とりあえずフラグだけ立てときますね。
「ずっと前から好き、でした。私と、付き合って、下さい。」
真っ白に雪化粧をした街並みとは対照的に顔を赤らめながら少女は言った。
ついに来てしまったこの瞬間。
想像してたよりはるかに胸が苦しい。
鼓動を高める心臓を抑えつけ、声を絞り出す。
「俺は…………………」
「はぁ。」
4月の上旬、桜舞い散る通りを歩きながら溜め息を吐いた。
「どうしたんだ、雅?」
隣を歩く幼馴染の高見 健が能天気な声で聞いていた。
「お前は知らないかもしれんが、俺は今日の新入生代表挨拶の担当になってるんだよ……。」
「マジかよ!?流石は成績優秀者だなっ!」
「お前は俺が人前で喋ることを苦手としていることを知った上で言ってるんだよな!?」
「ああ、そうだ。お前の慌てふためく姿を想像するだけで笑えてくるぜ。クスクス……。」
「もうほっとけよ…。」
今日は私立桜坂高校の入学式だ。
割と偏差値も高めで、愛知県内の高校の中でも進学校にランク付けされている。
学校の名前からも分かるように、学校までの通りには桜が多く植えられていて、入学式の時期あたりには桜吹雪が舞う。
「だいたいなんで点数がちょっと良かったぐらいで挨拶なんてせねばならんの
だ。俺より高得点で入学した奴なんて多く居ただろうに。」
「ルックス重視したんだろ?お前まあまあ顔整ってるし。あまり爽やかじゃないけど……。」
「うるせぇよ…。最後のは余分だ。」
そしてこれが進学校の代表生徒として選ばれた清宮 雅の実態である。
長めの黒髪に黒い瞳、あどけなさを残してはいるが整った顔立ちをしている成績優秀な高校1年生。
これだけ聞くと好印象を誰もが持つかもしれない。
しかし、性格が何処となく素っ気なかったり、面白味がない人間という感じを醸し出している。
現に中学校の時も部活には入っていないし、ましてや恋愛など完璧にアウトオブ眼中という始末だった。
「校舎見えてきたぞ。」
「ヤバイ、マジで緊張してきた。」
周りを歩く新入生の数もいつの間にかかなり多くなっていた。もう校舎まで1分といったところだろう。
「クラス同じだといいな。」
「そうだな。」
「可愛い子いるかな?」
「さあ?俺興味ないわ。」
「お前、ずっと恋愛経験0を突き通すつもりか?このままだと将来困るぞ…。」
「だからもうほっとけよ……。」
程なくして高校に着いた。
「校舎高けぇ…。何階建てだコレ?」
「3…いや4階建てか?中学校よりも一階多いな。」
「なんか高校生って感じしてきたな!」
「そうだな。」
早速クラスの張り出しを確認。
「クラスは……B組か。健は?」
「I組だった。」
「…………分かれたな。」
「…………そうだな。」
「……じゃあまた帰りな。」
「ああ……。」
これはマズイことになった。
何がマズイかって?
それは…
「あ、それとその、なんだ。お前の頭脳と顔立ちなら多分大丈夫だと思うけど…くれぐれも無理はするなよ。」
「お、おう。」
とまぁ健が言うように俺にはコミュ力がない。断言する。
なんだかんだ健と一緒のクラスな気がするなぁ~とか思ってた俺が馬鹿だった。
ヤバイ、マジでどうしよう……。
しかも健のクラスと棟も違うとか俺はどんだけ神に嫌われてるんだよマジで。
1年生の棟は二棟あり、A~Dまでは一棟E~Iは二棟という風に分かれている。
校舎はその二棟だけで、敷地内には体育館、運動場、部活棟、部活用のコートなどがある。中学校の1.5倍は敷地がありそうだ。入試で来た以来だが相変わらず広く感じる。
「とりあえず教室行くか。」
教室に着くとほぼほぼ全員揃っていた。
席について先生が来るのを待つ。
ところどころで話す声が聞こえる。
親しげに話しているところを見ると同じ中学校だった者同士なのだろう。
それでも教室の中の多くの人は口を閉ざしている。まだ初対面で緊張しているようだ。…俺もだけど。
数分するとチャイムが鳴り、担任と思われる人が移動の合図をしに来た。クラスメート達が廊下に並びだす。
「あと清宮くんはいますか?」
「はい、俺です。」
「代表生徒挨拶宜しくお願いします。」
「わかってます。」
さて、いっちょやりますか。
「本日は私たち新入生の為にこのような盛大な式を催して頂きありがとうございます。桜舞い散る、入学式にはぴったりの…………」
入学式は順調に進行。
「……。以上をもちまして新入生挨拶とさせていただきます。」
ありきたりな挨拶だったものの、盛大な拍手を貰えた。
(ふぅ~、終わった終わった。)
「以上をもちまして、入学式を終了いたします。生徒の皆さんは先生の指示に従って教室に戻ってください。」
その後の時間は軽くクラスメート同士自己紹介、今後の予定の連絡などにあてられた。連絡先などの交換も想像以上にすんなりと終わった。
下校時刻になり帰途につく。
すると後ろから健が追っかけてきた。
「てっきり待っててくれてるものと考えてた俺がバカだったよ……。」
「そんな約束したっけか?」
「『また帰りな』って言ったし、お前も『おう』って言った。」
「……あ~。悪い。その後のことで頭がいっぱいだったわ。」
「で、結局大丈夫だったのか?」
「連絡先を20人くらいと交換した。」
「おお。お前にしては上等過ぎるな。」
「フッ。造作もない。」
「まぁ俺はクラスメートほぼ全員と交換したけどな!」
「お前のコミュ力に追いつける気がしないんだが……。」
かくて、性格残念系男子、清宮 雅の高校デビューは無事終わったのだった。