8話 実地訓練 3
すでにこの世界に来て2週間以上がたった。
皆、この世界の知識も順調に増えて行っており、魔物との戦いにも慣れてきた。
最初の方は日本に帰れないということで、暗い表情をしていた人もいたが、今ではあまりそう言うのは見ない。リオ教皇が魔王を倒せば帰れると匂わせたため、今では皆、魔王を倒して日本へ帰る。という目標に向けて頑張っている。現状それしか帰る方法が無いというのもあるが。といっても、リオ教皇は「前代勇者は帰ったと伝えられている」といっただけで、「帰れる」とは言っていないのだが。
特に東雲君や内田君なんかは正義感とそれを裏打ちする高いステータスで、むしろ積極的に動いている。最近では東雲君をリーダーとした『パーティー』が出来上がりつつある。といっても、一部男子――ぶっちゃけ、伊集院君と真田君はその状況をあまり面白がっていないようだが。
あと唯一の社会人女性である棚田さんも東雲君に熱っぽい視線を向けていたりする。
福田さんなんかは逆に現実的なのか『勇者パーティー』にあまりなじめていない感じがする。
俺もようやく今日レベル5まで上がった。といっても相変わらずステータスは低いままだが。
そろそろ戦闘にも慣れてきたということで、リオ教皇とアドレフ聖騎士長により明日一日を休みとし、明後日に『竜の巣』へと行くことになった。
といっても、『竜の巣』なんてたいそうな名前がついているが本当に竜がいるわけではない。なんでも昔竜が住んでいたということでそう言った名前がついているというだけだそうだ。今はワイバーンが住んでいるらしい。ワイバーンとは前肢が翼になったトカゲの事だ。それって竜じゃないのか? とも思ったが、全く違うものらしい。竜など出たらそれこそ国単位で対策をしないといけないが、ワイバーンなら手練れの戦士が3~5人もいれば討伐できるらしい。勿論、高いステータスを持つ『勇者とその仲間』ならば討伐は可能だろうということだ。ただ、今回の相手は今までと違って空を飛ぶのでそこが厄介なところだと教えられた。
◇◇◇
さて、どうしたものか。ワイバーンでも問題ないといっていたがそれは東雲君たち高レベルの者たちだ、俺は多分無理じゃないかと思う。
ケイタ・アキヅキ
Lv:5
種族:人間
性別:男性
年齢:22歳
職業:聖騎士
体力:24
魔力:14
攻撃力:19
防御力:19
魔法攻撃力:9
魔法防御力:19
素早さ:14
スキル:〈鑑定〉〈物体修復〉
以上が俺の現状だ。ステータスでは召喚時に一番低かった香川さんにすら追いつけていない。
本日は休みとのことだが、正直明日の事が気になって、それどころじゃない。といってもどうしようもない。じっとしていられなくて教会の敷地内をうろちょろしている。
ちょうど教会の裏手だろうか、結構気が生い茂っており、ちょっとした森林みたいになっているところに来た時に、ビュッ! と風を切る音がした。どこか人工的な音だったので気になって音の方に向かってみた。
そこは木の間隔が開いて少し開けたみたいになっている場所だった。そこで西条さんが素振りをしていた。手に持っているのはおそらく真剣だろう。なるほど剣を振る音だったのか。しかし綺麗だな。まったく剣がぶれない。まるで同じ場所を何度もなぞっているようだ。
少し離れた場所からじっと見ていると、ややあってから剣を下した。おや自主練終了かな。
「何か用ですか。」
……気づかれていたらしい。こっちを見ているわけではないが、俺にかけられた言葉だろう。仕方なく木陰から出て、西条さんに近づく。
「いや、特に用はないんだが……まあ、明日のことを考えるとじっとしてられなくて……」
「そうですか」
そう言うと、こちらを振り向きもせず気にかけてあったタオルを手に取り汗を拭き始める。
「……あー、自主練? すごいね。綺麗だったよ。」
「な、なな何を言っているんですか!」
西条さんがいきなりこちらを振り向き顔を赤くして怒鳴ってきた。なんだ?
「いや、ほんと。綺麗な素振りだったよ。まったくぶれてなかったし。」
「あ、ああ。」
なんだか一人で納得したように頷いている。
「……何もないようでしたら、私はもう行きますが」
「あ、ああ、邪魔したみたいで悪かったね」
「いえ、それでは」
そう言って、西条さんはその場を去って行った。
「ああいった努力が報われるんだろうな……」
なんか空しくなってきた。西条さんは高いステータスを持っていることに慢心せず自主練までしている。対して自分はどうしようとは思っても結局何もできていない。
「はぁ、戻るか」
結局そのまま何もせず部屋に戻って行った。