12話 いきなりですか!?
朝から乗合馬車に揺られているのだが客は俺のほかに9名、
護衛としてCランク冒険者4名が馬車の周りを警戒しつつ歩いている。
馬車は2頭引きの大きめのものだったが、乗り心地は最悪だった。前も言ったが振動がダイレクトに伝わってくるためだ。
他の人はよく平気な顔で乗っていられるな。
何度も述べるようにこの世界、街の外は魔物がいる。
今まで3度ほど魔物の襲撃にあったが、そこは護衛の人たちが何とかしてくれた。さすがCランク冒険者といったところか。
そんなわけで、特に問題もなく工程を消化していく。隣に座った人なんかがわりと話しかけてくれるから退屈もしなかった。
隣の人は老人夫婦だったのだが、今から行く街に住んでいる息子夫婦に会いに行くらしい。その夫婦の間にできた子供――孫がいかに可愛いかを何度も聞かされた。その流れで、お兄さんは結婚はしているのか? とか、子供は? とか聞かれたのが地味に辛かった。こちとら独身ですよ。彼女すらいませんよ。
そして明日の昼には国境沿いの街に着くということで本日は野宿となったわけだが、そこで問題が起こった。
「ギャーギャー」という鳴き声と共に鳥のようなものが3羽ほどこちらに向かってきているのが見えたのだが、
「レッサーワイバーンだ!!」
護衛の冒険者の一人が叫ぶ。
近づいてきたのは2mぐらいの蛇に翼を付けたような魔物だった。
え? なになに? と俺が混乱している間に周りの乗客たちが叫びながら馬車の中へと避難していく。
「おい! あんたも速く!」
護衛の冒険者が馬車に避難するように声をかけてくる。そんなにやばいヤツなのか! とあわてて馬車の方へ走ろうとするのだが、直後足が浮いた。
「え!?」
肩をつかまれ一気に持ち上げられたので首だけ上に向けると、俺の襟首をさっきよりも大きな体躯と翼とは別に足のある魔物につかまれて飛んでいた。
「う、うわあ―――!!」
「なっ!? ワ、ワイバーンまで居たのか!!」
ビビッて声を上げるがもう遅く、どんどん地上が離れていく。
「お、お客さ――ん!!」
馬車に乗っていた人たちの声がどんどんと遠ざかって行った。
◇◇◇
巨大な森林の中に一つのデカい丘が存在した。オーストラリアのエアーズロックとかギアナ高地のテーブルマウンテンのようなものを思い浮かべればいいだろう。その垂直に切り立った崖の中腹付近に横穴が開いており、今、俺はそこにいた。
あの後、冒険者がワイバーンと呼んでいたわりかしメジャーな魔物に持ち物上げられて連れ去られた俺はそのワイバーンの巣と思われる場所に放り出された。途中結構大声で叫んだり暴れたりしたのだがつかまれている肩が放される気配は無かった。まあ、高空を飛んでいたので放されたら、地上に真っ逆さまになっていたわけだが。
ワイバーンは俺を放り出した後またどこかに行ってしまった。
周囲を見てみるとワイバーンの寝床になっているのだろうか結構大きい空間が広がっている。ただし端っこの方に何か分からない骨が散乱している。
ヤバイヤバイ、これ餌になるコースだろ。教会を出たとたんにこれかよ!
「くっそ、どうする」
穴から外をのぞいてみるが、とても降りれるような高さではない。上の方は多少近いが同じく道具もなしに登れる高さではない。
ワイバーンはどこに行ったのか知らないが戻ってくるまでに何とかしなければならない。周囲を見回すが、さっきの何の動物か分からない骨がまとめられた所とか、割れた樹木が重なった寝床と思しき所があるぐらいで特に脱出に使えそうなものはなかった。
「奥の方に何か隠れるようなところは……」
穴の奥の方に行ってみると、岩肌に亀裂が走っているの見えた。亀裂の中に入ってみるがすぐに行き止まりになってしまう。
所持品と一緒だったのが唯一の救いだった。この亀裂の中ならあの体の大きいワイバーンは入ってこれない。保存食がいくらかあるからこれで少しは持つだろうが。
……助けが来る……訳はないよな。