第五十九話 帝都ヲ奪還セヨ
「糞ッ!!辻の奴めッ!!いつまで我々を閉じ込める気だッ!!」
ダァンと陸軍大臣の石原大将が机を叩く。
「石原さん、やむを得んだろう。事が終わるまで大人しくするしかない」
陸軍大将の東條英機が石原を宥める。
「全く……同じオタクとしては最低ですね」
そう発言するのは服部卓四郎大佐である。
「服部…それは今言う言葉じゃないぞ」
冷や汗をかきながら言うのはマレーの虎と恐れられた山下大将だ。
四人が官邸にいたのは次回の作戦についてのためにたまたま官邸に来ていたところを辻に捕まり、米内達と一緒に監禁されているのだ。
「……だが、問題は陛下だ」
軍令部総長の長谷川清大将が呟いた。
「確かにな。陛下を取られた辻の思う壷だ」
うむと海軍大臣の堀悌吉大将が頷く。
今まで黙っていた首相の米内がボソッと呟いた。
「何としてでも陛下を護らねばならん。…山本頼んだぞ」
米内は窓に広がる蒼い空を見上げた。
―――空母赤城―――
「敵反乱軍の兵力は?」
「約一個師団とのことです。そのうち、一個中隊が首相官邸を占拠。二個中隊が海軍省を、もう二個中隊が皇居に進撃中で、残りは全て陸軍省に布陣しているとのことです」
参謀長の草鹿が東京の地図で塚原に説明する。
そこへ柱島から一路、零戦に乗って赤城に着艦していた将斗達が艦橋に入ってきた。
「長官。爆撃隊はいつでも行けます」
将斗が代表して塚原に敬礼する。
「うむ、すぐにでも飛ばしたいのだが陛下が心配だ。もし陛下が拉致され、陸軍省にいて間違って爆撃したら大変だからな」
そこへ通信兵が通信紙を持って艦橋にきた。
「横須賀鎮守府より入電ですッ!!」
草鹿が通信紙を受け取り、紙を見た。
「ーーーッ!!」
草鹿の顔色が変わった。
「草鹿。どうした?」
塚原が聞く。草鹿は幾分安堵した表情で紙を渡した。
「……そうか。椎名君、陛下は無事だ。零観で脱出して先程横須賀に到着したらしい」
塚原の言葉で艦橋の空気は柔らかになった。
この時、何故天皇が零観で脱出したのかというと、昭和天皇は朝から帝都に嫌な空気が漂っているのを感じていた。
これは何かあると感じた天皇は、木戸内大臣に「近衛師団をいつでも出撃出来るようにしろ」と下した。
木戸は最初こそ戸惑ったが帝都に放った諜報員が「陸軍内で反乱の可能性あり」と報告をしたため、急いで皇居周辺に近衛師団を配置した。
一方、天皇は護衛の近衛兵と共に車で皇居を出て、一路東京湾に向かった。
何故東京湾に向かったのかというと芝浦埠頭(今のレインボーブリッジ付近)に海軍の水上機部隊が駐留していた。
天皇が芝浦埠頭に着いた時、陸軍のクーデターが発生していた。
連絡を受けた司令官は二人乗りである零式水上観測機(零観)に天皇を搭乗させ、水戦強風十二機の護衛の元、横須賀に向かったのだ。
こうして、天皇を手に入れた海軍は思う存分に陸軍を攻撃することが出来た。
バババババババハッ!!
赤城の飛行甲板に爆装した零戦六機に九九式艦爆十二機、その護衛の零戦二十七機が発艦しようとしていた。発着艦指揮所で青い旗が振る。
『発艦セヨ』の合図だ。
爆装零戦の一番機(将斗機)から発艦していく。
四十五機の攻撃隊は僅か十分程度で帝都上空に到着した。
その時だった。
『右斜め上方に未確認機ッ!!』
爆装零戦五番機である近藤誠少佐機が激しくバンクをする。
すかさず板谷茂少佐率いる零戦二十七機が攻撃隊の前に出る。
「……あれは…疾風やッ!!」
それは帝都防空隊と基地航空隊に所属している四式戦疾風七十二機であった。
「疾風やとちときついな……」
将斗は爆弾投下索を引こうとした。
帝都に落ちても市民は既に退避している。
「やるしかないんか……」
将斗が無線で爆弾投下を命令しようとした時、一番前を飛行していた疾風がバンクを始めた。
『こちら帝都防空隊隊長加藤健夫大佐だ』
突如、無線から加藤健夫の声が聞こえてくる。
「加藤大佐ッ!!」
思わず将斗は叫んだ。
『その声は椎名中佐か。電探で海軍の攻撃隊が帝都に向かっているから辻が迎撃しろとうるさいから上がったんだ。辻達反乱軍は全員陸軍省にいる』
「本当ですかッ!!」
「あぁ。それに反乱した部隊は辻の偽命令文のせいで無理矢理帝都を占拠したんだ。先程、事実上に辻達を陸軍省に軟禁したから思う存分やってくれ』
「ありがとうございます加藤大佐ッ!!全爆撃隊につぐッ!!目標、陸軍省やッ!!繰り返す、目標は陸軍省やッ!!」
将斗は無線で翡翠達に伝えて速度を上げた。
―――陸軍省―――
「おのれッ!!加藤の野郎ッ!!」
辻がドォンと足でドアを叩く。
辻にとって十分前までは作戦は順調だった。
だが、いきなり指揮をしていた一個師団が反乱をして陸軍省に軟禁した。
「許さんぞ……許さんぞ……」
辻がワナワナと震えながら呟く。
ゴオオォォォーーーンッ!!
「何だ?」
辻が飛行機の爆音に気付き、急いで窓に駆け寄り双眼鏡で空を見た。
「辻中佐ッ!!海軍機ですッ!!」
辻の傍らにいた部下が辻に報告する。
「何をする気だ……」
辻がそう呟いた瞬間、爆装零戦の一番機―――将斗機が陸軍省に向けて、急降下を開始した。
「…………」
ガタガタッと急降下で機体が揺れる中、将斗はただ黙って正面の陸軍省を見つめている。
『高度六百ッ!!』
蒼零がテレパシーで将斗に伝えた瞬間、将斗が投下索を引いた。
「撃ェェェーーーッ!!」
ヒュウウゥゥゥゥンッ!!
爆弾が機体から離れ、将斗は強力なGに耐えながら上昇する。
辻は零戦が上昇する時、尾翼が見えた。
撫子の花と誠の文字が入った機体を持つのは一機しかいない。
「おのれッ!!椎名めェェェーーーッ!!」
辻が絶叫した瞬間に爆弾は陸軍省に命中した。
ドガアァァァーーンッ!!
さらに、将斗機に続けとばかりに翡翠や昴以下の爆装零戦も急降下をし、陸軍省に爆弾を放り込んだ。
これにより陸軍省は全壊した。
さらに、九九式艦爆は海軍省にも爆撃を敢行した。
この理由は老朽化が激しいため新しく作るためだ。
海軍省も瞬く間に全壊をした。
その後、海軍陸戦隊と東京近郊の師団が東京に駆け付け、東京を占拠していた反乱軍に武装解除を求めた。
元々戦う気がない反乱軍は解除を受け入れた。
全壊した陸軍省で辻達反乱軍の首謀者達の死亡が確認された。
辻が反乱となった原因は結局分からず、闇の中に葬られた。
有力説として、帝國主義から民主主義に変わるのが嫌だったのではないかと後の評論家は語った。
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