第九十一話 通商破壊後編その二
―――旗艦六甲―――
「三川長官ッ!!第一次、第二次攻撃隊の戦果報告を致しますッ!!」
通信参謀が慌てて艦橋に上がってくる。
「敵中型空母一、乙巡二、駆逐艦五、輸送船六隻撃沈ッ!!敵中型空母二、甲巡一、乙巡一、駆逐艦三、輸送船四隻大破及び、中破ですッ!!」
『オオォォォッ!!』
通信参謀の報告に艦橋にいた参謀達、士官、下士官、兵達は雄叫びを上げた。
「騒ぐなァァァーーーッ!!!」
雄叫びがピタリと止まる。
怒号を放ったのは三川だった。
「戦は始まったばかりだ。まだ、我々が残っているのにはしゃいでどうする?はしゃぐのは終わってからにしろ」
『ハッ!!申し訳ありませんッ!!』
艦橋にいた者は三川に敬礼して、作業に戻る。
「(……報告を聞く限りでは、残りの中型空母は一隻。輸送船団を襲う前に来そうだな……)」
三川は悔しそうに顔を歪める。
―――1時間後―――
「電探に反応ッ!!敵偵察機ですッ!!」
艦隊の真正面からアベンチャー雷撃機一機が飛行している。
「対空戦闘用意ッ!!」
『対空戦闘用意ッ!!』
艦内が慌ただしくなる。
「主砲の射程距離に入り次第、砲撃せよ」
アベンチャー雷撃機は射程距離内には近づかず、盛んに電波を放っている。
しかし、一瞬だけ射程距離内に入った。
「撃てェェェッ!!」
ズドオォォォーーンッ!!
畝傍、六甲の前部主砲が火を噴く。
だが、すぐにアベンチャーは退避したため、戦果はなかった。
「まだ、敵機来襲には時間がある。今のうちに、戦闘食を食わせろ」
三川の命令による各艦に戦闘食が配れた。
―――2時間後―――
「電探に反応ッ!!敵機来襲ですッ!!数は約六十ッ!!」
「対空戦闘用意ッ!!」
『ヴーーーッ!!ヴーーーッ!!』
警報が艦内に鳴り響く。
機銃員、高角砲員が配置につく。
その時、見張り員が叫んだ。
「左二二○度、アベンチャー雷撃機約二十機突っ込んでくるッ!!」
「対空戦闘開始ッ!!」
「撃てェェェッ!!」
ズドオォォォーーンッ!!
ドンドンドンドンドンッ!!
ドドドドドドドドドッ!!
主砲、高角砲、対空機銃が一斉に火を噴きはじめる。
数機のアベンチャーと爆装したヘルキャットが落ちる。
しかし、敵機は猛然と三川艦隊に襲い掛かる。
「左舷よりアベンチャー雷撃機三機接近ッ!!」
「アベンチャー、魚雷投下ッ!!」
「取り舵二十ッ!!」
「とーりかーじッ!!」
魚雷は外れる。
「敵爆撃機、爆弾投下ッ!!」
ヒュウゥゥ……。
「取り舵二十ッ!!」
ズシュウゥゥーーンッ!!
外れた爆弾は虚しく水柱を上げた。
「電探に反応ッ!!烈風ですッ!!三十機の烈風隊が接近中ですッ!!」
電探員の報告に三川は頬を緩めた。
「空母隊の直掩隊か……。有り難いな」
その時、見張り員が叫んだ。
「正面、敵機接近ッ!!」
二機のヘルキャットが迫っていた。
ダダダダダダダダダッ!!
二機のヘルキャットが機銃弾をぶちまけながら九十キロ爆弾を投下した。
「グゥッ!!」
機銃弾が艦橋にいた人員を襲う。
三川も左脇腹に激痛を感じて、思わず倒れた。
「三川長官ッ!!」
誰かが叫び、三川の元に駆け寄る。
三川が左脇腹を見ると、貫通ではなく掠っていた。
腸にも損傷がないように見えたが、出血が激しかった。
三川はやむを得ず、衛生兵の肩を借りながら治療室に向かった。
しかし、六甲の被害はそれだけではなかった。
二機のヘルキャットが機銃弾を叩き込みながら九十キロ爆弾を投下していた。
九十キロ爆弾四発の内、一発は外れた。
二発は前部一番、二番砲搭の間に命中。
二番砲門はひしゃげ、一番砲搭は旋回不能となった。
後の一発は右舷の高角砲一基に命中。
高角砲と中の高角砲員は吹き飛ばされて海面に叩きつけられた。
烈風隊の救援により、何とか事なきを終えたが、通商破壊部隊は幸いにも沈没艦はなかったが、超巡一、駆逐艦三隻を損傷した。
三川は、やむを得なく損傷した四隻を後方の空母部隊の護衛に回し、三川自身も負傷しているため、臨時指揮官を軽巡鈴鹿座乗の遣印艦隊水雷戦隊司令官の秋山輝男少将に命じた。
臨時指揮官となった秋山は、後方へ退避する四隻の僚艦に敬礼で別れを告げると、対潜警戒をしながら二十五ノットの速度で、敵輸送船団に向かった。
ちなみに、秋山輝男少将は史実では第三水雷戦隊を率いており、クラ湾夜戦で敵砲弾が座乗していた駆逐艦新月の艦橋に命中して戦死したが、この世界ではまだ生きている。
まだまだ続きます。新米士官先生達を此処に呼べるの何時になるやろ……。御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m