第五十話 インド洋大海戦後編
戦艦周防の沈没により、連合軍艦隊は勢いづき連合艦隊は少し押され気味となる。
―――戦艦ワシントン―――
「皆ッ!!もう一息よッ!!」
体中あちこちから血が流れているワシントンは部下達を励ました。
―――戦艦大和―――
「少しやばいな……」
戦闘艦橋ですすまみれになっている山本が呟く。
「艦艇の被害は?」
「戦艦周防が沈没。戦艦安芸、薩摩が大破。駆逐艦六隻沈没。他の艦は小破以上の損傷をしています。唯一、無傷が駆逐艦雪風だけです」
宇垣が報告する。
「……幸運艦は健在か……」
将斗がニヤリと笑う。それに釣られて信一達も苦笑した。
その時だった。
ドカアァァァァァーーーンッ!!
大和が揺れた。大和に砲弾が命中したのだ。
艦橋で立っていた者は今の衝撃で転倒した。むろん将斗達もだ。
『うぅ……右舷二番高角砲使用不能ーーーッ!!』
負傷したのかうめき声をしながら右舷二番高角砲員が伝声管を通して報告する。
「報告ッ!!敵砲弾が右舷三番高角砲に命中ッ!!三番高角砲員は全員戦死ッ!!その他、付近の高角砲員達も死傷者続出中ッ!!」
血が服に付いている伝令が報告する。
さらに、別の伝令が来た。
「報告ッ!!今の衝撃で艦長負傷ッ!!さらに黛砲術長も負傷ッ!!」
艦橋の温度が下がっていく。艦長と砲術長が負傷したのだ。無理もない。
「……副長は?」
山本がゆっくりと口を開く。
「副長は死傷者の救助及び消火活動中です」
戦務参謀の渡辺が答える。
「……分かった。俺が指揮を
「自分達が行きますッ!!」……何?」
山本が耳を疑った。将斗達四人が敬礼しながら答える。
「自分達がやります。長官」
「しかし……将斗君達は操艦の経験はないはずだ」
「経験ならありますよ。……未来でたっぷりとね」
将斗が笑う。山本も笑った。
「よし、なら思う存分やってこい。ただし、無茶はするなよ。艦長の手当てが終わるまでだ」
『ハッ!!』
四人は山本に敬礼すると防空指揮所と砲術指揮所に向かう。
―――防空指揮所―――
「艦長代理上がられるッ!!」
防空指揮所にいた見張り員は将斗と翡翠と昴の三人を見て敬礼する。
三人も答礼する。
「見張り員ッ!!敵先頭艦が発射したらすぐに言えッ!!」
「ハッ!!」
一人の見張り員が双眼鏡を敵先頭艦に合わせる。
「信一ッ!!射撃準備いいかッ!!」
『ああ。主砲の揚弾機が空でよかったで』
「なら最初の一斉射目に三式弾を装填してくれや。後は普通の徹甲弾でいい」
『よっしゃ任せとけやッ!!』
「将斗……」
将斗が振り返ると軍服が血だらけの大和がいた。
「大和大丈夫……ちゃうな」
「少々痛いが大丈夫だ。将斗、しっかりと敵戦艦をやれよ」
「任しとけや」
ニヤリと笑う将斗。
『将斗、三式弾装填用意よしッ!!』
伝声管から信一の声が聞こえる。
「撃ち方始めーーーッ!!」
「「撃ぇぇぇーーーッ!!」」
ズドオォォォォォーーンッ!!
将斗が命令し、昴と翡翠が何故か一緒になって吠えた。
その時、敵先頭艦が主砲を放った。
「敵先頭艦発砲ッ!!」
「取り舵二十ッ!!第三戦速ーーーッ!!」
「取り舵二十、第三戦速ヨーソローッ!!」
将斗の命令が操艦手に伝わり、操艦手が復唱する。
ヒュルルルルルルッ。
ズシュウゥゥゥーーーンッ!!
ズシュウゥゥゥーーーンッ!!
水柱が沸き上がるところは先程まで大和がいた場所である。
「敵砲弾回避ッ!!」
「よっしゃッ!!翡翠ッ、敵先頭艦は?」
「……燃えてるよ」
双眼鏡を覗いてた翡翠が呟く。
将斗が敵先頭艦ーーーワシントンを見ると勢いよく燃えていた。
―――戦艦ワシントン―――
「グアァァァァァァッ!!あ…熱いッ!!クアァッ!!」
ワシントンは悶えていた。三式弾が火の粉を撒きながらワシントンを襲い甲板に命中。
甲板は木であるため引火し、甲板では火災を生じている。
ダメコン隊が必死になって消火しているが、火の勢いが凄すぎて作業がままならない。
そこへ、ワシントンの一大事を見た駆逐艦が数隻消火活動に加わった。
これのお陰で火災が下火になってきた。
「…不覚だわ…」
駆逐艦の艦魂に火傷している腕を治療してもらったワシントンが悔しさに満ち溢れて呟く。
ブオォォォォォォンッ!!
不意に何処からともなく爆音が聞こえてきた。
それは大和の防空指揮所にいた将斗達も聞いた。
「……航空機の爆音…か?」
爆音を聞いてた昴が呟く。
そこへ通信紙を持った通信兵が防空指揮所に来た。
「今聞こえている爆音は味方機ですッ!!後方にいた空母部隊からの援軍ですッ!!」
将斗が通信兵から通信紙を引ったくると、電文には『我、航空隊デ支援ス。発 第二機動艦隊司令長官山口中将
宛 連合艦隊司令長官山本大将』と書かれていた。
「山口長官……」
将斗は歓喜の眼で上空にいる攻撃隊を見つめた。
―――攻撃隊隊長江草隆繁少佐機―――
「間に合ったな…」
江草は操縦席でふぅと息をつく。
本来なら退避していた空母部隊であるが、山口中将の強い具申により急遽攻撃隊を編制した。
が、空母部隊も先程の航空戦で大中小八隻の空母が損傷していた。
しかも、被害にあった空母の多くは第一機動艦隊であったため、第一機動艦隊はわずかの攻撃隊を送れなかった。
主体は第二機動艦隊と第三機動艦隊の航空機である。
攻撃隊の数は零戦百八機(六十キロ爆弾二発搭載)。九九式艦爆百二十九。九七式艦攻百二十機である。
もっと多いはずであるが連合軍艦隊攻撃時に、多くの機体が被弾損傷していた。
修理をすればさらに六十機程増えるが時間がなかったので損傷していない機が発艦した。
「全機突撃せよッ!!帝國海軍空母飛行隊の恐ろしさを思い知らせろッ!!」
江草は突撃命令を出すとあっという間に戦艦ワシントンに向けて急降下を開始した。
さらに隊長に負けるなと列機も急降下していく。
「敵機急降下ぁぁーーーッ!!」
見張り員の悲鳴の報告にワシントンを上空を見た。
足がついているヴァル(九九式艦爆)がワシントンに向かって来る。
「くッ!!」
ワシントンが拳銃を乱射するが江草機には当たらない。
そして、江草機が二百五十キロ爆弾を投下した。
ヒュウゥゥゥーーーンッ!!
グワアァァァァーーーンッ!!
「がぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
包帯で巻いていた所から再び血が滲み出る。
江草機が放った爆弾はワシントンの前部一番砲塔と二番砲塔の間に命中。
爆風で二番砲塔の砲身が吹き飛ぶか、折れ曲がり砲撃不能となった。
江草機も半分乱射した対空機銃が発動機に命中。
黒煙を噴きながらも、連合艦隊の所で不時着水をし、駆逐艦雪風が救助した。
偵察員が負傷していたが命に別状はなかった。むろん江草もだ。
話しを戻す。
連合軍艦隊は第二機動艦隊の奇襲を受け隊列が乱れた。
連合艦隊はそこを見逃さず、すかさず砲撃を繰り返した。
連合軍艦隊の戦艦は次々と戦闘不能にされていった。
―――戦艦ワシントン―――
「長官。ここまでのようです」
艦橋でイスに座っていたキングに参謀長が言う。
「……そうだな。空母部隊は無事に逃げたか?」
キングの問いに参謀長は首を横に振る。
「分かりません。先程から連絡がありません。おそらくやられたと思います」
参謀長の言葉に落胆するキング。
「…仕方ない…か。参謀長、発光信号だ。降伏だ」
参謀長が敬礼して艦橋を出ようとした時、通信兵がきた。
「ジャップより入電です……」
通信兵が悔しさを滲み出るかのように通信紙を参謀長に渡す。
「……長官。降伏文書です」
キングはゆっくりと立ち上がる。
「…早いな。ま、アドミラルヤマモトも分かっていたのだろう。全艦に打電。砲撃を中止せよ。これより連合軍艦隊は降伏する」
電文はただちに全艦艇に送られ、ある者は泣き、ある者は吠えていた。
だが、悲劇が起きた。
キングの電文は届いたのだが、自艦である戦艦ワシントンには何故か今だに砲撃中止命令が届かなかったのだ。
ワシントンは防空指揮所で拳銃を大和に照準した。
「くらえッ!!」
カチッとワシントンが引き金を引いた瞬間、まだ生き残っていたワシントンの一番砲塔から火が噴いた。
ズドオォォォォォーーンッ!!
これには連合艦隊も驚いた。
連合艦隊は砲撃を中止し、連合軍艦隊に近づいていた。
この時の距離が一万七千メートル。
ワシントンから放たれた砲弾は水平に飛んで大和の左舷艦橋直下近くに命中した。
ドカアァァァーーーンッ!!
幸い、致命傷にもならなかったが艦橋にいた人間に被害が出ていた。
山本五十六は命中した際に転倒し、その時に右腕を骨折した。
宇垣参謀長が軽い打撲をしたが、防空指揮所にいた将斗達がかなりの被害にあった。
将斗達は砲戦が終わったため、高柳艦長に後を任せて防空指揮所を降りようとした時、ワシントンから砲弾が放たれた。
「敵先頭艦発砲ッ!!」
「何やてッ!!」
見張り員の絶叫に将斗達が振り向いた時に砲弾が命中した。
ドカアァァァーーーンッ!!
艦全体が揺れた。
翡翠と昴は手摺りに捕まっていたため無事だったが、将斗は手摺りに捕まってはおらず、艦が揺れた時には将斗は浮いていた。
「「将斗ぉッ!!」」
幸いにも、艦橋からの転落ではなく、防空指揮所の階段から転落しただけだった。
だが、手摺りに将斗の頭が当たり、将斗はピクリとも体を動かさなかった。
「将斗ッ!!しっかりしぃやッ!!」
急いで駆け付けた翡翠が将斗の体を揺さぶるが、将斗は返事をしない。
「衛生兵ぃーーーッ!!」
昴が叫ぶがこの時、衛生兵は防空指揮所にはいなかった。
「大和ッ!!」
昴が大和に叫ぶ。
「俺達を医務室まで転送しろッ!!」
将斗の頭から血が流れ出ている。
「分かったッ!!しっかり捕まっとけよッ!!」
四人は光に包まれて消えた。
「艦長…。今のは…」
「あぁ。大和の艦魂だ…」
見張り員と高柳艦長には大和が見えなかったが、三人が消えたのを見ていた。
「……椎名少佐。生きててくれよ…」
右頬にガーゼが付いている高柳艦長は静かに三人が消えた場所に敬礼した。
―――医務室―――
医務室の光が現れ、中から四人が出て来る。
「軍医ッ!!診てくれッ!!」
昴が軍医に叫ぶ。
「待てッ!!今、山本長官を治療している。後にしろッ!!」
軍医に言葉に翡翠が切れた。
「そんなもん後回しやッ!!こっちは命が危ないんやッ!!」
「将斗君ッ!!大丈夫か?」
右腕に包帯を巻いている山本が将斗達を見て、危険だと判断した。
「軍医長。俺は後でいい。先に椎名少佐を治療してくれ」
流石に山本から言われたのは堪らない。
軍医長は急いで将斗を治療台に乗せる。
「……ここからは我々の仕事だ。すまんが出てくれ」
軍医長の言葉に翡翠達は外に出た。
「……将斗…」
連合軍艦隊は降伏し、連合艦隊が勝ったのに将斗が意識不明の重体に陥ったなかで翡翠達は喜べず、将斗の看病をした。
瑞鶴達も合流し、寝ずの晩が続いた。
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