第二十話 珊瑚海海戦後編
少しですが翡翠と昴の空戦を入れてます
攻略部隊が敵攻撃隊の攻撃を受けた翌日。
―――零式水上偵察機―――
「機長!!三時の方向に敵艦隊発見!!」
機長が三時の方向を見る。空母二隻を中心とした輪形陣で航行している。
「直ちに打電しろ!!」
「後方より敵戦闘機三機接近中!!」
機長は後ろを振り向く。ずんぐりとしたグラマンF4Fが三機接近してくるのを視認する。
「雲に飛び込むぞ!!」
機長は操縦桿を握り機体を左右に振る。ワイルドキャットの機銃が火を噴く。
ダダダダダダダッ!!
カンカンカンッ!!
発射された銃弾が零式水偵の装甲に当たり、跳弾になるが幸いエンジンや燃料タンクには当たらなかった。
「畜生ッ!!落ちろーッ!!」
機銃手が引き金を引く。
ダダダダダダダッ!!
ボゥッ!!
放たれた十二.七ミリ機銃弾は燃料タンクに命中し、一機のワイルドキャットが落ちていく。
「やったーッ!!」
「馬鹿!!次が来るぞ!!」
ダダダダダダダッ!!
残った二機から乱射のごとく機銃弾が発射される。機銃手も慌てて引き金を引く。
ダダダダダダダッ!!
それから悪戦苦闘したが機長はなんとか機体を雲の中に逃げ込ませた。そして、彼らが放った無電は無事に第二機動部隊に届いた。
―――第二機動部隊旗艦空母瑞鶴艦橋―――
「零式水偵より入電!!『我、敵艦隊発見セリ。空母二、重巡七、軽巡一、駆逐艦十三』との事です!!」
通信兵が電文を読む。
「よし、攻撃隊全機発艦!!攻撃目標敵空母!!」
山口が発艦命令を出し、参謀達が慌ただしく動く。
―――飛行甲板―――
「将斗〜頑張ってね〜」
「将斗!!敵空母沈めろよ!!」
翡翠と昴が将斗を応援する。今回、二人は上空迎撃に当たる。理由はあまり零戦に乗ってないからだ。
「将斗」
瑞鶴が将斗に近寄る。
「どうした?瑞鶴?」
「が……頑張ってこいよ!!わかったな!!」
瑞鶴がぷいと顔を背ける。将斗はそんな瑞鶴に苦笑し、瑞鶴の頭をくしゃくしゃにする。
「任しとけや」
「むぅ……」
瑞鶴が顔を真っ赤にしてる。将斗は零戦に搭乗する。
「チョーク外せー!!」
整備員が急いでチョークを外す。
外すのを確認した将斗はスロットルレバーを前に押す。
『帽振れぇ―!!』
手の空いた整備員や対空火器の乗組員が惜別の『帽振れぇ』をする。瑞鶴は既に防空指揮所に戻って将斗に対し敬礼してる。隣には翡翠と昴、山口長官、角田参謀長がおり同じく将斗に対し敬礼してる。将斗は操縦桿を引き、見事な発艦をする。そして将斗の後から二番機の坂井三郎一飛曹が続けて発艦する。西沢と太田一飛曹は翡翠と昴の護衛のため迎撃隊に入ってる。
五航戦の翔鶴、瑞鶴の他に四航戦の龍驤、神驤からも攻撃隊が発艦する。三航戦の飛龍と蒼龍は船団護衛のため第二機動部隊と離れ、駆逐艦四隻と一緒に輸送船団に向かっている。
さて発艦した攻撃隊は上空で編隊を組む。攻撃隊の数は、
零戦五十四機。
九九式艦爆五十四機。
九七式艦攻五十四機。
零戦隊隊長椎名将斗少佐。
艦爆隊隊長高橋赫一少佐。
艦攻隊隊長嶋崎重和少佐。
の攻撃隊が勇ましく敵艦隊を目指す。
―――空母瑞鶴艦橋―――
「零戦全機発艦準備完了にしろッ!!」
山口長官の命令で各空母の格納庫で零戦の発艦準備が進められる。見張りも増やされ万全の体制が整えられる。一方攻撃隊は。
―――零戦椎名将斗少佐機―――
「そろそろだな。近藤ッ!松田ッ!」
「「はいッ!」」
「お前ら小隊率いて雲の下を索敵や!!」
「「了解ッ!!」」
近藤機と松田機がバンクし降下する。近藤と松田の列機も後に続く。この時、攻撃隊は雲が二千メートル近くにあったたむやむえず雲の上を飛行していた。将斗は雲の下に敵艦隊がいないか近藤と松田に降下の命令を出したのである。
―――零戦近藤機―――
「かなり揺れるな。いきなり出たら海面って事はないよな…」
そう言いつつ零戦六機は雲から出た。雲の下には将斗の睨んだ通りで敵艦隊がいた。上空には護衛機が数機いた。
「やったッ!!どんぴしゃや!!今井!急いで攻撃隊に連絡や!!」
「了解ッ!!」
三番機の今井機は上昇する。
「松田ッ!行くで!!」
「よっしゃッ!!」
近藤は操縦桿を倒し、急降下に入る。近藤ら零戦五機は上空にいた、ワイルドキャットを撃墜する。ワイルドキャットの数は二十四機いた。近藤は照準器を覗く。敵機はまだ気付かない。
「もらったッ!!」
近藤は機首の十二.七ミリ機銃の発射ボタンを押す。
ダダダダダダダッ!!!
ボゥッ……グワーン!!
初撃で五機落とした。近藤は操縦桿を引いて上昇し、敵機の後下方へ移動、再び機銃ボタンを押す。
ダダダダダダダッ!!
ボゥッ…グワーン!!
「よーしッ!!」
この時、近藤は警戒を解いてしまった。背後の敵機には気がつかない。
「小隊長ッ!!後方に敵機ッ!!」
「何ッ!!」
近藤が後方に向くとワイルドキャットが一機いる。既に撃とうとしてる。
「くそッ!!隊長すいません…」
その時。
ダダダダダダダッ!!
ボゥッ…グワーン!!
「え?」
突如、ワイルドキャットが火を噴いた。上空から零戦隊が降下してきた。
「近藤、もう少しで死ぬとこやったな」
右にきた、零戦搭乗員が話す。
「椎名隊長。ありがとうございます」
敵機を撃ち落とし、近藤の危機を救ったのは将斗だった。
「敵戦闘機は全機落とした。ご苦労様や」
「はい!ありがとうございます」
―――高橋赫一少佐機―――
「全機二個中隊に分かれて突入せよ!!」
高橋は操縦桿を倒し、急降下に入る。列機も高橋に続く。
ドンドンドンドンッ!!
ダダダダダダダッ!!
敵の対空砲火が艦爆隊を狙って放たれる。
ドグワーーンッ!!
「十一番機ッ!!やられましたッ!!」
十一番機は高角砲の直撃を受け、爆発四散した。それでも高橋は急降下を続ける。
「高度六百ッ!!」
「撃ぇーッ!!」
高橋が二十五番を投擲する。
ヒューーーーンッ。
ズカアァァァーーンッ!!
「隊長ッ!!命中ですッ!!」
「よしッ!!」
高橋が高度を上げ、状況を観察する。
「レキシントン型に六発、ヨークタウン型に五発か。……ん?何だあれ?」
それは雲の塊で敵艦隊の後方から徐々に敵艦隊を隠すように広がっている。
「まさか……スコールかッ!!」
「全機につぐッ!!攻撃を中止だ!!」
急いで高橋が無線連絡を入れる。急降下を開始しようとした艦爆隊が慌てて中止する。嶋崎重和少佐配下の艦攻隊も突撃を中止する。が、嶋崎重和少佐率いる二個中隊は突撃する。
ドンドンドンッ!!
ダダダダダダダッ!!
高角砲と対空機銃が嶋崎重和少佐率いる二個中隊を襲う。
ボゥッ…ズシューーンッ!!
「八番機やられましたッ!!」
嶋崎の耳に部下の悲痛な報告が聞こえる。それでも、嶋崎は突撃する。
「距離七百…六百ッ!!」
「魚雷投下ッ!!撃ぇーッ!!」
「魚雷投下ッ!」
ヒュウゥッ…チャポン
シャーーーッ
「魚雷走ってますッ!!」
嶋崎機は機首を上げ、上昇している。
ズシューーーンッ!!
ズシューーーンッ!!
「レキシントン型に魚雷二発命中ッ!!」
「ヨークタウン型にも二発命中ッ!!」
「よしッ!!急いで敵艦隊から離れるぞッ!!」
嶋崎隊が離れた直後、スコールが敵艦隊を覆った。
「危なかったですね。もう少しで死ぬとこでしたよ」
嶋崎の後方の偵察員が嶋崎に話す。
「ああ、そうだな」
嶋崎は艦攻隊を集める。艦爆隊も艦攻隊もまだ攻撃してない機の爆弾と魚雷は空中投棄された。攻撃隊は再び編隊を組み、第二機動部隊へ帰還していく。
―――第二機動部隊―――
『敵機来襲ッ!!繰り返す敵機来襲ッ!!』
電探室から悲鳴みたいな叫び声が聞こえる。空母では零戦が慌ただしく発艦していく。瑞鶴でも零戦が発艦する。
「翡翠さん。後ろは任して下さい」
西沢一飛曹が翡翠に無線を入れる。
「んじゃ任したわ」
翡翠があっけらかんと言う。
「昴さん。無茶しないで下さいよ。怒られるんは自分なんですから」
同じく太田も昴に無線を入れる。
「あー、それ無理。久々に暴れるから」
昴がはっはっはと笑う。迎撃隊は零戦六十機。敵機は百二十機程である。
「全機突撃ッ!!一機も艦隊に近づけさせんなッ!!」
昴が怒鳴る。敵編隊より五百メートル、上にいるので急降下の奇襲をするため、昴は操縦桿を倒し急降下に入る。あっという間に敵機が照準器に大きく写る。
「もらったぁッ!!」
昴は機首の十二.七ミリ機銃ボタンを押す。
ダダダダダダダッ!!
機銃弾がパイロットに当たったのかふらふらしながらワイルドキャットが落ちていく。既に辺りでは大空戦が始まっている。昴は翡翠機を見つけ近寄る。
「翡翠姉。何機落とした?」
「あたしもう二機落としたわ」
「げッ(-.-;)マジかよ。……あれ?翡翠姉。あの二機のワイルドキャットおかしくないか?」
翡翠が見ると二機のワイルドキャットは、フォーメーションを作り零戦と格闘をしている。
「昴ッ!あの零戦を助けるよ。あれは『サッチ・ウェーブ』よ」
翡翠はスロットルレバーを前に押し倒して増速する。昴も後ろから付いて来ている。この時、サッチ・ウェーブをしていたワイルドキャット二機の内の一機のパイロットはジョン・Sサッチ少佐である。サッチ少佐はこちらに来る翡翠ら零戦二機を視認し、追い掛けていた零戦を放置し、旋回して翡翠らを迎え撃つ。
「昴ッ!あたしが囮なるわ」
「わかった。翡翠姉、気をつけて」
翡翠機が速度を上げる。ワイルドキャット二機は左右に分かれる。翡翠は左に向かったワイルドキャットを狙う。このワイルドキャットはサッチ少佐機だった。サッチ少佐はすぐに味方機が来るだろうと思い、後方を振り返る。そこには火を噴きながら落ちていく列機がいた。むろん撃墜したのは昴だ。サッチ少佐は失念した。
「(まんまと敵機の罠にかかったか)」
サッチ少佐はそう思い、逃走しようとしたが翡翠機が後ろにいた。
「終わりね…」
ダダダダダダダッ!!
翡翠が放った機銃弾はコクピットに命中し、サッチ少佐の体を貫通した。
「……畜生……」
サッチ少佐はそう言うと事切れた。
「昴。そっちは落とした?」
落ちていくサッチ機には目もくれず、翡翠は昴に安否の確認をする。
「大丈夫だ翡翠姉。……ん?翡翠姉ッ!!ドーントレスが翔鶴に突入するぞッ!!」
「やばッ!!昴行くよッ!!」
「おおッ!!」
二機の零戦が速度を上げてドーントレスを目指す。翔鶴を狙おうとしてたドーントレス五機の内、二機を落としたが三機は翔鶴に突入した。
「来るなら来なさいッ!!」
翔鶴は刀を振り回す。
ドンドンドンッ!!
ダダダダダダダッ!!
「とーりかぁーじッ!」
「とーりかぁーじッ!」
翔鶴城島高次艦長の命令に操艦手が復唱する。
ヒューーーーンッ
ヒューーーーンッ
ヒューーーーンッ
「ちッ!全員衝撃に備えろッ!!」
翔鶴も手すりに捕まる。
ズシューーーンッ
ズカアァァーーンッ
ズカアァァーーンッ
「グアァァァァァァッ!!」
左肩から血が出て、腹からも血が吹き出る。
「くぁ……」
翔鶴は防空指揮所にズルズルと倒れる。
幸い敵機は退却してる。
「消火急げーッ!」
応急班が艦内を走り回る。火は十分くらいで消し止められた。史実の日本海軍ではすぐには消し止められないが、この世界では川嶋中将らによってスプリンクラーを作り全艦艇に備え付けられたためすぐに消し止められた。
「姉上ッ!!大丈夫か?」
「ず、瑞鶴…。…大丈夫よ。心配ないわ」
「だがその傷では……」
「いいから早く戻るのよッ!!すぐに第二波が来るかもしれないのよッ!!」
「………わかった。姉上気をつけて……」
瑞鶴が消える。翔鶴は刀を使ってなんとか立ち上がる。翔鶴が辺りを見回すが幸い、他の艦には被害がなかった。
―――二時間後―――
―――空母瑞鶴艦橋―――
「翔鶴に爆弾が二発命中。前部飛行甲板と後部飛行甲板に一発ずつで発着艦不能です」
「そうか。翔鶴から発艦した攻撃隊は瑞鶴ら三空母に着艦させよう。翔鶴は駆逐艦四隻で護衛してトラックまで退避させろ」
「了解しました」
参謀は敬礼して作業に移る。参謀の入れ代わりに将斗達が艦橋に入ってきた。
「おお、将斗君。ご苦労だったね」
「いえ、自分は何もしてませんよ」
将斗が山口長官に敬礼して答える。
「報告します。攻撃隊の戦果は、敵空母二隻大破。敵重巡一隻大破。損失機は艦爆一機、艦攻同じく一機です」
「ふむ。少し歴史が変わったね」
「はい。本来ならレキシントンが撃沈されるはずですが急にスコールが現れ、撃沈することが出来ませんでした」
「まあ、過ぎたことは悔やむな」
将斗達が戦果報告をしてると通信兵が艦橋にきた。
「山口長官ッ!ラバウル航空隊より入電です」
「読め」
「ハッ!『ラバウル航空隊ハ現在ポートモレスビーヲ空襲中ナリ』です」
「ラバウル航空隊が?」
「ん?確かラバウル航空隊の司令官って大西だったな」
「そういえばそうですね」
この時、ラバウル航空隊司令官大西瀧治郎少将はポートモレスビー攻撃を思案、直ちに攻撃隊を発進させた。数は零戦百八機、一式陸攻七十二機、九六式陸攻七十二機が発進させ、見事に奇襲攻撃に成功した。
「これだとMO作戦は成功ですね」
「うむ」
山口長官と将斗達は蒼い珊瑚海を見つめる。
六時間後、攻略部隊がポートモレスビーを攻撃、三個師団が上陸し、翌日に守備隊は降伏した。ポートモレスビー占領後、滑走路が修復され、ラバウルから零戦五十四機、隼七十二機、一式陸攻七十二機、九六式陸攻七十二機が移動してきた。さらに陸軍局地戦闘機の鍾馗四十五機も移動してきた。
ポートモレスビーの基地の再建が行われる間、海軍はいよいよ最大の作戦を決行しようとしていた。
御意見や感想等お待ちしてますm(__)m