第九十四話 決戦と原子爆弾
まさかの連続投稿。(-.-;)
―――1945年7月16日柱島泊地旗艦大和―――
「山本長官。いきなりの呼び出しですが、どうかしたんですか?」
椎名将斗『大佐』は何時ものメンバーの近衛翡翠『中佐』、近衛昴『中佐』を連れて旗艦大和に来た。
「椎名君……連合軍が動いた」
『ッ!?』
「それではッ!?」
「あぁ……全艦に緊急電。目的地はセイロン島だ」
「……やはりインド洋で来ると?」
「伊号潜からの報告ではパナマ運河には向かっていないらしい。十中八九、インド洋から来るはずだ」
「成る程」
将斗は頷く。
「椎名君、気づかないか?何故、今頃になって連合軍が動き出したのか?」
「ようやく艦隊の錬度が整ったからじゃないですか?」
「椎名君、今日は何年何月何日だ?」
山本からの質問に将斗は首を傾げる。
「今日は1945年の7月16日………まさかッ!?」
将斗は何かに気づく。
「そうだ。今日はマンハッタン計画の原子爆弾が完成した日だ」
『ッ!?』
部屋は一気に緊張の空気が漂う。
「……では艦隊は囮で直接日本に?」
昴が口を開く。
「いや、それはないだろう。本土は排気タービンを搭載した震電が多数配備している。迂闊に出せば、全滅するのがオチだ」
山本は席を経つ。
「軍令部は原子爆弾の事はあまり警戒していないが、俺はそうは思わん。嫌な予感がするぞ」
「……どうしますか?」
「今のところは艦隊の動向を見守るしかないな。第五航空艦隊は来れんが、本土防衛第三航空艦隊以外の他の航空艦隊は全機セイロン島に集結させる」
「そんなに多くて大丈夫ですか?」
「こんな事もあろうかと密かにセイロン島の航空基地を増設しておいた」
山本はニヤリッと笑う。
絶対に『こんな事もあろうかと』が言いたかったんやろな。
「そうですか。なら、我々は死力を尽くすのみですね」
将斗も苦笑する。
その後、将斗達は第二機動艦隊旗艦瑞鶴に戻った。
―――旗艦瑞鶴防空指揮所―――
「………………」
将斗は防空指揮所で大の字になりながら空を見ていた。
「何をしているんだ?」
ぬうっと瑞鶴が顔を出す。
「今度の決戦は知ってるやろ?」
「あぁ」
瑞鶴は頷く。
「山本長官は嫌な予感がすると言ってたけど、俺はそうは思わん」
「原子爆弾か?」
将斗は無言で頷く。
「軍令部程、楽にはしとらん。ただな……原子爆弾はアメリカは落とさんと思うねん」
「何故だ?」
瑞鶴の問いに将斗は笑う。
「俺の感や」
将斗の言葉に瑞鶴は苦笑した。
―――ホワイトハウス―――
「連合軍艦隊は?」
フランクリン・D・ルーズベルト大統領はノックス海軍長官に尋ねる。
「連合軍艦隊はカナリア諸島で合流。一路マダガスカル島を目指しています。……しかし大統領」
「何かね?」
ルーズベルトは眼鏡の汚れを取りながら尋ねる。
「重巡インディアナポリス2が大統領命令で特務についていますが、特務とは何ですか?」
「うむ、君には話すか」
ルーズベルトは綺麗にした眼鏡を机に置く。
「マンハッタン計画の原子爆弾が完成したのは君も知っているだろう?」
夜中に電話で起こされたのだ。覚えているに決まっている。
「存じております」
「重巡インディアナポリス2は完成した二発の原子爆弾『リトルボーイ』と『ファットマン』をマダガスカル島に輸送しているのだよ」
「ッ!?」
ノックスは愕然とした。
「護衛は付けていないのですかッ!?」
「極秘なんだ。大丈夫だよノックス。大西洋とマダガスカル島の海域は安全だ」
「(何処から安全という言葉が出て来るんだッ!?)」
ノックスはルーズベルトに罵倒を浴びせたいが我慢をする。
「インディアナポリス2はそこで特務を解かれる。しかし、ここからは極秘だぞノックス?」
ゴクリとノックスは唾液を飲み込む。
「二発の原子爆弾は輸送用の潜水艦にセーシェル諸島まで運ばれる」
セーシェル諸島はまだ日本軍は占領していなかった。
「セーシェル諸島にはB―29『エノラ・ゲイ』と『ボックスカー』に乗せて、連合艦隊と連合軍艦隊に向かわせる」
此処まで聞かされたらいくらノックスでもルーズベルトが言いたい事は分かった。
「大統領ッ!?まさかその二発を交戦中の両艦隊に落とす気ですかッ!?」
ルーズベルトはニヤリッと笑う。
「そうだ。何か文句あるかね?我々はジャップを全滅させねばならんのだぞッ!!ジャップの連合艦隊と相打ちになるのだ。連合軍艦隊の将兵も『ホンモウ』だろう」
ノックスは愕然とした。
ルーズベルトの目は汚れきっていた。
将兵は愛する家族を、愛する恋人を、愛する妻を、愛する国のために戦っているのだ。
「(それをこいつは踏みにじり……本望で片付けるだとッ!?)流石です大統領ッ!!私もそこまで考えが浮かびませんでしたよ」
ノックスは目の前にいる『ゴミ』を銃で撃ちたかったが堪えて褒める。
「そうだろう?なーに、チャーチルやヒトラーも分かってくれるさ」
ルーズベルトは笑う。
その後、二、三の言葉を話してノックスは大統領室を出る。
「(スチムソンに言うか。あの大統領を終わらせる手段を……)」
ノックスは決意した表情でスチムソン陸軍長官室に向かった。
―――7月26日時大西洋喜望岬沖約二百キロ―――
一隻の重巡がアメリカの旗を艦尾に掲げながら航行していた。
艦名は『インディアナポリス2』
特務の任務についていた。
二発の原子爆弾の輸送任務である。
艦魂のインディアナポリスは艦首にいた。
「……誰か私を沈めて下さいッ!!私は……私は姉さんや仲間をわざと殺したくありませんッ!!」
インディアナポリスの悲痛な叫びは波によって掻き消える。
しかし、ある一隻だけの潜水艦がこの付近にいた。
「いたぞッ!!アイダホ型戦艦だッ!!魚雷戦用意ッ!!」
その潜水艦艦長の橋本以行中佐は部下に命令を下す。
その潜水艦の名前は『伊―五八』だった。
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