第三十話 講和とつかの間の休息
ニューカレドニアが占領されてから一週間後、オーストラリアが降伏した。
ニューカレドニア、ニューヘブリデス諸島を占領されてはさしものオーストラリアも耐えられなかった。日本は条件付きの講話をした。内容は。
一、オーストラリア及びニュージーランドは大英帝国連邦の一員から抜け、中立を表明せよ。
二、オーストラリア及びニュージーランドは物資を提供せよ。
三、大日本帝国は、マレー戦線、シンガポール戦線、オランダ領インド戦線などで捕虜になったオーストラリア兵士を速やかに解放し、オーストラリアに帰国させる。
このようにして日本は陸軍を上陸させることなく屈服に追い込むことに成功した。
さらに、政府は朝鮮から部隊を撤収し、独立させた。これには、陸軍内部で反発があったが天皇の勅命により鎮まった。
朝鮮では独立で大騒ぎとなった。
さらに昭和天皇は首相である東条英樹をやめさせ新首相には米内光政大将がなった。海軍大臣には堀悌吉大将が就いた。史実では堀悌吉は予備役だったが将斗達によって現役復帰したのだ。陸軍大臣には石原完爾大将がなった。
軍令部総長には長谷川清大将が就き、陸軍参謀総長には阿南大将が就いた。
中国はついに日本に対し講話を申し入れた。講話の条件は以下のようであった。
一、中国政府は満州国を独立国として承認する。
二、王兆銘政府は蒋介石政府の傘下に入る。
三、大日本帝国は、中国政府が毛沢東配下の共産党勢力を中国全土から駆逐する反共作戦に全面協力をする。
これは日本にとっては願ってもない好条件であった。さらに米内は中国から陸軍部隊約百六十万を撤収させた。ただし、上海、香港、マカオの三ヶ所は日本の守備隊が駐留することになった。
中国から撤収した部隊の内、六十万は満州に配属され、残りは内地に送還した。
とまあ日本国内でこのような出来事がある中、将斗達は呉市内を歩いていた。
「いやぁ、久しぶりやな〜」
「まーくん。前もそんなんゆってなかった?」
「翡翠姉。細かいことは気にするな」
「そうそう。気にしてたら婆になるで」
バキィッ!!
信一の言葉に翡翠は素早く反応し、アッパーカットを叩き込む。
「なんか言った信一?」
「イエナニモイッテイマセン」
ガタガタと信一が震える。将斗が苦笑してるとふと横を見ると喫茶店があった。
「喫茶店行こうか?前は行けんかったからな」
将斗の提案に三人が賛成する。
「お、いいね〜」
「行こ行こ〜」
「前は陸軍の阿呆が邪魔したからな」
四人が喫茶店に入る。
「いらっしゃいませ」
中には人の良さそうな店主がいた。
「マスター。珈琲四つね―」
「畏まりました」
コポコポとマスターが珈琲を作る。
「それにしても平和やな〜」
信一がのどかに喋る。
「そうやな。戦時中じゃないみたいやな」
将斗も外を見る。外では子供達が楽しそうに遊んでいる。将斗が微笑んで見ていると昴と翡翠がムスっとした顔で将斗のふとももを抓る。
「イタッ!!」
「今、瑞鶴達のこと思い出してたでしょまーくん?」
「久しぶりなんやから俺らにも構ってくれよ」
昴が将斗の左腕に抱き着く。ちなみに将斗の横には翡翠と昴が居て、正面には信一がいる。
「わりぃわりぃ」
「でもよ、瑞鶴達がここに来てたらここ戦場やで」
信一が苦笑する。
「ああ、例えここにこようとしても山本長官の許可がなければあかんからな」
艦魂達は自艦内と軍巷内と他艦内は自由に行動出来るが軍巷から街に行く時には連合艦隊司令長官の許可が必要なのだ。
瑞鶴達は山本長官に許可の申請をしているが山本長官は将斗達を休ませたいので今の所許可はしてない。
「お待たせしました」
マスターがお盆で珈琲を持ってきた。
「ごゆっくりどうぞ」
マスターはそう言うとカウンターへ戻る。将斗達が珈琲を飲む。
ズズッ。
「お、これうまいやん!」
「うむ、うまい」
「美味しい〜」
「いけるな」
将斗が驚き、続いて翡翠達が驚く。皆が珈琲を飲みながら喋っていたらラジオから歌が聞こえてきた。
『本日ののど自慢大会もそろそろ終わりになりました』
「へぇ。のど自慢やってるやん」
「美空ひばり?」
「それは戦後じゃなかったか?」
将斗達がラジオを聞く。
『それでは最後にこの歌「ハ○ハ○ユ○イ」でどうぞ』
「「「「ブゥーーーッ!!!」」」」
四人は思わず吹き出してしまった。
「ゲホッゲホッ……な、なんでハ○ハ○ユ○イやねんッ!!」
将斗がラジオにツッコミを入れた。
「うわ〜びちゃびちゃやんか〜」
「信一汚いよ〜」
「俺はどっちかというと将斗の白いのがいい」
「す、昴。その発言はあかんよ」
翡翠がツッコミを入れた。
「お客様ご存知ないのですか?」
ふきんを持ってきたマスターが四人に尋ねる。
「どうゆうことですか?」
信一がマスターに尋ねる。
「この曲は昭和十五年にできた曲ですよ。なんでも海軍の宇垣中将や南雲中将達と陸軍の辻中佐や服部大佐達がどこからかこの曲を持ってきたらしいですよ。この曲はあっという間に国民の人気の歌になりましたよ。女学校でもこの歌の踊り版を音楽科に取り入れたみたいですよ」
「「「「…………」」」」
四人が黙ってしまう。マスターは軍隊生活が長いから知らないと判断したみたいでカウンターに戻った。
「……俺のせいかも」
将斗がぽつりと呟く。
「俺が宇垣さん達にハ○ヒを教えてたんや。宇垣さんがこの頃、瑞穂とハ○ヒの話しをしてたけど、まさかそこまで発展してるとはな……」
気まずい雰囲気が四人の周りに漂う。
信一が口を開いた。
「ま、過ぎたことはしゃーないわ。さてそろそろ帰ろうか」
「そうね。過ぎたことはしゃーないもんね」
「確かにな」
翡翠と昴が立つ。
「将斗帰ろう」
「ああ、まぁ過ぎたことは悔やんだあかんな。んじゃ帰ろうか」
マスターに代金を渡して四人は帰る。信一は大和に戻り、翡翠と昴と将斗の三人は瑞鶴に戻った。
―――戦艦大和連合艦隊司令長官室―――
「…………」
山本が一枚の報告書を黙って見ている。山本の隣にいた大和が口を開く。
「これはやばいですね」
「うむ、とうとうUボートが出て来たか」
二人が見てる報告書はUボートにやられた艦艇だった。
「沈没艦海防艦三隻、輸送船五隻か…」
「装甲巡洋艦の出雲さんと磐手さんが中破」
「日進もやられた。中破だがな」
山本が顔をしかめる。無理もなかった。日進は初めて乗った軍艦であるとともに日本海海戦を一緒に戦った仲である。
「一週間でこんな被害が出るとは思いませんでしたね」
「ああ、Uボート恐るべしだな」
「ですがUボート八隻撃沈はいいと思いますけど…」
そこへ宇垣が長官室に入って来る。
「長官。またやられました。輸送船三隻撃沈です」
「Uボートの撃沈は?」
「四隻です。特に陸軍が酷いどす。長官、陸軍の輸送部隊はこのままでは全滅しますよ」
宇垣はそう言い、報告書を渡した。
「……陸軍船籍の輸送船が片っ端からやられてるな」
山本は顔をしかめながら報告書を大和に渡す。
「船団方式ではなく五月雨方式ですね。史実と一緒ですよ」
「長官。そのことで陸軍がようやく重い腰を上げました。我々と合同でしたいと言ってます」
「そうか、やっとか。戦前から我々が言ってたのに無視するからだ」
山本は戦前、陸軍に輸送部隊はすべて船団方式にするから協力してくれと言ったが無視されたのだ。
「あきつ丸型は今何隻だ?」
「あきつ丸の他はまだいません。あきつ丸は搭載機三十機。高角砲が連装六基。三連装対空機銃が十六基です」
「よし。急いであきつ丸の乗組員を編成だ」
「八ッ!!」
宇垣が慌ただしく長官室を出る。
「それでは私も失礼します。将斗さ〜ん」
大和が消えた。
「将斗君も大変だな」
山本長官は苦笑しながら別の報告書を見た。
その夜中。
―――空母瑞鶴格納庫―――
「……………」
将斗が一生懸命自分の零戦を点検していると瑞鶴が来た。
「将斗、何しているんだ?」
「ん?零戦の点検や。瑞鶴はどしたん?」
「い、いやなに将斗がいなかったからな。探していた」
顔を真っ赤にして瑞鶴が喋る。
「そうか。もう終わるからちょっとまってな」
将斗はそう言うと風防をみがく。
「整備員に任したらいいじゃないか」
「整備員でもあかん。これは俺の零戦やからな。なんせ日中戦争からの相棒やからな」
「そうか」
「こうして零戦に触れるだけでも幸せや。未来の零戦はほとんどなかったからな」
「そうなのか?」
瑞鶴が驚く。
「ああ、靖国や、大和ミュージアムくらいしか残ってないわ。まあ、アメリカに飛行可能な五二型があるけどな」
これは事実です。零戦五二型は日本にも何回か里帰り飛行に来ています。
「そうなのか……」
瑞鶴は少しばかり落胆をした。そこまで酷いとは思わなかったからだ。
「まぁ、しゃーないわ。……よっしゃ終わりや」
将斗は降りて左翼の先端部分をぽんぽんと叩いた。
「次も頼むで」
将斗はそう言うとくるりと振り返る。
「んじゃあ帰るか」
「ああ、そうだな」
瑞鶴が少し将斗に寄り添うように歩く。
二人が格納庫から出ると将斗の零戦がパアァァと光出す。そこに現れたのはショートヘアをし、海軍の軍服を着た美少女が立っていた。
「…………」
少女はさっと敬礼をすると再び光出して消え、残ったのは将斗の零戦だけだった。
今週の金曜から来週の木曜まで期末テストなのであまり投稿出来ませんがご了承下さい。御意見や御感想等お待ちしてますm(__)m