第四十六話 将斗機炎上……そして……
将斗機から火を噴いた。
「将斗ッ!!将斗ッ!!」
「まーくんッ!!返事してッ!!」
「将斗しっかりするネッ!!」
「将斗返事をしろッ!!」
「将斗ぉッ!!」
翡翠達が無線で将斗に話し掛けるが無線が壊れているのか応答しない。
だが、火は弱火になっている。自動漏洩防止装置がついているからだ。
そこへ先程、将斗を銃撃したメーサーシュミットが引き返してきた。
「止めをさしてやるッ!!」
パイロットが機関銃弾を発射しようとした時、右から九九式艦爆、左から九七式艦攻が一機ずつ機首の七.七ミリ機銃弾を撃ちながら突っ込んできた。
高橋機と村田機である。
二人とも頭に血が昇っている。
「「死ねッ!!」」
タタタタタタタッ!!
七.七ミリ機銃弾が軽快な音を立ててメーサーシュミットを襲うがメーサーシュミットのパイロットが僅かに機首の下げたのが早かった。
「ふん、爆撃機に落とされてたまるかッ!!」
メーサーシュミットのパイロットは左旋回して二機を落とそうとしたが、左足で蹴飛ばしたフットバーが、何の抵抗もなく、蹴飛ばされるがままに、奥に引っ込んでしまったのだ。
フットバーと垂直尾翼とを繋ぐワイヤーが、今の銃撃で切断されてしまったのだ。
メーサーシュミットは左に機首を向けずに、立ててただ、左に横転しただけった。
そこへ琥珀機と香恵機が機銃弾を撃ち込んだ。
ダダダダダダダッ!!
ドドドドドドドッ!!
横転しただけでも直撃弾は減ったが、それでも多数の機銃弾が、胴体と主翼に命中した。
さらに続けて、由華梨機が機銃弾を浴びさせた。
ダダダダダダダッ!!
ドドドドドドドッ!!
ボゥッ。
十二.七ミリ機銃弾がエンジンのシリンダーブロックを打ち砕き、一瞬にして、回転を停止させた。
プロペラが停止し、落ちかけていくメーサーシュミットからパイロットが脱出する。
バンッ!!
落下傘が開きゆっくりと海面に降下していく。
そこへ、昴機と翡翠機と信一機が接近してくる。
「ヒイィッ!!」
パイロットが悲鳴を上げる。三機が自分に対して何をするか分かっていた。
ダダダダダダダッ!!
ドドドドドドドッ!!
機銃弾が霰のようにパイロットを襲う。
「ゲハアァッ!!」
十二.七ミリと二十ミリ機銃弾が次々とパイロットに命中する。
最初の銃撃でパイロットの頭が吹き飛ばされて絶命したが、それでも攻撃の手を止めない。
三機が死体を追い越す。さらに先程の琥珀、香恵、由華梨も加わり、落下傘降下している死体に機銃弾を叩き込んだ。
死体は機銃弾にたらふくに叩き込まれミンチになってしまった。
六機は急いでその場を去り、先程まで黒煙を噴いていたが今は白い煙を噴いている将斗機に近づく。
「将斗ッ!!」
「まーくんッ!!」
翡翠と昴が無線で話すがやはり応答がない。
―――将斗機―――
「くぁ〜。蒼零〜、大丈夫か?」
左肩から血が出ている将斗が蒼零に尋ねる。
「な…何とか…」
操縦席の後ろでぐったりしてる蒼零が答える。
「…けど、さっきメーサーシュミットの銃撃を受けた時に銃弾が発動機とりつけ台座に命中して外れかけやで」
「む…。いつまでもつんや?」
「三十分くらいや」
「……蒼零。昴の零戦に行け」
将斗の言葉に驚く蒼零。
「な、何でやねんッ!!嫌やで、俺は将斗とおるでッ!!」
「行くんや蒼零」
「嫌やッ!!」
「蒼零ッ!!」
将斗の怒号にビクっと体をすくめる蒼零。
「違うんや蒼零。この零戦はもうほとんどあかん。なら行けるとこまで味方艦隊に近づいて不時着水するんや。んで駆逐艦を派遣してほしいねん。それを昴に言ってきてくれ。もちろん蒼零は不時着水して機体が水没したらお前は死ぬ。やから、昴の零戦に移って欲しいねん」
蒼零が黙る。
やがて蒼零は諦めたかのように口を開く。
「分かった。昴の零戦に移動するわ」
「気をつけてな」
将斗がよしよしと蒼零の頭を撫でる。
「将斗……死なんといてな?」
「分かった」
光に包まれて蒼零が消えた。
―――昴機―――
シュワンッ。
突然、昴の背後に気配を感じた。振り返るとそこには飛行服が血だらけの蒼零がいた。
「蒼零ッ!!大丈夫か?」
昴が急いで傷を見たらほとんど治癒されている。
「俺ら飛魂は自分の乗機が被弾したら他の機に移動出来んねん」
傷が痛くなくなったのか少し元気になった蒼零が昴に話す。
「そうか、それはよかったわ。ところで将斗は?」
「その事で将斗から伝言や」
蒼零が将斗からの伝言を昴に伝えると村田に将斗の事を話した。
村田は平山に急いで連合艦隊司令部に打電した。
―――戦艦大和―――
「山本長官。村田総隊長より緊急入電ですッ!!」
通信紙を持った伝令が艦橋に来た。
山本が通信紙を受け取って用件を見ると途端に顔が青くなりはじめた。
「長官。どうしました?」
宇垣が思わず尋ねる。すると無言で通信紙を渡した。
宇垣が通信紙を見るとそこには簡単に『将斗機炎上中、不時着水スル。救援ノ駆逐艦ヲ派遣セヨ』と書かれていた。
「長官……これは……」
「うむ……直ちに、駆逐艦を派遣だ。だが、そんなに数は出せん」
山本が空を見るとそこには多数の航空機が連合艦隊を攻撃していた。
連合軍艦隊から出された攻撃隊だ。
救援の駆逐艦は四隻派遣された。
駆逐艦雪風、吹雪、綾波、東雲の四隻だ。
将斗の救援は敵の攻撃が終わってからだ。今、敵の攻撃はピークに達している。
最初に突撃したのは雷撃隊だ。
これはすぐにやられた。
連合艦隊は日本を出撃する前に全艦艇に対空迎撃三式噴進弾が配備された。
これは対空ロケット弾を三式弾用に改造したのだ。
このおかげで敵の雷撃隊はほとんど壊滅したも同然だった。
だが、これからが本当の戦いだった。
「て、敵機急降下ぁーーーッ!!直上ぉぉーーーッ!!」
突然の見張り員の絶叫に対空火器員はただ驚くだけだ。
上空を見上げた対空火器員の目に写ったのは急降下してくる敵の艦爆隊だった。
「くそぉッ!!零戦隊はどうしたんだよッ!!」
一人の対空火器員が声を上げるが迎撃の零戦隊は敵戦闘機と壮絶なドックファイトを展開していた。
最初に狙われたのは空母加賀である。
「総員、衝撃に備えろーーッ!!」
加賀艦長の岡田次作大佐はそう言うと隣にいる加賀を抱きしめた。
ヒュウゥゥーーンッ!!
ヒュウゥゥーーンッ!!
急降下してくる五機のドーントレスから四百五十キロ爆弾が回転しながら加賀に目掛けて落ちてくる。
そして次の瞬間。
ズカアァーーンッ!!
ズカアァーーンッ!!
ズカアァーーンッ!!
二発が外れたが残りの三発が飛行甲板に命中した。
「があああぁぁぁーーーッ!!」
加賀の体の腹、肩から血がほとばしり出てくる。
「加賀ッ!!」
岡田大佐の服が血だけらになるが構わず、手ぬぐいを出して加賀の応急処置をする。
「報告ッ!!飛行甲板大破ッ!!発着艦不能ッ!!」
伝令が岡田艦長に報告する。
「分かった。急いで消火だ」
「ハッ!!」
伝令が再び駆け出して行く。
「加賀…大丈夫だ。必ず助ける」
「わ…分かりました…、次作さん」
がくっと加賀が気絶した。
被害は加賀だけではなかった。
加賀の次に襲われたのは祥鳳である。
艦長の伊沢大佐が巧に回避するが三発が命中。
発着艦不能である。
このように次々と空母が襲われ、結果空母大中小の八隻が炎上した。
敵の攻撃隊はほとんど機数はない感じである。
山本長官は急いで先程の駆逐艦四隻を派遣した。
一方の将斗はというと。
―――将斗機―――
バルンッバルンッバルンッ!!
プロペラの回転がおかしくなってきた。
「そろそろやばいな」
将斗が呟く。
既に将斗の周りにいた昴達はいない。
五分程前に将斗が帰らせたのだ。将斗にいつまで付き添ってたら燃料が無くなるからだ。
将斗はゆっくりと降下させる。
高度は百を切った。
どんどんと海面が近づく。
将斗はエンジンを切った。
グライダー飛行で不時着水する事にしたのだ。
零戦がゆっくりと不時着水をした。
ザバアァンッ!!
水しぶきが上がる。
零戦はまだ水没しない。
機体の中に浮袋があるからだ。
「よいしょっと」
将斗は救命胴衣を着て、操縦席から出て右主翼に座る。
「あー疲れたな」
その間にも零戦が沈んでいく。
将斗は海水に浸かり、零戦から離れる。
ゴボゴボッ。
零戦は被弾したところから泡が吹き出しながら沈んでいった。
将斗は沈んでいく零戦に敬礼をする。
「疲れたな……。血が出過ぎたかな?眠なってきた…」
将斗がうとうとしはじめる。
「もういいやろ。そろそろ俺も眠りたいしな。後は信一や川嶋教授達がやってくれるわ」
将斗は懐から南部式拳銃を取り出す。
「逝こうか……」
将斗が引き金を引こうとした時、声が聞こえた。
『将斗……死んだら駄目だ』
将斗は最初は空耳やろと思った。
だが、声がもう一回聞こえた。
『将斗……死んだら駄目だ』
「まさか……お前か?」
将斗が言ったら目の前でパアァと光だした。
光が収まるとそこには、旧海軍の士官服を着た少女が浮いていた。
「……久しぶりだな」
「……そうやな。お前が囮で沈んだ以来やから約六年か?」
「違う。約七年と二ヶ月だ。馬鹿者」
「ハハハ、久しぶりに怒られたな」
「お前が怒らすような事をするからだろ?」
少女が尋ねる。
「ところで、今さらどないしたんや……大和」
将斗は士官服を着た少女、大和に尋ねた。
さて遂に大和と名乗った謎の少女が出てきました……って皆さん分かりますね(笑)御意見や御感想等お待ちしてます。m(__)m