第九十三話 通商破壊後編その四
やっと通商破壊はこれで終了です。
二隻は最大速度で擦れ違う。
アンはフッと笑い、伝声管を取る。
「取舵一杯ッ!!カットラスをあいつに捩込むよッ!!」
アンの言葉にメアリが驚く。
「えッ?!ちょ、アンッ!?」
カットラスの艦体は右に傾く。
―――超巡畝傍―――
駆逐艦を見た九鬼は慌てて命令を下した。
「駆逐艦に砲撃を集中ッ!!急げッ!!」
後部三番砲搭が慌てて照準を合わせるが遅かった。
ドガガガッ!!
艦体が震える。
「まさかッ?!」
九鬼が後部を見ると、艦尾に駆逐艦がぶつかっていた。
「ゲッ?!」
「う〜ん、ありゃ乗り込んでくるよ」
九鬼は驚き、千賀が冷静に判断する。
「全員白兵戦に備えろッ!!」
九鬼はそう言うと、後部に行く。
「野郎どもッ!!斬り込むよッ!!」
『オォォッ!!』
アンの言葉に、小銃とヘルメットを装備した乗組員が雄叫びを上げる。
ちなみにメアリはアンのディープなキスに爆沈していた。(笑)
「GOッ!!」
乗組員達が畝傍に乗り込む。
「撃てェェェッ!!」
ダダダダダダダダッ!!
ターンッ!!ターンッ!!ターンッ!!
二十五ミリ三連装対空機銃と女性乗組員は九九式小銃で応戦する。
「グハァッ!!」
「ギャアッ!!」
銃弾が次々と乗組員に命中して絶命、または瀕死の重傷を負う。
「ち、こりゃぁやばいな……」
アンは呟く。
衝突時に艦首がめくり上がり、丁度いい弾避けになっている。
「しかし、あいつら楯を持っているとか知らなかったな」
アンの視線の先には、楯に作られた超々ジュラルミンだった。
「弾避けに行けるだろ」と女子乗組員の安全を考えて、畝傍に装備されていた。
まぁ十二.七ミリ以上は耐えられへんが……。
「撃てッ!!何としても敵を畝傍に入れさせるなッ!!」
九鬼が乗組員を叱咤しつつ、自身も小銃を放つ。
タァーンッ!!
「ピゲラッ!!」
喉を貫かれたカットラスの乗組員が海に落ちる。
「あれが日本の乙女……いいねぇ」
アンがペロリと右手から流れている血を舐める。
ゾワワワワワッ!!
「ッ?!な、何だ、今の背筋が凍るような視線はッ?!」
九鬼は震えていた。
一方、艦魂である畝傍は同じく艦魂であるカットラスと戦っていた。
「シッ!!」
畝傍が繰り出した左片手平突きをカットラスがギリギリで避ける。
「ハァ…ハァ…。中々やるわね」
「ふん。貴様こそ」
両者とも、服は所々で破れていた。
……翡翠がいたら喜びそうな場面だが……(笑)
「さっさと決着つけるわよ」
カットラスは二刀の片刃曲刀であるカットラスを構える。
しかし、畝傍はフッと笑った。
「……何が可笑しいのよ?」
「どうやらこの勝負……私の勝ちのようだな」
畝傍はそう言うとある方向を刀で示した。
刀の方向を見たカットラスは顔を急速に青ざめた。
畝傍の後部主砲が、カットラスに狙いを定めていた。
「俯角いっぱいッ!!」
「待って小浜ッ!!まだ間宮がッ!!」
「さっさと引っ込めろォォォォォッ!!!」
何故、このような会話になっているのかと言うと、内務長の間宮中佐が暴走しているからだ。
発端は、いつの間にか復活したメアリ副長が、アンの支援のために前部十二センチ砲を発射した。
ドオォォンッ!!
ズガアァァンッ!!
砲弾は甲板に当たって爆発した。
九鬼達乗組員は既に大楯で防御し、身を屈めていたため、負傷者はなかったが、爆風で九鬼の帽子が飛んで海に落ちた。
それを目撃した九鬼ラブの間宮内務長がキレた。
「貴様らァァァーーーッ!!!」
「ピゲッ!!」
近くにいた敵兵に突きで一差しにする。
「このォッ!!」
タァーンッ!!
敵兵が仲間の仇とばかりに間宮に銃弾を放つが、間宮は避ける。
「へ?」
「銃弾が見えなくとも、撃つ瞬間の指を見れば簡単だッ!!」
それはあんただけや。
……話しがそれた。
間宮はそのまま銃弾を放った敵兵を叩き斬る。
一種の間宮無双になっている。
「間宮ァァッ!!戻って来なさァァいッ!!」
「クッキー。あたしがいい方法で呼び戻そうか?」
いつの間にか航海長の千賀中佐が九鬼の傍にいた。
「どうするの?」
「な〜に、一発で戻ってくるわよ」
そして、千賀が間宮を呼ぶ。
「間宮〜ッ!!こっちに注目よッ!!」
「??」
間宮が振り返ると、千賀は瞬間に九鬼の服を脱がした。
九鬼は目が点になる。
下半身は脱いでないが、上半身は千賀が全部脱がした。
ブシュウゥゥゥッ!!
間宮の血が甲板に飛び散る。
間宮はゆっくりと逃げる。
歩き方はぎこちないが……。
「(からくり人形みたい……)」
九鬼はそう思う。
「あ〜♪」
「ちょ、アンッ!!」
駆逐艦でもアンが九鬼に行こうとするのをメアリが抑える。
「撃ぇぇいッ!!」
三番砲搭の右門がキラリと光ったのは気のせいだろう。
「総員退避ッ!!」
アンが慌てて指示を出すが、間に合わなかった。
ズドオォォォーンッ!!
右門が放たれた砲弾は、カットラスの主砲、艦橋、煙突等を跡形もなく吹き飛ばしてカットラスの後方百メートルに着弾した。
「くぅ〜。やってくれたな」
アンは瓦礫を退かす。
「はわぁ〜。甲板から上がさっぱりと……」
メアリはため息をつくしかない。
一方、畝傍とカットラスの戦いも既に終わっていた。
カットラスは酷かった。
両足はポッキリと折れてあらぬ方向を向いている。
左目から出血もしている。
さらに、腹からも出血をしている。
「…ハァ…ハァ…とどめを刺しなさい……」
だが、畝傍は刀を納める。
「……何のつもりよ?」
「貴艦の艦長が、機関長に後退の命令を出した。助かったな」
カットラスは右手を強く握る。
「……それが武士道の精神とやらかしら?」
「さぁな。元々私はフランスの軍艦だからな。だが、助かる命は助けるのは人としての性だ」
「……私達は艦魂だけどね……」
畝傍はカットラスをおんぶしてカットラスの甲板に寝かす。
「……次は負けないわ」
「……褒め言葉として受け取っとこう」
畝傍はカットラスに敬礼して転移した。
駆逐艦カットラスは既に大破、戦闘不能。
「……見てなさいウネビ……」
再戦を誓うカットラスだった。
連合軍輸送船団は秋山少将の通商破壊部隊に攻撃され、重巡一、軽巡一、駆逐艦四、輸送船十七隻が撃沈。
軽巡一、駆逐艦三隻が大破した。
輸送船団司令官のキンケード中将は中東への輸送を諦めてマダガスカル島への帰還を決定した。
秋山少将の通商破壊部隊は長居は無用と既に撤退していた。
このため、大破していた艦艇を牽引する事が出来た。
この輸送の失敗の結果、ティガーやM4等の多数の戦車や重砲が海の藻屑と消えた。
多くの艦載機や艦艇、人材を失った連合軍は海上輸送から陸上輸送に変更せざるを得なかった。
次回は新米士官先生のキャラを呼ぼうと思います。御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m