11話 旅立ち
「ここを出たい?」
「はい。私は、そこまでステータスが高いわけでもなくレベルの上りもいまいちです。現状『勇者』殿の足をひっぱっている状態です。さすがにこれは心苦しいので、『勇者』の仲間には同行しない方がいいと思いまして……」
「ふむ、なるほど。まあ、本人がそう言うのであればこちらは止めることはしません」
「ありがとうございます。……あの、ずうずうしいとは思いますが、私はこちらの世界にいまだ慣れておりません。ですので、慣れるまでの間ある程度生活できる程度の資金を恵んでいただきたいのですが、」
「……まあいいでしょう」
「ありがとうございます。」
結局俺は教会を出ることにした。
あの話を盗み聞きしてから、石田と、あと偶然そばにいた香川さんにはその話をしてみた。一応、信じてはくれたようだ。
ただ、この異世界で、自分たちには生活基盤などない。となると衣食住に資金などを提供してくれる教会をすぐに離れるというのはさすがにまずいということは分かる。特に社会人である石田はともかく、高校生の香川さんはきついだろう。それに、ステータスが高いのであれば早々に切り捨てられたりすることはないだろうとも。
結局、石田と香川さんはこのまま教会に所属するようだ。
3人だけでだが話し合った結果、この話は出所を分からないように、時間をずらして皆に流してみること。
その結果現状維持となった場合、香川さんなどステータスの低いものについてはさりげなく、高レベル組にサポートするよう要請する。あと、教皇たちの動向にも注意するよう促す。などを確認した。
◇◇◇
皆に挨拶をして出てきた。
「秋月さん本当に行ってしまうんですか。」
「一緒に居ましょうよ」
「そうですよ。ステータスの低さなんて気にする必要ないですよ。」
東雲君に泉川さん、香川さんが声をかけてくれる。
「ありがとう。でも俺が足を引っ張るわけにもいかないしね。大丈夫。皆ならきっとうまくやれるよ。」
俺はステータスが低く、今までの上がり方を見てもレベルを相当上げないと皆に追いつけないだろうし、そもそも俺は後衛職なのでレベルが上がりづらい。結果皆の足を引っ張るのを懸念して、パーティーを外れると言うのを表向きの理由としている。
泉川さんと香川さんなどはまだ食い下がろうとしたようだが東雲君が押しとどめた。
「そうですか。ではお元気で。僕らはきっと魔王を倒します。そうしたら知らせますので一緒に帰りましょう。」
東雲君良い奴だな。リア充爆発しろとか思ってゴメンな。
「ああ、俺の方でも何か他に帰る方法が無いか探してみるよ。」
そうしてみんなと別れた。
◇◇◇
教会を出てからすぐに俺は冒険者ギルドに向かった。いくらそれなりのお金をもらっているとはいえ、それだけを頼りにしてはいけない。何かしら収入を得る方法が必要だろう。異世界と言えば冒険者。ということで、以前城下町に行った際に確認していた所に向かう。
着いた建物の中に入ると、中にいた人の視線が一斉にこちらを向く。大半は確認のためだったようですぐに視線を戻したが、一部の人たちの視線はこちらを向いたままだ。
ガンを飛ばしているような奴と、何か探っているような感じの奴が半々だ。
前者はお約束の「おいおい兄ちゃん、ここはお前が来るところじゃないぜ」的なものだろうか。後者は、……こんな奴の腕が立つのだろうか? 腕が立つとしたら魔法職か? とか思われているのだろうか。
別に俺はスポーツとかやっていたわけじゃないので、そこまで筋肉がある方じゃない。一応太ってはいないと思うが。
見た目的にはいわゆる中肉中背の平均的な背格好だと思う。大学時代の健康診断でも特に問題ないと言われた。視力両目とも1.5なのがひそかな自慢だったりする。
とりあえず、声をかけられたり絡まれたりはしないようなので、平然を装い受付と思しきカウンターのある方に行く。
列が少しできていたが、そこまで時間がかかることもなく俺の番がやって来た。
「あの、冒険者になりたいのですが、手続きはここでよかったでしょうか?」
「はい。ここで問題ありません。では、こちらを記入してください。あ、名前以外は書けるところだけで結構ですよ」
こういう受付は美人と相場が決まっているのだが、目の前にいたのはちょっと渋めの初老の男性だった。
言われた通りに名前以外にかけるところを書いていくのだが……使用武器か。
そう言えば、今までは教会の貸し出した武器を使用していたので自前の武器は持っていなかったな。とりあえず無難なところで、ショートソードとナイフと書いておく。
後で買いに行かなければ。
後は性別と年齢ぐらいしか書けるところが無い。
パーティーの希望などを書くところもあったが、特に今のところそう言ったものを組む気はない。あと、得意な魔法や所持しているスキルなども書く欄があったが空欄としておく。
そうして書き終わった紙を受付の男性に渡す。
「はい、では登録料として銀貨2枚となります。あとステータスカードは持っていますか?新規で作られる場合は、登録料とは別に銀貨5枚がかかりますが。」
「いえ、ステータスカードは持っているので大丈夫です。」
「そうですか、では登録しますのでステータスカードをお預かりします。」
銀貨2枚とステータスカードを渡すと、受け取ったカードを少し眺めて少し驚いたような表情をした。
「おや、ステータスをすべて表示しているのですか」
え? 何? ステータスカードってそう言うもんじゃないの? って聞いたら体力より下の欄の表示、非表示は任意でできるらしい。どうやら個人情報的なものなので、普通は非表示にしているらしい。特に冒険者は体が資本でスキルやステータスなど手の内を明かすのは嫌うそうだ。
表示するのは依頼主や、パーティーを組む際に、相手から求められた時らしい。
普段から表示している奴はよほどステータスに自信のあるやつぐらいとのこと。
えー、そんなこと聞いてないよ。
聞いてみると非表示のやり方は簡単だったので、一度返してもらってすぐに非表示にした。その際に見たら職業欄がいつの間にか聖騎士から無職に変わっていた。
そう言えば、ステータスカードがあるのになぜ最初に紙に名前などを記入させたのかと聞いたら、こちらはギルドで保管管理するためです。と答えられた。なんでもこのデータを各冒険者ギルドに送って、ギルド側でもちゃんと冒険者の管理をしているらしい。なおステータスカードを一度受け取るのは魔力を番号にしてさっき書いた紙に記載するらしい。これでステータスカードを失くした場合でも魔力で個人特定が可能なので二重登録とかの心配が無いそうだ。
この文明レベルでもちゃんと個人を管理しているんだなとちょっと驚いた。
「じゃあこれで」
受け取った受付の人はその後すぐにステータスカードを何かの機械に入れたようだった。
「はい。ありがとうございます。」
戻ってきたステータスカードを見ると職業欄がFランク冒険者となっていた。
〈現在のステータスカードの表示〉
ケイタ・アキヅキ
Lv:5
種族:人間
性別:男性
年齢:22歳
職業:Fランク冒険者
更に、受付男性はそのまま冒険者ギルドの説明に入った。といっても特に常識から外れたようなことはない。
冒険者のランクとしてはF~Aそしてその上のSがあり、まずはFランクからのスタート。
F~Dランクは正当な理由無く1か月以上依頼を受けなければ冒険者資格のはく奪があり、その場合再度登録してFランクから再スタートとなる。
下位ランクは依頼にポイントが振ってあり、ポイント制でランクアップする。
依頼はランクに沿ってギルドが振り分けているが、基本どれを受けてもいい。ただし失敗した場合、違約金が発生するのであまり上位の依頼を受けるのはお勧めしない。
失敗があまりにも続くようならランクの降格やはく奪もある。
罪を犯した場合罪の重さによっては、永久除名となる。
怪我や死亡については自己責任。
冒険者同士のいざこざの際の取り決めについて。
等々……
「――以上が冒険者ギルドの規定です。」
なるほど。といっても最初は簡単な依頼から受けるつもりだ。依頼なんかを貼っているボードの位置を確認したのち、そちらに向かう。
一応ランクごとに依頼表を貼る場所が分けられているようでありがたい。
Fランクの依頼を確認するとほとんどが雑用か植物の採集の依頼だった。一つだけ討伐の依頼があったが「ゴブリン2匹の討伐依頼」とわりと簡単そうだった。
ただしどれも、依頼料が安い。最初なんだし当然だろうが、これだとFランクの収入で生活というのは厳しいだろう。
依頼料を確認していくが、ちゃんと生活していこうと思ったら、Dランク以上は必要か。
あと依頼掲示板の隣に小さめの掲示板があったので何かと思って見たらパーティー募集の紙が貼ってあった。
白の剣:求む魔法職
ダークフォース:ステータス20程度の前衛募集
などが貼ってあった。「白の剣」とかはパーティー名みたいだ。
まあこっちは特に今のところ必要ないか。
さて、まずは依頼を受ける前に武器を買っておかないと。なんせこの世界、ゲームのモンスターみたいなやつが、街の外を闊歩しているのだから。
◇◇◇
武器めっちゃ高かった。
教会からもらったお金は結構あったので、足りないということはないのだが、それでも買うのを躊躇してしまう金額だった。
ギルドで使用武器にショートソードと書いたが、買ったのは大振りのサバイバルナイフのようなものだ。あともう一つ、シャベルを買った。現代の戦争でも穴を掘ったり敵を撲殺したりできるマルチウエポンだ。
さて、まずやることがある。この街、できればこの国から出ることだ。
一応俺は教会から逃げるために一人旅立ったのだ。それにみんなにも旅をすると言っている。
となるとこの辺をうろちょろしているとまずいのではないか。
冒険者としての活動はその後だな。
というわけで聞き込みを開始する。
結果はすぐに出た。街と街をつなぐ乗合馬車というものがあるらしい。バスのようなものだろう。
早速乗合馬車のチケット売り場に向かう。
出発は明日の朝。日程は3日で国境近くの街に行くらしい。代金は大銀貨3枚、途中は野宿のため食料他野営の準備は各自でという事らしい。ただし、それで荷物が大きくなってもお金が別途ということはないらしい。
野営の準備は各自でということは純粋に馬車に乗るだけで大銀貨3枚ということだ。高くない? と思ったが、一応道中の護衛を雇ったりもしているのでそれぐらいの値段になるそうだ。
結果、その日は旅に必要な保存食と水筒他、野営時に寝床にするマントなどを買って、その後宿をとった。なお食事付という事だったが内容は値段の割にしょぼかった。