第六十九話 超空の要塞ヲ撃破セヨ後編
オアフ島に駐留していた塚原中将の第一機動艦隊は内地からの緊急電を受けて、ハワイを出撃して一路シアトルへと向かっていた。
―――空母赤城―――
「塚原長官」
赤城の上部飛行甲板で前方の海を眺めていた塚原を草鹿参謀長が声をかけた。
「ん?どうした草鹿?」
「シアトルまで後一日となりました」
「そうか。敵偵察機の接触は?」
「それが全くありません」
草鹿の報告に塚原は苦笑する。
「奴さんら安心しているみたいだな」
ええと草鹿が頷く。
「輪形陣を強化させろ。対潜哨戒も忘れるなよ?それと各空母に連絡だ。烈風の一個中隊をいつでも飛べるようにしとくんだ」
「了解ッ!!」
草鹿は敬礼して艦橋に戻る。
そして塚原は再び前方の海を眺め始めた。
「何をしているの?」
塚原が振り向くと赤城がいた。
「何だ、赤城か。どうした?」
「なんか前方の海に黄昏れている中年男性がいたからね」
「黄昏れてるのかよ……」
塚原が苦笑する。
「いやなに、日本は強いなぁと思ってな」
「はい?」
赤城は頭の上に?マークを浮かべながら首を傾げる。
「俺は本来なら中国で片腕切断の重傷、赤城はミッドウェイで戦死なのに生きてここにいるからな」
「塚原……。現実逃避は止めたほうがいいわよ」
赤城がはぁとため息をつく。
「だってな〜、最近書類が増えたからな〜」
塚原が『の』の字を書く。艦艇の捕獲等で書類が増えたのだ。
「……真珠湾攻撃時の威厳は何処に行ったのよ……」
赤城は呆れた。
「しかし……呆れるのは米軍ね。カタリナとは一回も接触してないし」
「あぁ、それは俺もそう思う。多分ロサンゼルスやサンディエゴ等に兵力を集中しているのだろう」
実際、航空隊はいるのだが、ほとんどがヒヨコに近い状態である。
「ま、明日が勝負だ」
塚原は背伸びをすると艦橋に戻った。
赤城は帰っていく塚原にクスリと笑って転移した。
―――翌日の明朝―――
「攻撃目標はシアトルのB―29を製造しているボーイング社工場やッ!!」
赤城の待機所で攻撃隊総隊長の淵田大佐が搭乗員達に訓示をしている。
「よしッ!!全員搭乗ッ!!」
搭乗員達は一斉に、愛機に向かって駆け出した。
ブオォォォーーーッ!!
烈風と流星改のプロペラが勇ましく回っている。
そして、発着艦指揮所から青い旗が振られた。
『全機発艦セヨ』の合図だ。
赤城では、制空隊隊長の板谷茂中佐機が勢いよく飛行甲板を走り、発艦していく。
そこへ二番機、三番機が発艦する。
第一機動艦隊から発艦するのは、第一波攻撃隊としての赤城、加賀、天城、土佐の四百三十二機だ。
第二波として幻龍、飛鷹、炎龍、雲龍、風龍から二百四十機が発艦する予定だ。
第一波攻撃隊を赤城の艦橋で塚原達が見送る。
「草鹿」
塚原が草鹿参謀長を呼んだ。
「どうしました?」
「第二波攻撃隊の出撃時間を早める。第一波が水平線に消えてから三分後に発艦しろ」
「分かりましたッ!!」
参謀達が慌ただしく動き出す。
「どうゆうつもり?」
いつの間にか塚原の傍に赤城がいた。
「杞憂であればいいのだが……嫌な感じがするんだよ」
「……嫌な感じって?」
「う〜ん。言葉では伝えにくいが、俺の中の信号が伝えてくるんだ。危ないってな」
「まぁ、塚原の事だから何時もの事だと思うわよ」
赤城が言った瞬間、電探員がスピーカーを通して報告してきた。
『前方右四十度に反応あり。おそらく偵察機かと思われます』
「……ほらな」
「………はぁ」
赤城は深いため息を吐いた。
―――攻撃隊―――
「もうすぐシアトルやな」
攻撃隊総隊長の淵田大佐が三座の流星改の機長席で呟く。
「総隊長ッ!!右四十度に敵機ですッ!!」
後部座席にいる水木一飛曹が報告する。
「板谷。敵機やッ!!全機叩き落としたれッ!!」
『任して下さいッ!!』
板谷は制空隊を率いて敵戦闘機に向かう。
「行くぞッ!!」
たちまち格闘戦に縺れ込んだ。
だが、相手は旧式のP―36、P―40、F4Fといった混成約四十機である。
瞬く間に烈風に後ろを取られて二十五ミリ機銃弾を撃ち込まれて落ちていく。
「烈風は強いなぁ」
機長席で淵田が呟く。
「総隊長見えましたッ!!ボーイング社工場ですッ!!」
操縦席にいた松崎大尉が伝声管で淵田に知らせた。
淵田が見ると、確かにボーイング社工場があった。
その隣には滑走路があり、数十機の出来立てほやほやのB―29がいた。
「水木ッ!!『トツレ』やッ!!」
水木が突撃態勢を作れの意味であるトツレを打つ。
流星改艦爆隊が上昇する。
流星改艦攻隊は中隊ずつ組む。
「全機突撃やッ!!いてまえッ!!」
水木がト連装を送る。
流星改艦爆隊は高度三千からの急降下爆撃を敢行。
関衛中佐率いる艦爆隊が狙ったのは滑走路にいた数十機のB―29だ。
「撃ェェェーーーッ!!」
ヒュウゥゥーーーッ!!
関機から放たれた五百キロ爆弾は見事にB―29に当たり爆発四散する。
グワアァァーーンッ!!
グワアァァーーンッ!!
数十機のB―29が木っ端みじんになっていく。
「よっしゃッ!!どんどんやれやッ!!水木。赤城に打電やッ!!爆撃は成功やッ!!」
工場と滑走路は次々と破壊されていく。
攻撃はまだまだ続く。
一方、第一機動艦隊も爆撃にさらされていた。
―――空母赤城―――
「取り舵二十ッ!!」
赤城艦長の貝塚大佐が伝声管に怒鳴る。
『取り舵二十、ヨーソローッ!!』
ググウゥッと赤城の艦体が右に傾く。
ヒュウゥゥーーーッ!!
ズシュウゥゥーーンッ!!
ズシュウゥゥーーンッ!!
「貝塚君はうまいな」
「そうですね。私が赤城の艦長の時よりうまいです」
赤城の艦橋で塚原と草鹿が話している。
そこへ通信兵が艦橋に入ってきた。
「淵田総隊長より入電ッ!!『ボーイング社工場ハ目下炎上中ナリ』ですッ!!」
「そうか。なら早いとこ邪魔者は片付けようか」
「右舷よりアベンチャー雷撃機四機接近ッ!!」
「撃てェェェッ!!」
ダダダダダダダダッ!!
ボゥッ!!
アベンチャーの一機が炎に包まれる。
「敵機魚雷投下ッ!!」
「取り舵二十ッ!!」
再び赤城の艦体が傾く。
「魚雷避けましたッ!!」
艦橋内の空気が暖かくなったその時である。
「敵機ィィィ急降下ァァァ直上ォォォーーーッ!!!」
「ッ!!」
貝塚艦長が見上げた時、艦上爆撃機ヘルダイバー二機が爆弾アームを伸ばしていた。
「取り舵二十ッ!!」
ヒュウゥゥーーーッ!!
「駄目ですッ!!間に合いませんッ!!」
「クッ!!総員何かに掴まれーーーッ!!」
防空指揮所にいた赤城も手摺りに掴まる。
ズガアァァーーンッ!!
ズガアァァーーンッ!!
「グアアアアァァァァァァァッ!!」
赤城の体から血がほとばしる。
爆弾は二発命中した。
一発は後部飛行甲板。もう一発は艦橋のすぐ側に命中していた。
「敵雷撃機魚雷投下ッ!!」
シャアァァーーーッ!!
ズシュウゥゥーーンッ!!
ズシュウゥゥーーンッ!!
「ガアアァァッ!!」
赤城は脇腹を押さえる。
「消火急げェェェーーーッ!!」
爆弾の破片が命中したのか貝塚艦長は右肩を押さえながら指示を出す。
一方、艦橋内でも負傷者がいた。
「うぅ…塚原長官。大丈夫ですか?」
頭から血を少し流している草鹿がよろよろと立ち、塚原を探す。
「長官ッ!!」
草鹿の目に飛び込んだのは左腕が今にもちぎれそうで倒れている塚原だった。
「衛生兵ェェェーーーッ!!」
草鹿は思わず叫んだ。
「グウゥ……」
塚原は右手を使ってなんとか立ち上がる。
「長官。無理はやめて下さいッ!!」
「なに、俺は大丈夫だ。……ムンッ!!」
ブチィッと塚原は左腕をちぎり取った。
「……やはりこの左腕が無くなるのは運命だったか……」
「長官……」
塚原が取れた左腕を見つめる。
「……草鹿。艦隊の指揮を一時お前に任す。頼んだぞ」
そこへ衛生兵が艦橋に入り、塚原を医務室に運んだ。
「敵の攻撃は止んだな。艦艇の被害は?」
今まで出番が全くなかった源田実大佐が報告する。
「戦艦比叡が爆弾三発を受けて中破。他にも損傷艦は七隻ですが、沈没の恐れはありません」
「分かった。輪形陣を崩すな。攻撃隊はどうした?」
「既に第二波も攻撃中です。第一波は帰投中です」
一時間半後、第一波は第一機動艦隊に帰還した。
収容作業中に塚原が艦橋に戻ってきた。
「長官ッ!!よろしいのですか?」
「あぁ。なんとかな」
塚原の左腕はもうない。
「塚原……」
頭に包帯を巻いた赤城は目をうるうるとさせ、塚原を見詰める。
「なぁに、大丈夫さ」
塚原は苦笑して赤城の頭をくしゃくしゃにして赤城を励ます。
その後、第二波も収容したが敵は一向に攻めてくる気配はなかった。
実は、米軍は西海岸の航空部隊のほとんどはロサンジェルスやサンディエゴ等集中配備していた。
そのため第一機動艦隊に向かった攻撃隊約百五十機が限界だったのだ。
「まぁ何にせよ、全艦に伝えろ。これより第一機動艦隊はハワイに帰還する」
一分後、第一機動艦隊は一斉回頭してハワイに帰還した。
余談だが、塚原は内地でしばらく療養生活が余儀なくされ、代わりに第二機動艦隊参謀長の角田覚治中将が第一機動艦隊司令長官に任命された。
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