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落ちる世界  作者: 掃本将大
声を聴いた
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声を聴いた 1


声を聴いた




 人生を自転車に喩えた偉人がいた。

 曰わく、『倒れないようにするには、走らなければならない』そうだ。

 

 上手い事言うなぁ。と素直に感心した。

 でも、でもね?もし、この偉人に会えるなら、一つ、こう付け加えたらどうでしょう?と、提案してみたいんだ。些事だと言われるのだろうが。


 ”自転車は手入れが必要だから、それを怠れば動けなくなってしまう。気をつけなさい”

 

 どうだろう?

 そんな事どうでもいいって?並べるのも烏滸がましい?

 そりゃあそうだ。彼は凄い業績をたくさんあげている。僕は何もこの世界に貢献していない。

 

 ただ、実際に自転車をこぐ僕は、自分で自分のこの言葉が大切なように思えてならないのだ。

───────────────


 僕の今の状況を説明しよう。


 狐を追って知らぬ道に入った。狐を見失った。迷子になった。狐って、足速いのね。以上。今迷子。


 まあこれはこれでいいかと、そう思い自転車を降りてその道を探検した。迷子は慣れていたのでね、焦りは無いさ。

 

 初めて見る景色に少し感動しながら歩く。周りを見れば初めて見るものばかり。感動しない方がオカシイ。

 周りは住宅が連なり、車の少ない道だった。どこからかカレーの匂いがした。今日はカレーの金曜日か、なんて思った。そんな風に思ったからか、カレーが食いたくなってきた。匂いだけで、食いたくなるなんて、さすがカレーの魔力だ。あの老若男女を魅了する色香を放つ、蠱惑的で永久に飲めてしまいそうなルー。白く照り輝く、人々の鼻腔をくすぐるような甘い香りを漂わす米。此処に存在しないのが、愛おしいを通り越して憎らしい。

 嗚呼、ナンという事だろう。カレーだけでなく、焔の燃え上がるような情熱の赤をして皆を惹きつけてやまない福神漬、その絶妙な完成されたフォルムと独特な噛心地で皆を擒にする辣韮とも恋しく、愛おしく、憎らしくなってきた。

 噫、いったいこの気持ちは何処にぶつければよいのだ!?


 すぅ、はぁ。少し落ち着こう。

 今追いかけている狐を思った。浮気ダメ絶対。そうだ、今はカレーより狐だモフモフだ。狐を探そう。いや、必ず探し出してみせる!

 僕は決意した。必ず、かのモフモフの狐を撮影してみせると決意した。僕は帰り道がわからぬ。僕は高校の生徒である。本を読み、一人孤独に過ごしてきた。けれどもモフモフに対しては、人一倍に敏感であった。


 全然全く落ち着いてなかった、疲れてた為だろう。


 周りに注意を払いながら少し歩いた。そして気がついた。自転車を押すのが妙にぎこちない。見ると前輪がパンクしていた。よくこれで走ってたな、僕。今になって思えば、1週間ぐらい前からペダルを踏むのが妙に重かった。ああ、これで帰宅するのは大変だな…家に帰ったら報告しないと、面倒だな…


 一気にブルーになった気分と対抗してか、お空の色は橙に染まっていた。時計を見たらもう、6時近い。

 狐はもう見つからないと諦めた。さっきの決意なんかもうどうでもよかった。かのモフモフより家の毛布で疲れを癒やしたい。万歳、毛布万歳。まあ、その辺に見かけたら、写真を撮ってやっても構わないけどな!誰得のツンデレだろうか。疲れているのがよくわかる。

 

 帰り道を探して徘徊すると見知った道に出た。そこに狐はいた。案外アッサリ見つかって拍子抜けだ。ただ、狐は1人ではなかった。狐は少女と向き合っていた。

 少女はこちらに背を向けていたが、 体格と、肩の辺りで切り揃えた髪、うちの学校の制服から少女とわかった。

 きっと僕の知らない人だろうと思った。分母、全校生徒900に対して、僕の知り合いは10そこら。心が痛い、割合が物語っている。知らない人と関わるのがめんどうだった。いや、正直いうと怖かった。

 狐の写真は諦め、家に帰ろうと自転車を帰路へ向けた、その時だった。

 

 声が聞こえた。

 

 凛と透き通るような、美しい声だった。状況的に少女が発したのだろうその声に聞き覚えがあった。僕の悲しい割合からまさかと思ったが、そう、僕の数少ない友人の一人。つい一時間程前、教室で話しを盗み聞きしてしまった和泉涼の声だった。


 

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