげな雰囲気の廊下だった。ただ地上階と違い、とにかく広い。大型車でも通れそうなぐらいには広いし天井も高い。
地上階にあったマップにも地下6階の記載は無かったからここはいわゆる隠し施設というやつだろうか。マリオネットが置いてあったのからしても重要区画っぽいしな。
あとこの地下6階には建材ではなく階層空間自体に経年劣化に対する魔術付与がなされていると聞いた。よく分からないが、シアンさんが3000年たっても問題なく起動できたのはそれのおかげらしい。ただしさすがに3000年という月日で魔術付与にも穴というかムラができ始めていたそうだ。効果の弱まった部分の天井に穴が開いたり、シアンさん以外はミイラになったりしていたのはそのためだ。
「あのぉ~」
地下6階は独立したエネルギー源があり、上階と違い今でも電気等が来ている。いわゆる緊急用の発電機みたいなものがあるのだろう。この階層のみはスタンドアローンであり敵(何かは知らない)からの攻撃に対するシェルターの役割も担っているそうだ。
ちなみに、電気ではなく魔力で動いているそうだ。この廊下を照らしている光も魔導ランプと同じ仕組みだとか。
「あのぉ~」
「……うん?」
「き、着替えが終わりましたので……」
色々と考えている間に、どうやら着替えが終わっていたらしい。
なぜかおずおずと部屋から出てきた彼女を見て、
じぃ~~
「あの……」
じぃ~~
「あ、あまりじろじろ見ないでください。恥ずかしいですから。」
おっと失礼。ちょっとびっくりして思考が固まっちゃったよ。
だって、出てきたシアンさんが来ているのは、ぴっちりと肌にフィットするボディースーツだ。レオタードとか水着とかにも見えるが、ラインみたいな模様がSFの雰囲気を出しており…………あれだな、深夜アニメに出てくるみたいなスーツだな。円盤で謎の光や湯気が消える系のヤツ。
「くっ! なんでこんな衣装しかないんですかっ!」
いや、俺に言われても。
顔を真っ赤にして、手で胸や股間を隠そうとしている。
一応、こんなんでも防刃性や耐衝撃、耐魔法性に優れている上に、マリオネットの動きにも耐えられるように設計されている……らしい。
うん、それなら仕方ないよね。
一応残っていたスーツ類は体形に合わずに着られなかったものも合わせすべて持っていくそうだ。といっても10着も無いのでそこまで荷物になることもない。
「ま、前を歩いてください! 振り返らないように!」
「いや、俺、道分からないんだけど?」
「私が後ろから指示しますので」
仕方なく俺が前を歩いていく。
あ、敬語はやめてくださいとシアンさんに言われたので、それとなくフランクに話すように心がけている。初対面のしかも飛び切りの美人にタメ口とかちょっときついと思うのだが、どうも上下関係に対してこだわりがあるようだ。何度も注意された。
ちょっと無理してます。シアンさんは精神面のストレスは考慮してくれないのでしょうか?
シアンさんの案内で研究室だという所を、ここは特に何もないと素通りしようとしたとき、
「あ、す、少し待っていてください!」
そう言って、研究室の中に入って行ってしまった。この研究室、ガラス張りで廊下からでも中の様子が見えるのだが、……シアンさんが形のいいお尻をふりふりと……違う。そうじゃない。どうやら、研究者用のロッカーを見つけたようだ。服が無いか探しているのだろう。
俺はさっきの案内の際に聞いた通り、特に用が無いので廊下で待っていたのだが、
「――っ! なんでなんですかっ!」
戻ってきたシアンさんは……メイド服だった。クラシックなメイドというよりは少し改造されたメイド服で、しかしコスプレと呼ぶには出来が良すぎるといったようなものだ。かわいく見せるためのメイド服というよりも動きやすさを重視した改造といった感じだ。
「ここ研究室ですよねぇ! 何でこんな服しかないんですかっ!」
だから知らんて。
多分、白衣とかスーツとか目当てだったんだろうけど無かったようだ。
まあ確かにここの研究者は大丈夫か? と思わなくもない。
あと、何気に、シアンさんが髪もリボンでポニーテールにまとめてしまっている。
あれだけ騒いでいたのに、存外気に入っているんじゃないだろうか。
「えっと、お似合いですよ」
「まあ、さっきのよりはましなのでいいですけど……(ブツブツ)」
まあ嘘は言っていない。というか本当に似合っている。美人なのでなんでも似合うと言ってしまえばそれまでだが。
メイド服とはいえ、服を着たことで、ようやく前を歩いて案内してくれるようだ。
この地下6階は非常に広いようで結構歩かされる。いったいどの程度の規模のシェルターを想定していたのだろうか。
あと着替えたことで、俺の服は返してもらった。
「…………」
――クンクン
ほのかにカヲル
設定)皮膚に当たる部位などの外装は生体部品を使用しているため体臭や自然治癒など生物としての特徴があります。ロボットというよりサイボーグや人造人間に近い感じ。
今年もあとわずかですね。ではよいお年を。