第五十四話 ハワイ諸島ヲ攻略セヨ前編
山本長官のハワイ攻略作戦を聞かされた半年後、上陸部隊十八万を乗せた輸送船団から約三海里先に山口多聞中将率いる第二機動艦隊と小沢治三郎中将率いる第三機動艦隊が航行していた。
第二機動艦隊の各空母の飛行甲板には爆弾や魚雷を搭載した航空機が整列しているが、ある二隻の空母の飛行甲板には航空機は整列していなかった。
……いや、零戦九機に九九式艦爆が一機に九七式艦攻一機が整列していた。
―――空母瑞鶴―――
「椎名司令官ッ!!何故我々は出撃は無しなんですかッ!!」
撫子新撰組司令官である椎名将斗少佐に戦闘機隊の土方香恵少尉が詰め寄って抗議をする。
「そうだぜ司令官。何で俺らだけ出撃はないんだ?」
香恵の隣にいる原田琥珀少尉も反論する。
「……………」
だが、将斗は口を閉じたまま無言で自分の飛行帽を被り、愛機の零戦五二型へと歩く。
「「ーーーッ!!司令官ッ!!」」
二人は叫ぶが、将斗は無視して愛機に乗った。
二人が駆け出そうとした時、翡翠と昴が止めた。
「……ごめんね二人とも。今回はまーくんの好きにさせて」
「……俺からもだ。頼む」
流石の香恵と琥珀も翡翠と昴に言われて渋々と下がる。
「……まーくんも本当やったら全機出撃させるけど…」
「じゃあ何でなんですか?」
翡翠の言葉に香恵が反応する。
「……俺達二人がハワイで一度死んだからな……」
昴の言葉に二人は思い出し、申し訳なさそうな顔をする。
それに気付いた翡翠が苦笑する。
「気にしなくてええよ」
翡翠が将斗機に目を移すとゆっくり零戦は動き出していた。
『帽振れぇぇーーーッ!!』
艦長の横川市平大佐の号令で飛行甲板にいた者全員が一斉に帽子を取り、餞別を送る。
将斗の零戦は飛行甲板を蹴り、蒼い空へと飛び立つ。
将斗機の二番機である坂井三郎飛曹長(昇進)機が後に続く。
管野機や笹井機、九機の零戦が飛び立つと二百五十キロ爆弾を搭載した九九式艦爆が動き出す。
九九式艦爆にはいつもカク親分こと高橋赫一少佐は乗っていなかった。
代わりに爆撃の神様と謳われている江草隆繁少佐が乗っていた。
実は、高橋赫一少佐はこの時、空母翔鶴飛行隊長となっていた。
前任者で、義弟である嶋崎重和少佐が真珠湾攻撃前日にラッタルを踏み外し、右足全治二ヶ月の骨折をしてしまったのだ。
その代わりに白羽の矢になったのが高橋だ。
高橋は「仕方ないな」と言いながら飛行隊長の任についた。
さて、話しを戻そう。江草機は瑞鶴を発艦し、現在高度二千を維持している。
「今日も陽射しがきついな」
ふと、江草が太陽を見て呟く。
『……太陽の陽射し…暑い…』
声が聞こえた。
「あぁ、暑いな。『クゥ』」
江草が上を見上げると飛行服を着て、髪型が腰ほどまである長髪の少女が立っていた。
クゥと呼ばれた少女は操縦席にいる江草を見た。
『……下着…見えた?』
『ば、馬鹿野郎ッ!!見えるかよッ!!』
江草が顔を真っ赤にして慌てる。
『…そう…なら見ないでね…』
クゥはフッと鼻で笑った。
「(絶対にからかってるな…)」
江草が悔しがっている間に各空母から発艦した攻撃隊は第二機動艦隊上空に集合する。
さて、そろそろクゥについて説明しよう。
クゥはもちろんの事、九九式艦上爆撃機の飛魂である。
二人の出会いは41年の真珠湾奇襲攻撃前日の時だ。
いつものように愛機である九九式艦爆を整備していたらいつの間にか風防の上に立っていた。
それから二人の交流が始まったのだ。
話しを戻そう。
将斗達第一次攻撃隊は全機が揃うと編隊を組んでハワイへと飛行していった。
――制空隊隊長椎名将斗少佐――
零戦百八機。
――艦爆隊隊長江草隆繁少佐――
九九式艦爆百八機。
――艦攻隊隊長村田重治少佐――
雷装十八機(村田少佐直率)
爆装九十機(楠美正少佐直率)
以下の攻撃隊が飛び立って十分後、第三機動艦隊から第二次攻撃隊が発艦していく。
入佐少佐率いる第二次攻撃隊は第一次攻撃隊の後を追ってハワイを目指した。
―――将斗機―――
「「………」」
発動機の音が響く操縦席は無言だった。
「(なんか打開策ないんかな〜?この空気はむっちゃ気まずいで)」
蒼零が左主翼のつけ根でおっさん「おっちゃん座りやッ!!」……おっちゃん座りをして唸る。
「…蒼零、何してんのや?」
唸っている蒼零に大声で話し掛ける。
「うぇッ!!な、何もないよ」
少々慌てる蒼零。慌てる蒼零に何か気付いたのか将斗が苦笑する。
「俺は大丈夫やで蒼零。ただな……」
「ただ?」
蒼零が首を傾げる。
「……震えてるねん…」
「震えてる?」
「……もう一度…奴らを恐怖に陥れる事が出来るからな」
蒼零は将斗の言葉にギョッとした。まさか将斗は……。
だが、蒼零の考えが分かったのか将斗はフッと笑った。
「大丈夫や蒼零。虐殺なんかせぇへん。上空に上がった敵戦闘機のパイロットを生きて帰さんだけや」
「……いや充分大丈夫ちゃうと思うよ」
冷や汗を掻きながら蒼零がツッコム。
その時、蒼零は海岸線が眼の端で見えた。
「将斗、海岸線が見えた。ハワイや」
将斗も下を見ると確かにハワイの海岸が見えた。
『全機につぐ。突撃態勢を取れッ!!』
無線機から村田少佐の声が聞こえる。
今頃、後部座席にいる平山がトツレ連送を全機に送っているだろう。
ふと、下を見ると敵戦闘機が上昇し、こちらに向かっていた。レーダーでばれたのだろう。将斗は口に無線機を当てる。
「制空隊全機につぐ、繰り返す制空隊全機につぐ。全機突撃やッ!!敵戦闘機を全機叩き落とせッ!!生きて帰すなッ!!」
『了解ィィッ!!』
将斗は坂井達の声に頼もしげに感じながらスロットルを公称最大へ押しいれ、零戦は蹴飛ばされたように加速し、敵戦闘機の群れの中へと突き進んでいった。
「ジャップめッ!!来るならこいッ!!」
P―38ライトニングの操縦席でジョン・Sケリー少佐が雄叫びを上げる。
ケリー少佐はヨーロッパ戦線でドイツ空軍機を二十三機を撃ち落とした猛者である。
ケリー少佐達迎撃隊五百機はあまり編隊を保っていないが、ケリー少佐を先頭に上昇していた。
迎撃隊に気付いたのか零戦隊が迎撃隊に向かって急降下してくる。
「チッ!!死ねジャップッ!!」
ダダダダダダダダッ!!
ドドドドドドドドッ!!
ライトニングの先端から十二.七ミリ機銃弾と二十ミリ機銃弾が放たれた。
が、機銃弾は先頭にいた零戦には当たらなかった。
むろん避けられたのだ。
その零戦からお返しとばかりに左主翼からパッと炎が出ると、ライトニングの目掛けて襲ってきた。
「何だとッ!!」
ケリー少佐は急いで左旋回をして逃げたが、塊はケリー機へと方向転換した。
「馬鹿なッ!!」
それがケリー少佐の最期の言葉だった。
塊はライトニングの胴体下に命中。
ケリー機は木っ端みじんとなった。
「……弱ぇな」
将斗が操縦席で呟く。
ケリー機を落としたのは将斗だ。
迎撃隊はいきなり指揮官機が撃墜されたので動揺している。
将斗はそれを見逃さず、降下しながらも両翼下に装備されている三基の塊を発射。逃げることなく瞬く間に三機の米陸海軍の戦闘機が爆発四散した。さらに他の零戦も塊を発射、多数の米戦闘機が逃げることも出来ずに落とされていった。
「流石はロケット弾やな」
将斗が苦笑する。
塊の正体はロケット弾―――噴進弾である。
ロケット弾は零戦全機に四基ずつ装備されている。
また、ロケット弾も真っすぐに進むのではなく、赤外線追尾方式とレーダー追尾方式が二発ずつだ。
川嶋中将達が苦心の末に完成したのだ。といっても、ロケット弾の備蓄も第一次攻撃隊の零戦全機分しかない。
「ま、派手に行こか」
将斗が下方を見るとまだ七十機程の戦闘機が生き残っており、攻撃隊を狙って上昇している。
将斗は飛龍制空隊三十六機を攻撃隊の護衛にし、残りの七十二機で空戦を開始した。
『こいつら弱いな将斗』
三機目を撃墜した時、蒼零がテレパシーで将斗に知らせる。
『そうやな。けど油断は禁物や』
将斗はそう言うと口に無線機を当てる。
「全機につぐッ!!一機で行動するなッ!!必ず二機一組で行動やッ!!分かったら奴らを全機叩き落とせーーーッ!!」
将斗は命令すると、二番機である坂井機と一緒に新しい敵戦闘機と空戦を開始した。
―――村田重治少佐機―――
「将斗。後は任せたぞ」
村田は後方で空戦をしている将斗機に一瞥をすると前方を見る。
前方には、彼らが目指す真珠湾軍港があった。
「平山ッ!!全機に打電ッ!!全機突撃せよッ!!」
「了解ッ!!」
平山一飛曹が慌ててト連送を全機に打電する。
「雷撃隊につぐッ!!雷撃隊は全機、俺に続けッ!!」
村田はそう叫ぶと機体の速度を上げて、真珠湾に佇む軍艦目掛けて突撃を開始した。
真珠湾の攻撃はまだ始まったばかりである。
来週から中間テストが始まる……(-.-;)御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m




