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7話 実地訓練 2

 『勇者』他レベルトップクラス勢はここ数日で、郊外の魔物では全くレベルが上がらなくなってきた。

 俺なんかはおそらくまだ上がるので、今のままでもいいのだが、やはり社会はそう甘くない。トップ勢に合わせて狩場を変えるらしい。


 ここにきてレベル格差が結構顕著になってきた。やはり前衛組はレベルが高く、後衛組は低い傾向にある。

 アドレフ聖騎士長他聖騎士の人たちはその辺を理解して、後衛組にも弱い魔物を誘導してくれているのだが、やはり限度がある。

 今の所、レベルトップは『勇者』こと東雲君、次点で『剣聖』の西条さん。逆に最下位は俺こと秋月で、ブービーで香川さんとなっている。後方支援と思われた『聖女』の泉川さんは以外にもトップグループの一歩後ろ程度と健闘中だ。

 俺以外の社会人勢はちょうど真ん中位と微妙な立ち位置になっている。



 そして連れて行かれた狩場で、皆戸惑っていた。別にくそ強いヤツがいきなり出てきたわけではない。少年漫画みたいに弱い敵から順々にという感じで、次のスーテジにランクアップしただけだ。ただ相手が悪い。

 相手はこれまた有名なゴブリンという二足歩行の魔物だ。顔や体格なんかは人間とは似ても似つかないが、それでも二足歩行というだけでどこか人間を連想するのだろう。

 皆顔をしかめて手を出そうとしない。


「どんな見た目だろうとこいつらは魔物だ! 躊躇すればやられるぞ!」


 アドレフ聖騎士長が皆に活を入れるとともに近づいていたゴブリンを3体ほど切り伏せる。


「そ、そうだ。僕はチートなんだ。こんなところで躓いてられない」


 そう言いながら、12人の中で一番初めに動き出したのは男子高校生の伊集院君だった。彼は小太りのオタクで、異世界のことについても結構いろいろと知識を持っていた。それが合っているかは確認しようがないが。

 以前、俺も多少アニメなどを見るので話も合うかもと思ったが、伊集院君はかなりディープなオタクだったので話すのを断念したことがある。

 そしてそれを見て真田君も走っていく。ただあれは後に続いたというわけではなく、伊集院君が突撃していくのを見て、出遅れた、と焦っているような感じだった。


「うりゃ!」


 掛け声とともに、自分よりも数回り背の小さいゴブリンに武器を振り下す。するとゴブリンはあっさりと真っ二つになった。


「な、なんだ。あっけないじゃないか」


 思ったよりもあっけなく相手が死んだので、拍子抜けしたのだろうか。すぐに、2体目に向かっていく。


「よし、僕らも行くぞ!」


 伊集院君と真田君を見て、多少迷いが解けたのだろうか、東雲君が続いて向かっていく。そしてそれに続くように一人、二人と魔物に攻撃を仕掛けていく。


 結局ゴブリンは大した敵ではなかった。他の人たちも2匹3匹と倒していくうちに慣れてきたのだろう、最初みたいに顔をしかめたりすることも少なくなってきた。ただ一部の人たちはまだやっぱり腰が引けているようだが。


 そしてゴブリンで慣れてきたら、二足歩行の豚みたいなオークや、同じく二足歩行の犬顔のコボルトなども相手にしていく。正直言ってレベルトップ勢にとってみれば強さ自体は大したことが無いので、慣れてしまえば特に問題なくなってしまった。すでに何人かにとっては作業ゲーの様相になりつつある。


 俺は、相手の攻撃に当たらないよう慎重に、位置取りをし丁寧に一匹ずつ仕留めていく。正直言って周りと比べればペースが遅い。ただ、俺は防御力も低いのだ。一発でも食らえばどうなるか分からない。さすがに試しに攻撃を食らってみるというほど余裕もない。他にも香川さんみたいな後衛でレベルの低い勢は比較的慎重に相手をしている。


「デカいのが出てきたな。よし! 次は連携の練習だ。後衛が魔法で足止めして前衛が攻撃するんだ!」


 え? 俺どうすんの、スキルは後衛なんだけど、魔法はあまり使えない。なので前衛に混ざるのか……


 そんなことを考えていると、アドレフ聖騎士長が言った『デカい奴』が出てきた。体長3メートルはあろうかというワニに似た魔物だ。


「魔法詠唱!」


 アドレフ聖騎士長の掛け声とともに、後衛組が魔法の詠唱を始める。そして、ワニの魔物がこちらに到達する前に魔法が完成し放たれる。


「グギャアァァァン!!」


 魔法の直撃を食らった魔物は悲鳴を上げながら足を止める。


「よし前衛かかれ! 後衛は回復の準備!」


 そして前衛組が魔物に取りつく。そして東雲君と西条さんがメインとなって、魔物を削っていく。結局魔物はろくな抵抗もできずそのまま倒された。


 その後も3体ほど大型の魔物相手に連携して倒すということをやって本日はお開きとなった。


◇◇◇



「最初はビビったけど、慣れたら余裕だったな」

「内田、そういう事は言うもんじゃないよ。いくら人間の天敵とはいえ僕たちは命のやり取りをしているんだ。」


 東雲君と内田君が話している。内田君はいかにもな体育会系で体つきもしっかりしている。話しているところを聞いただけだが、やはり格闘技なんかをやっていたらしい。ここに女子高校生の泉川さんと西条さんが加わった4人が高校でいつも一緒に行動する仲良しグループらしい。と、伊集院君が言っていたのを聞いた。「ああ、泉川さんやっぱりかわいいな。イケメン東雲死ねよ」と言っていたのも一緒に聞いてしまったが。


 俺も含めた社会人勢はあまり一緒に行動したりしない。おしゃべりなんかも少ない。やっぱりステータスで高校生に負けており年上だけという存在になっているからであろうか。あと、石田はともかく他の2人はまだ知り合ってから間もなく仲が良いわけでもないからというのもある。


 俺はステータスが低いので、少し居残りみたいな形で魔物と戦ってもいいかとアドレフ聖騎士長に確認したのだが、却下された。ステータスが低くても一応は『勇者の仲間』なので勝手に行動されるのは困るのだろう。結局、今もトップ勢とは差が開いていくばかりだ。正直、俺のステータスは『一般人よりは高い』といった程度のものでしかなくトップの東雲君と比べるとカスみたいなステータスだ。もう魔王を倒すのは東雲君他ステータスチート勢に任せて、俺はどこか商店や酒場で働いたほうが生産的なんじゃないだろうかと思ってしまう。


「あの、どうかしましたか?」


 おっと、色々と考えていたら声をかけられた。誰かと思って振り返ったら泉川さんだった。隣に西条さんもいた。


「え?」

「あ、いえ、何か暗そうな顔をしていたのでどうしたのかと思って」

「あ、ああ、ちょっとステータスの事でね。思ったように上がらないなぁと思って。まあ、仕方ないよね……ありがと、心配してくれて」

「あ、いえ」


 泉川さんが少し困った顔をする。他の悩みならともかくステータス関係などは、こちらに来て初めて知ったものであり、自分ではこの悩みは解決できないと思っているのだろう。まったくこんな会って間もない人をここまで心配してくれるなんていい子だなぁ。


「まぁ、そこは地道に上げていくしかないんじゃないかしら」


 そんなことを思っていたら、西条さんが口を開いた。この子は『剣聖』の称号を持っており、元の世界でも実家が道場か何かでまじめな子だと聞いた。確かに剣道や弓道をやっていそうな和風の美人といった感じだ。ただ、目元と口調がちょっとキツく感じる子だった。てっきり俺なんて興味ないと思っていたんだが。……泉川さんのついでで声をかけただけかな。


「ああ、そうだね。西条さんも心配してくれてありがとう」

「……特に心配しているわけではないわ」


 うん、キツイな。


「茜ちゃん、そう言う言い方は……」

「沙織、どうせ私たちにはどうもできないの。秋月さんの問題よ」


 茜は西条さんの、沙織は泉川さんの下の名前らしい。今思い出した。さすがに一回の自己紹介で全員のフルネームは覚えられない。


 結局2人はそのまま行ってしまった。一応泉川さんは去る時に会釈をしてくれたので返しておいたが。

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