第六十話 カルカッタを攻撃セヨ
学校でメシ食いながらの投稿です。
辻の反乱から二ヶ月後の43年の十月十日。
小沢治三郎中将率いる第三機動艦隊はカルカッタ沖約五百キロにいた。
―――旗艦大鳳―――
「小沢長官」
小沢は参謀長の福留繁少将の呼ぶ声に振り返る。
「どうした参謀長?」
「はい。先程、上陸船団がハリケーンから脱出したとのことです」
「ふむ、被害は?」
「海上護衛隊の護衛駆逐艦二隻が波を喰らって大破。二隻はセイロン島に帰投中です」
「そうか…」
小沢はフゥっとため息をついた。
「しかし長官。上陸船団に想定外が起きました。攻撃隊はやはり明日にしましょう」
福留の言葉に小沢は黙る。本来の作戦なら第三機動艦隊は上陸船団ととも沖合五百キロにいないといけないが、上陸船団の進む方向に小さいハリケーンが起きていたのだ。
そのために福留は明日への攻撃を延期を具申したのだ。
「………」
「小沢長官。攻撃はやはり明日に延期しましょう」
なおも福留は小沢に具申する。
「……いや、攻撃隊は発進させる」
小沢はそう呟くと時計を見た。時刻は午後三時を回ったところだ。
「し、しかし長官ッ!!」
「参謀長ッ!!」
防空指揮所に小沢の怒号が響く。上空を見張っていた見張り員も思わず小沢を見た。
「参謀長。我々第三機動艦隊の搭乗員は真珠湾攻撃時並の技量を持っている。夜間飛行も行ける。薄暮攻撃も出来る。何が問題だ?」
「…………」
福留もそこまで言われてしまってはグゥの音も出ない。
「…別に参謀長を責めてるのではない。カルカッタには敵戦闘機が約二千機もいるのだ。我が基地航空隊が連日カルカッタを空襲しているが敵の被害は分からん。おそらく少々の被害だ。……ならッ!!敵が油断しまくっている夕方辺りに攻撃をするのが適切だッ! 」
小沢はそこまで言うと下の飛行甲板を見た。
飛行甲板には今か今かと待ち構えている搭乗員達がいる。
小沢はニヤッと笑い、搭乗員達に向かって思いっきり叫んだ。
「行くぞォォォォォーーーッ!!!攻撃隊全機発艦ッ!!目標敵航空隊の殲滅だァァァァァァァァーーーーーッ!!!」
『ウオオォォォォーーーーーッ!!!』
搭乗員達は雄叫びを挙げて、愛機に駆け寄る。
バババババババババッ!!
大鳳の上部飛行甲板には零戦や半分の九九式艦爆、下部飛行甲板には残りの九九式艦爆に九七式艦攻がプロペラを回している。
「…大鳳。行ってくるよ」
大鳳制空隊隊長の三沢政宗少佐が零戦の左主翼に乗っている大鳳に声をかける。
「はい。政宗さん気をつけて下さい」
潮風により大鳳の長い髪がさらさらと揺れている。
「大丈夫だよ。俺はまだ死なんよ」
三沢は大鳳に敬礼する。大鳳は零戦から降りて三沢に返礼をする。
発着艦指揮所から青い旗が振られた。
『発艦セヨ』の合図である。
『帽振れェェェーーーーーッ!!』
飛行長の言葉に、手の空いた整備員や対空火器員達が自分の帽子を振り回している。
先頭の三沢機はゆっくりと動きだし、乗組員の惜別を受けながら発艦していった。
そして三沢機の後に二番機、三番機が発艦していく。
零戦百八十機、九九式艦爆百五十機、九七式艦攻百五十機の攻撃隊が飛び立つのに約四十分掛かったが、総隊長の山上少佐機を中心に一路カルカッタに向かう。
「長官。チッタゴンの基地航空隊より入電。『ワレ、カルカッタヲ爆撃ス。敵ノ被害ハ壊滅ト思ワレルナリ』です」
通信兵が電文を読み上げる。
「……攻撃隊の被害は思ったより少ないかもな」
小沢は既に粒ほどになった攻撃隊を見た。
一時間半後、攻撃隊はカルカッタ上空まで来た。
ドンドンッ!!
対空砲が僅かであるが攻撃隊に向けて砲弾を発射している。
「全機突撃じゃあァァァーーーーーッ!!!」
『トトト……』
九九式艦爆に搭乗している山上少佐の怒号が響き、後部座席の偵察員が『全機突撃セヨ』のト連送の無電打つ。
それを受け、攻撃隊は次々とカルカッタの飛行場に殺到した。
「撃てーーーーーッ!!」
ヒュウゥゥゥーーーンッ!!
ドガアァァァーーーンッ!!
山上少佐が放った二百五十キロ爆弾は見事に滑走路にいたB―17に命中し、木っ端みじんとなる。
「ガハハハッ!!見事じゃッ!!」
山上が操縦席で大笑いをする。
その時、山上機に機銃弾が襲う。
ガンガンガンッ!!
「ヌオォッ!!」
慌てて山上は回避する。
幸いにも火は噴かなかった。
「メッサーシュミットかッ!!」
山上はかなわんと判断し、急いで離脱する。
それを逃がすものかとばかりにメッサーシュミットが追い掛ける。
「させるかァァァーーーーーッ!!」
そこへ三沢機が急降下でメッサーシュミットの背後につく。
「もらったッ!!」
ドガガガガガガッ!!
機首と両翼から機銃弾が飛び出て、メッサーシュミットを襲う。
ズガアアァァーーンッ!!
二十ミリ機銃弾がエンジンに命中し、同機は爆発四散した。
「くそッ!!一体何処から出やがったッ!!」
三沢が辺りを見回すと十数機のスピットファイヤーやメッサーシュミットがいた。
「一体どうやってこいつらは来たんだ?」
三沢は頭を捻りつつも戦闘に集中した。
この時、第三機動艦隊攻撃隊に迎撃に来たのは民間飛行場に退避していた三十五機の戦闘機隊であった。
彼らはカルカッタの救援を聞くと補給を急いで終わらして攻撃隊に立ち向かったのだ。
が、所詮は数の少なさだ。
あっという間に全機が叩き落とされた。
「やっぱ零戦は最強じゃのぉ……」
九九式艦爆の操縦席で山上が呟く。
「隊長。カルカッタはほぼ壊滅ですよ」
後ろの後部座席にいる偵察員が状況を報告する。
「ぬぅ……。だが、油断はならん。艦隊に壊滅はしたが油断は出来んと伝えろ」
「了解ッ!!」
偵察員が無電を打ち出す。
「さぁて、帰るとするかの。全機帰投じゃ」
攻撃隊は翼を翻して第三機動艦隊に帰投した。
―――空母大鳳―――
「長官ッ!!攻撃隊の山上少佐より入電。『敵カルカッタ航空基地ハホボ、壊滅ト思ワレル。シカシ、コレハ空カラノ見エル範囲ナリ。艦砲射撃ノ要請ヲ求ム』ですッ!!」
通信参謀が電文を読み上げる。
「ふむ……。なら、これより第三機動艦隊は攻撃隊を収容後、カルカッタを艦砲射撃を開始する。全艦艇に発光信号ッ!!速度を二十七ノットに上げろッ!!」
「ハッ!!」
福留参謀長が敬礼して艦橋に向かう。
「…………」
小沢は既に暗くなりはじめたインド洋を見つめる。
「どうかしたのか?」
そこへ、飛鷹が防空指揮所に来た。後ろには大鳳もいる。
「ん?飛鷹か。いや……果たしてこの作戦は成功するのかと思ってな」
「フッ。あれだけ積極的なのに臆病か。鬼瓦が聞いて呆れるな」
「阿呆か。カルカッタだけの攻略作戦だったら自信はあるさ。……だがな、今回は三方面の同時攻略だ。カルカッタ、マドラス、コーチンの三ヶ所だ。果たして何人の搭乗員が大空に散るか………」
小沢が黙り込む。と、飛鷹がハリセンを取り出して小沢の頭を叩いた。
スパアァァーーンッ!!
「ーーーーーッ!!(悶絶中)」
「弱気になるなッ!!司令長官がそれでどうするッ!!司令長官ならドンと構えてろッ!!」
思わぬ飛鷹の一喝に小沢はア然としてしまう。
「あ、あぁ。分かってるよ。ありがとうな飛鷹」
「おぅ。なら今日は酒飲むから付き合え」
「今日はじゃなくて今日もだろ」
小沢が苦笑する。
そして二人は攻撃隊が帰ってくるまで防空指揮所にいた。
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