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落ちる世界  作者: 掃本将大
声を聴いた
8/13



 少年達は僕の言葉に驚いたようで、動きを止めた。

 申し訳ない気持ちになった。少年達よ、は無いわ。どう考えても無いわ。変人というより不審者である。

 狐は僕の傍らをさまよっていた。それを見つけて少年達が近付いてきた。狐がいなかったら少年達は逃げ帰ってしまっていただろう。狐に感謝。いや、探してあげてるのはこっちなんだから、感謝されるのはこっちじゃないか?そんなくだらないことを考えていたら、少年の片方、130cmくらいのが話しかけてきた。

 

 「なあ、兄ちゃん!」

 よかった。どうやらまだおじさんと呼ばれないらしい。最近の若い子はどうにも不躾らしいから、この歳であっても心配だったのだ。うん、この子はとてもいい子だ。兄ちゃんと呼ばれ、少し機嫌をよくした僕は応える。

 「どうしたんだい?」

 「兄ちゃんって、不審者?」

 

 そうきたか。いや、確かに不審者っぽいかもしれないが、普通そんなことは不審者だと思う人に訊いたらアカンだろう。いい子かもしれないが、少々アホの子でもあったようだ。そう評価を付け加えて、兄ちゃんは不審者ではないと説明し、納得したかは分からないが、本題に入った。

 「最近、子狐を見かけなかったかい?」


 答えてくれたのは、アホの子でなく、もう一人の方。少し茶色がかった髪に、130cmに満たない身長、おっとりとした顔立ちの子供だった。ちなみにアホの子は黒髪、やんちゃ系だ。

 「知ってるよ、そのことなら」

 だそうだ。アホの子も頷いた。

 「その狐、きっと親だよね?連れてってあげようか?」

 居場所まで知ってるらしい。

 おっしゃ、見つけてやったぜ。僕はただ、嬉しくなった。あ、そうだ、と忘れていたことを思い出した。和泉さんに連絡をとらなければ。

 『子狐の居場所を知ってる少年達を見つけました』

 既読がつかなかった。きっと、探すのに集中しているのだろう。

 仕方ないので、僕と狐は少年達に連れてってもらうことにした。少年達はとても楽しそうに僕らを導いてくれた。なんだか、3人と1匹だけのマーチだと思った。アホの子がドラムメジャー、おっとりの子がラッパ、僕が小太鼓で、狐がマスコット?みたいな。和泉さんが居ればチアだろうか。とても似合うだろうな。なんてことを思ってた。

 名前の知らない川に沿う道を、名前の知らない少年達に先導されて歩いた。その道は木が覆い被さるようにしていた。緑のトンネルだ。もう太陽はサヨナラして、月と、街灯が僕らを照らした。少し冷たい風と川の流れる音が心地良かった。

 

 「だいぶ遅い時間だけど、大丈夫なの?」

 ふと疑問に思い、質問した。

 「時間なんて気にしてないよ!」

 アホの子から、答えらしくない答えが返ってきた。さすがだ。

 「君は?」

 おっとり君にも訊いたら、

 「僕も」

 だそうだ。


 僕が若い頃、といっても今もまだ十二分に若いと言われるだろうが、そうじゃない。僕が小学生の頃だ。さっき和泉さんと聞いた鐘を聞いたなら、できるだけ直ぐに家に帰ったのだが。6時半くらいまでなら許されていたが、7時に家に帰ろうものなら、母に怒られた。僕の母は声を荒げて怒るのではなく、静かに怒るタイプだった。何というかこう、空気が冷たいのだ。母の周囲の空気が。それが怖くて目安6時半には必ず帰っていた。懐かしい記憶だ。最近の若い子には門限なんてものは無いのかもしれない。僕は気にしないことにした。

 

 いつの間にか緑のトンネルを抜けていた。10分ぐらい歩いただろうか。少年達は目の前にあった、先ほど居た公園よりだいぶ大きな公園に走っていった。そして、こちらを振り返って手を振り、「兄ちゃん!こっちこっち!」「こっちだよー」と、僕を呼んだ。

 元気いっぱいな声だった。その声を聞いて僕は疲れていたのを思い出した。思えば、金曜日の学校帰りだ。疲れていてしょうがなかった。よく元気でいられるな、少年達よ。少しでいいから、おらに元気を分けてくれ。

 少年達の軽やかな足取りとは真逆の、重たい引きずるような歩きでどうやら子狐がいるらしい公園に踏み入った。学校からなんだかんだずっと背負っていたリュックサックを降ろしたいなと、切に願いながら。

 


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