第九十話 通商破壊後編その1
―――ソコトラ島沖―――
「三川長官。彩雲五号機より入電『我、敵輸送船団発見』です」
通信兵が読み上げる。
「距離は約五百キロです」
「攻撃隊の準備は?」
「既に完了しています」
三川の問いに航空参謀を自信を持って告げる。
「よし、攻撃隊発艦せよッ!!」
旗艦六甲から発光信号が送られる。
指示を受けた四隻の雲龍型は次々と搭載機を吐き出していく。
「攻撃隊発艦後、空母部隊は対潜型駆逐艦八隻の護衛の元、後方へ退避。残りは輪形陣を構成して、敵輸送船団に向かう」
三川の命令は発光信号を通して全艦に伝えられた。
烈風六十機、流星艦爆五十四機、流星艦攻五十四機の第一次攻撃隊は編隊を組むと、案内の彩雲と一緒に敵輸送船団に向かった。
また、旗艦六甲以下の砲雷撃艦隊も攻撃隊の後を追う。
―――第一次攻撃隊―――
空母妙義の制空隊第二中隊の第三小隊隊長の杉田庄一一飛曹は攻撃隊より二百メートル上を飛行していた。
「久しぶりの戦いだな」
艦戦烈風の操縦席で杉田は呟く。
杉田は一ヶ月前では第一航空艦隊に所属しており、毎日、英米独の戦闘機と空戦をしていた。
そんな時に、空母の乗り込みの召集を受けたのだ。
杉田が物思いに耽っていると、彩雲の偵察員の叫び声が響いた。
『電探に反応ッ!!敵機発見ッ!!2時の上方ッ!!距離一万五千ッ!!』
彩雲には機上電探が搭載されている。
『数は分かるか?』
制空隊隊長の島田少佐が尋ねる。
『約百二十です。あッ!!航跡発見ッ!!敵輸送船団ですッ!!』
その瞬間、攻撃隊指揮官の畑中少佐が叫んだ。
『全軍突撃せよッ!!』
杉田は突然の事に驚いたが、制空隊指揮官の島田は整然と対処した。
『全制空隊は敵戦闘機と空戦だッ!!一機も攻撃隊に近寄せさせるなッ!!行くぞッ!!』
島田機は敵機に向かう。
杉田達も続けて向かう。
日米両者の猛烈なドッグファイトが開始された。
「この野郎ッ!!」
杉田は機銃をぶっ放して突っ込んでくるF6Fヘルキャットに対して左旋回でかわす。
かわした杉田は、そのままヘルキャットの後方に回り込む。
「シットッ!!」
ヘルキャットは逃れようとするが、烈風より速度、旋回性能に劣るため、逃れられない。
「くたばれッ!!」
ドドドドドドドッ!!
杉田は両翼に備えられている二十五ミリ機銃を発射する。
ガンガンガンガンッ!!……ボゥッ!!
大量の機銃弾を叩き込まれたヘルキャットは炎を上げながら海面に向かって墜ちていく。
「さぁて、次はどいつだ?」
杉田は新たな獲物を求めてドッグファイトが繰り広げられる中に入った。
―――畑中少佐機―――
「あれは中型空母だな。潜水艦の奴ら見間違えてるな」
操縦席に座る畑中は眼下にいる敵輸送船団を見て呟く。
「まぁいい。獲物はでかい方がいい。艦爆隊ッ!!全機俺に続けッ!!」
畑中はバンクすると一隻の空母に向かって急降下を開始した。
―――空母インディペンデンス艦橋―――
「敵機急降下ァァァッ!!」
艦橋内に見張り員の絶叫が響く。
「当たるなよ……」
輸送船団司令官のキンケード中将が呟く。
しかし、キンケード中将の願いは届かなかった。
「投下ッ!!」
ヒュウゥゥ……。
畑中機から放たれた爆弾がインディペンデンスに吸い込まれるに落下してくる。
ズガアァァーーンッ!!
ズガアァァーーンッ!!
インディペンデンスは二発の五百キロ爆弾を喰らった。
「よっしゃッ!!」
高度一千に達した畑中は眼下に燃える空母を見て喜ぶ。
だが、それはすぐに終わった。
「ッ!?後方よりヘルキャット二機ッ!!」
「ッ!?」
ダダダダダダダダタッ!!
二機のヘルキャットは空母の仇とばかりに大量の十二.七ミリ機銃弾を畑中機に叩き込む。
ガンガンガンガン……ズガアァァーーンッ!!
機銃弾が燃料タンクをぶち抜き、引火。
畑中機はそのまま爆発四散した。
―――艦攻隊隊長松村平太少佐機―――
「畑中……」
雷撃のため、超低空飛行をしていた艦攻隊隊長松村平太少佐はふと上空を見た時、畑中攻撃隊総隊長の最期を見た。
「仇は必ず取る……」
松村は爆発四散した畑中に無言の敬礼をした。
「俺の中隊は炎上している空母をやる。他は空母及び護衛艦を攻撃せよッ!!」
松村は速度を上げて、インディペンデンスを目指す。
インディペンデンスの周囲の護衛艦から対空砲火を撃ち、松村中隊を阻む。
ドンドンドンドンッ!!
ダダダダダダダダタッ!!
ドグワアァァァンッ!!
「七番機直撃ッ!!」
機銃手が叫ぶ。
その間にも中隊は距離を詰める。
「空母との距離千二百ッ!!」
ドグワアァァァンッ!!
「五番機直撃ッ!!」
「距離千ッ!!」
ダダダダダダダダタッ!!
空母の舷側に備えられている対空機関砲が松村中隊を襲う。
「ち……」
松村はフットバーを踏み、左右に揺らす。
機関砲弾は見当違いの方向に飛んでいく。
「距離八百ッ!!」
「今だッ!!魚雷撃ェェェーーーッ!!!」
「投下ッ!!」
偵察員が復唱して投下索を引いた。
ヒュウゥゥ……ザバアァンッ!!
列機も魚雷を投下する。
松村は投下の反動を利用して離脱する。
放たれた七本の魚雷は白い航跡を吐きながらインディペンデンスに突き進む。
インディペンデンスは回避をしながら、海面に向かって砲弾と機銃弾を叩き込む。
七本中、四本が外れ、その中の一本の魚雷が機銃弾に命中して爆発する。
ズシュウゥゥーーンッ!!
しかし、残りの三本はインディペンデンスに進んで命中した。
ズシュウゥゥーーンッ!!
ズシュウゥゥーーンッ!!
ズシュウゥゥーーンッ!!
左舷に三本の魚雷が命中したインディペンデンスは、航行を停止。
ゆっくりと傾斜が酷くなる。
「総員退艦ッ!!」
艦橋にいたキンケードはインディペンデンスが長くないのを悟り、退艦命令を出して自らも退艦する。
軽巡の艦体を利用しての軽空母では耐えられなかったのだ。
「よーしッ!!畑中の仇を討てたな」
松村はそう呟くと、残存の攻撃隊を纏めて母艦へと帰還した。
駆逐艦に拾い上げて貰ったキンケードは、船団の組み直しに急いでいた。
しかし、レーダー員から悲痛な報告が届いた。
「敵機接近中ッ!!数は百以上ッ!!」
「迎撃機を上げろッ!!全艦対空戦闘用意ッ!!」
キンケードはこれだけしか言えない。
後はどれだけ迎撃隊が被害を食い止めるのに祈るしかなかった。
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