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落ちる世界  作者: 掃本将大
声を聴いた
1/13

プロローグ 1

プロローグ



 和泉涼はリア充だ。


 彼女の髪はまさに、現代の女子高生です、と主張するような明るい茶色で、肩で切りそろえられたセミロング。

 少し切れ長で、気の強そうに見える目だが、キュッと下を向く楚々とした鼻、ふっくらとした唇が印象を和らげ、シャープな輪郭と相まって、凛々しい顔立ちの美人さんだ。


 身長は160cm半ば。胸は慎ましいが、無いという程ではなく、スタイルも、まあ申し分ない。


 誰もが振り向くその美しい造形に加え、運動神経抜群、学業も上の中辺りと、高スペックな人間であった。また、会話術にも優れていた。

 恋愛歴はないらしく、部活には所属していない。

 しかし、友人は多く、同学年なら、ほとんど友人と言っても過言ではなかった。


 友人の「少ない」僕にとっても、彼女は友人であった。


 まあ、彼女にとって僕は、数多くいる友人の一人に過ぎなく、多分、卒業してしまえば、彼女は僕の顔も、名前も、さっぱりと忘れてしまうのだ。


 そして、僕もきっとそうだ。

 別に、僕は彼女の人生に深く関わる気は無かった。

 ただ、級友としてのみ、接するつもりだった。それを薄情などと思う輩はいないであろう。


 そんな彼女は、前から二つ目、窓際から三つ目の席で今日も楽しそうに友人と談笑していた。


 ちなみに、僕の席は一番窓際の一番後ろ。くじで見事引き当てた。思わずガッツポーズをとったよ。


 風が涼しいこの席は、とても快適であった。ただそれは、今が春と夏の境であった上、この地域には梅雨が存在しないから言えるのだった。

 冬のこの席はハズレだ。雪がたくさん降るのはよいのだ。問題はそこでは無かった。ストーブ、それが問題だった。温度調節がままならず、その周りはとても暑いのだ。冬だというのに!

 その上、型が古いためか五月蠅い。授業中であっても、ガタッ、ゴトッと音をたて、とても集中しづらいのだ。やっかましい。とてもやかましい。

 この時期にここを引き当てるのがどれほど幸運か、わかってもらえたろうか?

 

 話しが変わるが、今日は掃除当番だった。黒板を担当した。が、服に粉がついてしまった。仕方がない事なのはわかっているのだが、気が沈んだ。

 しかも、じゃんけんに負け、5階の教室から1階のゴミ捨て場へとゴミを運ぶこととなった。ゴミを捨てた後は、ゴミ箱を戻すため階段を上らねばならなかった、1階から5階まで。


 そんな感じで疲れ、また5階から1階まで下るのが億劫だった。

 それで1階の図書室でなく、自分の席で読書していた。

 ただ、集中が切れてしまい、少し目を休ませていた。すると、意識してか、しなくてか、彼女達の会話が耳に入ってきた。


「えっ、今日も呼び出されたの!?誰!?誰!!?」

「いや……まだ中見てなくて……」

「えっ!中見たい!!見せて!!」

「私は構わないけど、相手方に失礼じゃない?」

「いいじゃん!毎度の事だし!!」

 前述していなかったが、彼女はモテる。

 異性にも同性にも。

 つまりこの会話は、彼女が恋文を貰い、友人と相談しているのだとわかった。


「あっ、結石君じゃん!背ぇ高くてカッコいいし、いいんじゃない!?」

「えっと……」

「あ、、やっぱり誰とも付き合う気ないのね……」

「いやっ!ただ、学業がどうしても、ね?」

「いいじゃん!涼、優秀なんだし」

「入りたい学校が学校だから、もっと頑張らないといけないんだよ…」

「うーん…そんなもんなの?」

「うん!私にとって今は、恋愛より学業なのだよ!!」

「大変だね……ってか、涼も律儀だよねぇ。ちゃんと会ってから断るなんて」

「いや、まあ、一応好いてくれてる?訳だし?礼儀として?」

「そういえば、L○NEで告ってきた人でもキチッと会ってから断ってるよね」

「ああ…L○NEで告る人は、そういう大事な事は面と向かって言いなさい!って思うけど、会ってみないとわからないことも多いし」

「ああ…まあ、確かにね…あっ! もうすぐ5時じゃん!呼び出しの時間!!」

「あっ!ホントだ!行かないと!」

「待ってた方がいい?」

「いや、先帰ってていいよ」

「おっけい!わかった。後でいろいろ聞かせてね!」

「いやいや、なんも無いって…んじゃ、私は行ってくるわ。また月曜日ね!」

「うんっ、また月曜日!」

 二人が教室から出ていった。

 教室は僕一人になった。


 彼女達の会話を最後まで聞いてしまった。その事になんだか罪悪感を感じた。


 まあ、聞いてしまったものは仕方ない、そう割り切った。

 別に大した事でなかったようだし…

 ただ、反省はしていた。


 時計を見た。

 午後5時、3分前。


 まだ太陽は傾かないようで、校庭から生徒の声が聞こえた。野球部の野太い声だ。元気でよろしいと思いつつ、手元の本が修羅場だったのを思い出し、本に意識を落とした。


 


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