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落ちる世界  作者: 掃本将大
声を聴いた
5/13



 彼女は狐に話し掛けているようだ。狐は逃げる様子がなく、彼女はしゃがんで狐の目線に合わせている。狐の写真は諦めかけていた。だが、そこにいるなら是非とも収めたかった。


 僕が近づいても大丈夫だろうか?和泉さんなら、邪険にせず接してくれるかな?うん、邪険にせず接してくれるはずだ。友達だし、一応…思い切って話し掛ける。


 「こんにちは」

 「!!こんにちは」

 「ああ、ごめん。後ろから話し掛けて」

 「いや、大丈夫だよ。少し驚いただけだから」

 「そう?なら、よかった。学校帰り?」

 「っ、ああ、うん。途中に狐が居て、かわいいから、ちょっとお話ししてたんだぁ」

 「うんうん確かにかわいい。さっき羊丘通りで見かけて、写真撮ろうとしたら逃げちゃって……追いかけて来たんだ」

 「へえ、普通逃げたら諦めて帰っちゃわない?」

 「帰りが遅くなっても、うちの親は文句言わないし、妹に写真を見せてあげたかったからな」

 「え、シスコン?」

 「うーん…重度では無いがな」

 「ほぉ。なるほど、なるほど」

  

 この会話の最中、狐はその場にじっと座っていた。僕はスマホを取り出し写真を撮る。5、6枚撮って満足のいく写真があるのを確認しスマホをしまう。そのまま逃げてしまうと思ったが、彼、彼女?はそのまま座っていた。

 

 僕は狐を見ながら、もふもふしてんなあ。和泉さんも狐を見ながら、もふもふしてるね。

 二人で狐を見つめる。会話が途切れ、涼しいがこの時間帯だと少し寒く感じる風が吹く。さっきの教室より生徒の声が聞こえない分静かで、強い訳ではない、むしろ弱いといえる風の音が聞こえる。嗚呼なんてことだ僕の圧倒的会話力不足。何か、何か話しかけようと言葉を捻り出した。

 「触ったら……」

 和泉さんの声と被った。被ってしまった。

 可愛い女子だから、お話しした方が得だと思って、普段しないようなことをしたのが間違いだった。というか、和泉さん会話のプロだった。僕は川の流れに身を委ねるようにさえしておけばよかったのに。反省しないと…

 

 とりあえず謝罪。

 「ごめんっ。…えっと、やっぱ、ダメだよね?触ったら…」

 

 和泉さんは僕を見た後、振りかえって狐を見ながら、

 「そりゃあね。何か寄生虫とかいるかっ!!!」

 

 驚いた。じっと座っていた狐が、いきなり和泉さんに跳びかかったのだ。ちなみに僕との会話の中、彼女はずっとしゃがんだままだった。そのため彼女は狐に押し倒され、道に寝そべり、その上に狐が乗っかる体勢となった。狐は前脚で和泉さんの身体を小突いている。こう、チョンチョン、チョンチョンと。何やらコンコンと鳴いている。

 周囲に人はおらず、この奇妙な光景はこの世でただ一人に観察されることとなった。


 「大丈夫?」

 訊いてみたが聞こえなかったらしく、返事が返ってこない。落ち着いて見ると襲われているのでなく、じゃれているようだった。狐と戯れる彼女はとても無邪気で、可愛らしくて、ついまじまじと見てしまった。

  

 すると、「ごめん。ごめんって!」

 彼女は謝罪の言葉を口にした。しかし僕は、彼女がいったい何を謝っているのかわからない。狐は、最後に彼女の頭を小突き、その謝罪を聞き入れたように彼女から降りた。


 改めて訊いた。

 「大丈夫?」

 「ん?ああ、うん!」

 「あれは?ばい菌とか…」

 「それはいないらしいよ」

 「へ?なら大丈夫かな…?」

 「うん、大丈夫ー。よいしょっと。」


 彼女は答えるのと同時に立ち上がり、あー、制服が汚れちゃったよ、と言いながら自身の制服についた砂を払う。僕はただ、その光景に見蕩れるだけだった。彼女が砂を払い終えた時、僕は教室での話しが聞こえてしまったことの謝罪と、話題の為いろいろと彼女に尋ねようとした。しかし、なんとも古ぼけた、十数年しか生きていない僕でさえ懐かしく感じる鐘が、屋外で遊ぶ子供達に帰宅を促すため、鳴った。僕は気がそがれ開こうとした口を塞いだ。


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