第四十七話 大和と将斗と救出
―――救出部隊駆逐艦雪風―――
艦魂の駆逐艦雪風は前部主砲搭の上に立っている。
そして彼女は息を吸い込むと大きな声で叫んだ。
「将斗様ーーーッ!!何処ですかーーーッ!!」
他の三人も同じように叫んでいる。
―――駆逐艦吹雪―――
「将斗様ーーーッ!!将斗様が死んだらあたしは……あたしはどうしたらいいんですかーーーッ!!」
―――駆逐艦綾波―――
「将斗殿ーーーッ!!何処なのだーーーッ!!」
―――駆逐艦東雲―――
「将斗将斗将斗将斗将斗将斗将斗将斗将斗将斗ッ!!」
……前部主砲搭の上で目が血眼みたいになり、呟くように叫ぶ東雲は置いとこう。
四隻は一定の距離を保ちながら航行する。
―――将斗―――
「今さらどないした?」
将斗が大和と言った少女に尋ねる。
「今さらとは酷いな。将斗が自決しようとするのを阻止するためにわざわざ来たんだ」
腕組みをしながら大和が答える。
「疲れたくらいで自決なんかするな。私達の時代の時は疲れたで自決する馬鹿はおらんぞ」
「うるさいわ、普通の平凡が欲しかったんや」
「まぁ、あの時代では平凡は到底ないな」
大和が苦笑する。
「ん?将斗、怪我をしてるぞ」
大和はポケットの中からハンカチを取り出し、左腕から流れる血を止血する。
「すまん、手ぬぐいとか今無いからな」
将斗が謝る。
「気にするな。……よし、これでいいぞ」
「ところで大和。お前の他はおらんのか?」
「長門達は今、将斗救出部隊に行ってる。……将斗、何で自決しようとした?」
「やから、疲れたからやって「嘘をつくなッ!!」………」
大和の怒号に黙る将斗。
「…何でだ?」
「………俺はお前らを護れなかった」
将斗がぽつりと呟く。
「だからこの世界に来た時に、大和達のような犠牲者を生み出したくないと思って闘いの中を身を投じた。……けど、この時代の艦魂達は護れても次の時代の艦魂達は俺は護れるんか?たまに俺は瑞鶴達を護れたらいいと考えた事もある。けど、それはただの自己満足や。そんな事をしたらお前との約束を破る事になる」
「私達、この時代の艦魂達が死んでも、次に生まれてくる新しい艦魂達を護ってくれ……だったな」
将斗がゆっくりと頷く。
「お前との約束を破るのは嫌やから俺は自決しようとしたんや」
「……………」
辺りが静寂する。
「………クックッククックック、ハーッハーッハーッハーッハッ!!」
「何が可笑しいねん大和ッ!!」
笑う大和に怒る将斗。
「ハッハッハ、いや済まん。全く、そんなので悩むなよ」
大和の発言に驚く将斗。
「何でやねんッ!!」
「お前が無理だと判断したらお前の息子に託したらいいだろ?」
「いや……俺結婚してへんし。未来では結婚したけど……」
「子供を作ればいいだけの事だろ」
「……お前死んでから変わったな」
大和の変貌に少し後ずさり(海で出来るんか?)をする。
「ま、まぁそれは置いといて。将斗、たまには歩け」
「はぁッ?!」
「歩くという意味じゃないぞ。お前はいつも誰かを護ろうと必死で走ってきた。だが、今のお前の周りには、逆にお前を護りたいという奴らがいる。だから、たまには歩け」
「……………」
大和の言葉に黙る将斗。
「……そうやな。俺は少し走り過ぎたな」
「そうだ。走り過ぎだぞ」
二人が苦笑した。
―――駆逐艦雪風―――
「将斗様ーーーッ!!」
相変わらず、雪風が前部主砲搭の上で叫んでいる。
その時、雪風の後ろでパアァと光が出る。雪風が振り返るとそこには士官服を着た少女がいた。
「あ…貴女は?」
「貴女達が探している将斗君は左二十、距離四千にいるわ」
「えッ?!」
雪風が驚く。
「ほ、本当ですか?」
「本当よ。早く将斗君を迎えに行きなさい」
「わ、分かりました」
雪風は少女に敬礼すると艦橋に向かった。
「さて……私は将斗君のところに行くかな」
少女はそう呟くとまた光に包まれて消えた。
―――雪風艦橋―――
「寺内艦長ッ!!」
慌ただしく雪風が艦橋にいる寺内艦長に声を掛ける。
「どうした雪風?」
「左二十、距離四千のところに将斗様がいますッ!!早く向かって下さいッ!!」
「よし、分かったッ!!取り舵二十ッ!!」
「取り舵二十ヨーソローッ!!」
雪風が右に傾く。他の艦でも雪風の不審に気がつき、即座に舵を切る。
四隻は進む。
―――将斗―――
「将斗君〜♪久しぶり〜♪」
光に包まれて現れたのは先程、雪風に将斗の居場所を教えた少女だった。
「よ、長門。久しぶりやな」
「うん、大体六年くらいだね」
将斗と長門が挨拶をする。
「あ、それと将斗君の救出部隊も後三十分くらいで到着するよ」
「そうか」
将斗が安堵の息をつく。
「飛龍達は元気か?」
「うん、元気過ぎて困ってくらいよ。それと、翡翠と昴を凌辱した米司令官と米兵士約十万やったけ?あれ毎日リンチしているから」
長門の発言に苦笑する将斗。
「そうか、手加減するなよ」
「それってほぼ殺してるぞ」
横で大和が突っ込む。
三人が笑う。
「将斗様ーーーッ!!」
そこへ救出に駆け付けた雪風以下四隻の駆逐艦が将斗に向かってきた。
「……そろそろお別れだな」
大和が呟く。
「そうね。久々に将斗君に会えて楽しかったわ」
長門が微笑む。
「そうやな。二人ともありがとうな」
「じゃあね将斗君。天国で待ってるわ」
長門が光に包まれて消えた。
「長門……、それははよ死ねって事か?」
既にいない長門に突っ込む将斗。
「しばしの別れだ将斗」
そう言って大和が将斗の頬にキスをした。
「将斗、たまには歩けよ。またな」
「あぁ、またな大和」
大和は長門と一緒で光に包まれて消えた。
「……大和。何だか肩の荷が少し楽になったで」
将斗は大和が消えた場所に呟いて微笑んだ。
将斗は雪風の短艇に救助され、寺内艦長は連合艦隊旗艦大和に打電した。
内容はもちろん『椎名将斗少佐、発見。救助シタ』である。
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