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落ちる世界  作者: 掃本将大
声を聴いた
12/13



 僕の帰り道についての詳細は省かせてもらおう。あまり面白いものでは無かったからな。

 いや、確かに普段は自転車で瞬く間に過ぎる景色を歩いて眺めるのは新鮮であった。窓から顔を出すマネキンやら、mookと書かれた看板の本屋やら、どうして気づかなかったのか不思議に思うのがたくさんあった。だが、やはり狐の件が今日のトップの出来事であり、比べてしまうとイマイチなのだ。

 

 ということで、普段の倍以上の時間をかけ、やっとこさ家に辿り着いた。嵐を呼ぶ幼稚園児の番組も、黒いサングラスのカッコいい音楽番組もとっくのとうに終わっていた。そんな時間になってしまっていた。車が無かったので父は帰ってきていないようだった。自転車を置いて家のドアを開けた。鍵は開いていた。懐かしいがどこか違うカレーの匂いが漂った。「ただいまー」僕が言うと母が出てきて、「お風呂洗って」と僕に頼んだ。いろいろと疲れていたが、僕の家庭は年功序列。断ろうなら僕の晩ご飯は無いだろう。こんな時間までお風呂に入らなかったのは何故か、いったい我が妹達は何をしていたのか、ってか「おかえりー」も言わないで息子にそれを頼むのか、そんな疑問が浮かんだが、投げやりになって了承の返事をした。


 玄関にリュックサックを置いた。手洗いより先に風呂の掃除を済ませて、スイッチを押してお湯を入れた。心の底から便利に思った。後、手洗い、うがい。ガラガラー、ペッ。


 キッチンに入り、皿を準備し、炊飯器から米をよそい、鍋からお玉でルーをかけた。そしてリビングへ移動。母と妹達はご飯は済ませていたらしく、僕一人での晩ご飯となった。まあ、ソファには母が寝転がってテレビを見ているのだが。

 ドアを開けた時に分かったが、やはりカレーだった。ただし福神漬けも辣韮もないというヒドい事態で、此処にいない彼らを憎んだ。泣く泣くキムチを代わりにした。カレーも辛かったので、それはそれは飲み物がすすんだ。僕のお腹がちゃぷんと音をたてるまで飲み食いした。

 食器を流しへ持って行き、洗った。流しには何に使ったのか数枚の皿と包丁、俎があった。が、自分の分だけ洗って終えた。なにしろ疲れていたから。

 丁度皿を拭いて棚に戻した時、軽快な音楽と「お風呂がわきました」の声が聞こえた。その美しい電気の声に導かれ、僕は脱衣所へと向かった。「お風呂入るねー」と宣言し、服を脱いだ。鏡を見るとお腹が膨れていた。ちゃぷん。気にせず僕は風呂場に入った。体を洗うのはそこそこに浴槽へ収まった。

 

 えもいわれぬ、えもいわれぬ。僕の楽園が其処にあった。


 いい感じに汗をかき始めた頃、玄関からドアの開く音がした。どうやら父が帰ってきたらしい。「ただいまー」と声が聞こえた。それから4、5分してあがった。バスタオルで身体を拭くが、臭い、随分と洗っていないようだった。しょうがないので、大ざっぱに済ませた。服が身体にへばりついて気持ち悪かった。


 風呂上がりの牛乳を楽しむべくキッチンに足を踏み入れた。そこで僕は父と遭遇した。

 「おかえり」

 「ただいま」

 そして僕は冷蔵庫に手を伸ばし、風呂上がりの牛乳という至福の時間を過ごそうとした。しかし、「おい」父のお小言の始まり始まり。

 「おい、リビングに掃除機かけていないだろう。後、流しに皿が残っているのはなんなんだ?コンロの上にも使いっぱなしのフライパンがあるし、流しの排水口のトコロにゴミが詰まっている。テーブルの上も汚いし、洗濯物も持っていっていない。玄関の靴もしまってないし、誰も何もやっていないじゃないか!それにだな……」

 限りなく長いのでここから先は聞き流した。

 心の中で、靴を出しっぱにしているのは僕じゃないし、洗濯物を持っていっていないのも僕じゃないと文句を言う。口に出すとさらに長くなるので言わないが。


 「……あと、お前はいつまで鞄を玄関に置いているんだ?早く片付けろ!」

 おおっと、それは失敬失敬。

 丁度いいので、玄関のリュックサックを背負い二階の自室に逃げ込んだ。しかしすぐに喉に渇きを覚え、風呂上がりの牛乳がダメになったのを思い出し、悲しくなった。


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