13話 遺跡
今俺は所持品にあったシャベルを使ってひたすら斜め下方向に向かって壁を掘り進めている。固い岩などがあり、シャベルが壊れても俺のスキル〈物体修復〉を使い、治して、ひたすら掘り続ける。
助けが来ない以上自力で何とかするしかない。
すでに2日ほどこの作業を繰り返している。固い土や岩をずっと掘っており腕の感覚はもう麻痺している。水は初級の水魔法で生成できるのでいいのだが、食料が心許なくなってきている。
正直こんなことをしていても地上に到達できる見込みなんかない。横穴に放り込まれた後確認した際にはかなりの高さがあったので、1週間掘り続けても無理だろう。
だからって死にたくはない。
日本にいるときには死なんて意識したことが無かった。不慮の事故などが無い限り、何となくこのまま時が過ぎていくんだろうなと思っていた。だが、こちらに来て、福田さんが死ぬのを見てこの世界は厳しいと思った。それでもどこか他人事のようにも感じていた。だが、実際自分の番になってみると正直気が気じゃない。やれることはやっておくべきだろう。何か、やっていないと気が振れそうだ。
それとも死んだときの言い訳だろうか。「俺はこんなに頑張った。だから仕方がない」そう思えれば死んでも平気なのだろうか……
ダメだな、思考がネガティブになってきている。
歌でも歌いながら掘ってみるか。
~~~♪ ~~~♪
…………
……
歌うのはやめた。ただでさえ疲れているのに喉まで痛くなってきたからな。
奥の方を魔導ランプで照らしながら掘っていく。この魔導ランプは魔力を流すと発光する魔道具だ。それなりに高価だったが、普通のランプと違って油切れなどの心配がないので購入した代物だ。油式のランプの扱いなんて現代人の俺には面倒だというのもある。
ガンッ!!
「くそ、また岩か」
何度目かの固い岩にぶつかる。とりあえず下に掘れればいいので固い岩にぶつかるたびに掘りやすい方向に向きを変えひたすら掘ってきた。
ガンッ! ガンッ!
「また岩……んっ?」
そこに現れたのは、岩かと持ったがと思ったが何かの鉱石や宝石のように見える。表面がつるつるしている。
宝石だったとしても結局命あってのものだ。また掘る方向を変えなければならないのだろうか。そう思った時にボロボロと周囲の土が崩れ鉱石と思っていたものの正体があらわになった。
「なっ!?」
現れたのは窓ガラスだ。しかも窓枠や周囲の壁からして高層ビルの外壁ような感じだ。
なんだこれは? ここに何かあるのか?
ランプで窓の奥を照らしてみるがここからじゃ光が届かないのか暗くてよく見えない。
だが、もしこれが人工的な建物の類なら必ず出入り口があるはず。
生存への光明が見えてきた。今までの欝な気分は一気に期待感へと変わる。
窓を割ろうとするが、
ガァン! ガァン!
なかなか壊れない。逆にシャベルの方が欠けてしまった。〈物体修復〉で修復してもう一度。
そうやって30分ほど窓をシャベルで殴りつけていた。最初は少しだったヒビが徐々に大きくなっていく。
「よし、もう少し」
そしてついに、大きな音と共に窓ガラスの一部に穴が開いた。そしてそこから広がるようにどんどんと穴が大きくなっていって、人が一人通れるぐらいの穴が開く
「はぁはぁ…… よ、よし!」
一応念のためそこいらに窓ガラスと思われるものの破片を拾って〈鑑定〉をかけてみる。
強化ガラス〈魔術付与有〉
高層ビルなどに使用される一般的な強化ガラス。強度が非常に高い
経年劣化に対して非常に高い耐性を持つように魔術付与がなされている。
普通のガラスのようだが、魔術付与というものがなされているらしい。あと一般的なというのはどこまでを指すのだろうか? この世界の文明レベルで強化ガラスなんて作れるのか?
窓から中に入ってみるが明らかに人工的な建物だ。これなら出入り口も期待できる。
周囲には机が並んでおり、会社のオフィスのようだった。机の上には何か分からない機械のようなものや筆記用具と思われるもの、書類の束などがあった。
書類を一枚手に取ろうと触れると束ごとボロボロと崩れて行った。どうやら相当に古いものらしい。ということは建物自体も古いということだろう。大丈夫だろうか。崩れたりしないだろうな。
そう思いながら慎重に進んで行く。やがて外に出るたびの扉があったのだが、こちらは難なく開いた。相当古いものだと思ったのだが、ドアノブが壊れたり錆びついたりはしていなかった。外に出ると――
「うぉ……」
さっきの部屋とは違って異様な雰囲気だった。さっきの部屋からオフィスビルのようなものかと思っていたが、普通の廊下ではなかった。なんというのだろうか…………SF映画に出てくるエイリアンの宇宙船のような通路だった。
これは怖い。変な生き物とか出てきたりしないだろうな。
周囲をランプで照らしながらゆっくりと進んで行く。
勘弁してくれよ。俺、わりと怖がりなんだよ。
その後、見つけた扉なんかを恐る恐る開いてみたが、さっきのようなオフィスにつながっていた。後、トイレと思われるところや機械室みたいな場所も見つけた。ただし機械室は何の機械か分からない上に、もう動いていなかった。ボタン類も見つけたので適当に押してみたが、反応しなかった。というか押したらボタン自体が壊れた。
そうしてさらに歩いていくと、エレベーターを見つけた。
ただし、ここも壊れていたようでエレベーターシャフトが上下に延びているだけで、人が乗る箱は無かった。
そしてエレベーターの入り口には、
「24階か」
階数が書いてあった。どうやらここは地上24階らしい。
ここが本当にビルのようなものだとしたら階段があるだろうとさらに探すとエレベーターのすぐ近くに発見した。
「しかしここはあれか、古代魔法文明とか言うやつの建物かな……」
正直、今まで見てきたこの世界のレベルで地上24階建てのオフィスビルなんて建てられるような技術力は無いだろう。それにこの廊下の雰囲気なんかも全く今までの建物の様式と違う。
国が違うと建築様式や街の発展度も違うとかもあるかもしれないがこれはそう言うものではない気がする。
となると、以前本で読んだ古代魔法文明というものが頭に浮かぶのだが。確か、あれは今より高度な文明を築いていたという。ならばこういったものも作れるのではと思うのだが。それだとこの建物は最低でも3000年は経過しているということになる。
「ん、待てよ」
少し考えてそこら辺の壁を〈鑑定〉してみる
壁〈魔術付与有〉
ビルの壁。
経年劣化に対して非常に高い耐性を持つように魔術付与がなされている。
やっぱり。建物自体にこの〈魔術付与〉というのがかかっているのだろう。経年劣化に耐性があるとあるし、これが3000年この建物を維持してきたのかもしれない。
その後1階を目指して階段を下りてきた。途中で各階を確認した際に思ったが、どうやらここはオフィスビルというよりも研究施設に近いのではないかと思われる部屋がいくつもあった。実験器具のようなものが散乱した部屋や何かの入っていたとも割れた試験管やらベッド、薬品の入っていただろう棚などがいくつも見られたためだ。ただ、その部屋は現代日本の清潔な実験室というよりは、SF映画に出てくる未来の実験室みたいな様子だったが。
いくら3000年前のものだと分かっていても、怖い。明かりはランプ一個。今にも影からクリーチャーみたいなのが飛び出してきそうな雰囲気の部屋がいくつもあった。
◇◇◇
ようやく1階についた。長かった。ビルの24階から階段で降りたことなんてないから、もう足がガクガクだ。途中にいくつも寄り道したし。
1階のエントランスホールらしきところに今はいるのだが、やはりここは研究施設だったらしい。各階の説明が書いてある案内板を発見した。どうやら地上25階、地下5階まであるらしい。
そんなことよりようやく外に出られる。と思って出入り口のほうに歩いていく。
そう、出入り口の方から明かりが漏れているのだ。
――周辺が暗かったのもあるし、もうすぐ外だと思って注意が散漫になっていたのもあるかもしれない。
「へ? うわぁぁぁ!?」
足を踏み外した。というか、床が無かったようだ。そのまま下の階に落ちていく
「げふぅ! がはぁ!――」
1階分落ちたと思ったら床が斜めに崩れていて、転がった先にまた穴があってさらに1階分をおちる。落ちたら落ちたでその床が崩れて、更に1階分落ちる。
そうして俺は地下6階まで落ちて行った。
今日ってクリスマスなんですよね。予定がないのであまり実感がありません。(ノω・、) ウゥ…
シャベルとスコップって関東と関西で違うらしいですが、調べると足をかけるところがあるのはシャベルらしいので、そちらにしています。大きさは中くらいで折り畳み出来るヤツです。