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落ちる世界  作者: 掃本将大
声を聴いた
6/13



 鐘が鳴り終わるのを聞いて、

 「もう6時かぁ…」

 「まだ結構明るいのにね」

 「もう帰っちゃう?」

 「うーん、そうしようと思ってるよ」僕は返す。

 「何か予定でもあるの?」

 「いや、まあ、趣味でも嗜もうかと…」

 「趣味?」

 「うん、趣味」

 「趣味は何?」


 ちっ、言わないようにしてたのに。でも僕嘘つかない。

 「読書、マンガ、アニメ鑑賞」

 「じゃあ、急ぎで家に帰らねばならぬ訳ではないのだな?」

 「何故時代がかった言い回しになったのかはわからないけれど、まあ、そうですね」

 

 彼女は腕を組んで何か悩んでいるようだった。腕を組むその姿も美しいなと思った。丁度ミロのビーナスだかナンダカで、腕の失われたのが想像力を掻き立てられていいだなんて勉強をしていた。だけど、そんな腕の無い石像なんかより、腕を組む彼女の方が何百、何千倍美しい気がしてならなかった。陽の傾いて、顔に影をつくっているのもまた、美しく思えた。学校の制服も、太陽も、影も、全てが今この時の彼女の美しさのためにあるのだと錯覚する程彼女は美しかった。美しいがゲシュタルトしてきた。

 畏れ多かったが彼女の表情を窺った。悩んでいるようだった。目が動いていた。チラチラと狐を追っていた。

 

 って、まだ居たのね、狐。貴方ももう、巣に帰った方がいいんじゃない?僕は帰るよ?友人とはいえ、2人きりでいることに疲れたのだ。彼女と一緒に居る事が苦なのでは無い。寧ろ嬉しく思った。ただ、緊張して胃が限界だったのだ。ああ、同級生の少女と二人きりだなんて青春したな、などとふざけたことを考えながら僕は車体を家に向ける。

 

 「じゃあ、僕は帰るね」自転車に跨がり、「またね、和泉さん。さよなら」と、声をかけた。

 

 彼女は、まだ何か悩んでいるようだった。ただ僕が声をかけたその時、彼女は僕でなく、狐を見ていた。

 そして吹っ切れたように口を開いた。

 「ねえ!」

 

 ペダルを踏み込もうとしていた僕はつんのめった。彼女の方に向き直り、「…どうしたの?」と、訊いた。驚いた、とても。声が震えた。

 

 彼女はとても深刻な顔をしていた。

 そして、少し躊躇った後、また狐を見て、決心したらしい。「この子の子供を一緒に探してもらえないかな?」こう、言った。


 僕は戸惑った。

 「えっと…」

 「どうしたの?」

 「…どういうこと?」

 「この子の子供を一緒に探して欲しいなってことだよ」

 

 いや、まあ、うん。そうなんだろうけど。少し考え理解が進んだ。

 「この子って、この狐だよね?」

 「うん、そうだよ」

 「ってことは、この子の子供って、この狐の子供って事だよね?」

 「うん、そうだね」


 よし、順調に来ている。僕は無い頭で考えた。

 「もしかして、ペット?」

 「いや、違うよ?」

 否定された。


 僕が何か言おうとする前に、彼女は話し始めた。

 「さっきそこで会って…ってか、そんな事はどうでもいいんだよ。手伝ってくれるの?くれないの?どっちなんだいっ!?」

 「くーれーないっ!」僕は咄嗟に答えてしまった。いや反応してしまったといえる。


 少し間が空いた。間違い無く肌寒く感じる風が吹く。きっと3秒くらい。ただ、体感としてはとてつもなく永く思えた。引っかけが来たかぁ。やってしまったなぁ、死ね、僕。


 僕は慌てて言い訳をした。

 「いや、ごめん!手伝う!手伝わせて下さい!さっきのは、その…勢いでつい…」

 そう、彼女からのお願いを、僕なんかが断れるはずが無いのだ。断ろうものなら、僕の何かがどうにかなってしまう。いやもうどうにかなっている。やっちまってるんだから。嘆きたい。懺悔したい。

 

 彼女は、僕の答えを聞いて、

 「そうっ、ありがとうっ!」

 と、満足そうに微笑んだ。たった、それだけだった。でもそれは僕に向けられたものであり、今まで僕が見た彼女の中で一番に可愛らしいと思った。そんなに彼女を見ていた訳ではないが、少し大人びたような彼女の少し子供っぽい声を聴いてドキリとした。無論惚れた腫れたなんぞ、ある種の一般的なトラウマを持つ僕にはない。

 ただ僕は、それだけで報われたように思えた。


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