第八十八話 通商破壊前編
新米士官先生のキャラが出る番外編は通商破壊作戦が終わったらやります。
―――1944年6月15日セイロン島コロンボ港―――
一隻の大型艦が四隻の駆逐艦を従えてコロンボ港に入港した。
―――基地司令室―――
「超巡畝傍以下五隻、無事にコロンボ港に到着しましたッ!!」
畝傍副長の九鬼が遣印艦隊司令長官の三川軍一中将に報告をしていた。
「うむ、ご苦労だ。長旅だっただろう、三日の休暇をやる。ゆっくりと休養するんだな」
「ハ、ありがとうございます」
九鬼は敬礼をして司令室を出た。
「ようやく数が増えてきたな」
三川は一枚の紙に手を伸ばす。
―――『遣印艦隊編成』―――
超巡畝傍、六甲。
重巡石狩、赤石、柏原、能登。
軽巡鈴鹿、勝浦、黒部、千曲。
空母妙義、鳳凰、筑肥、白神。
艦隊型駆逐艦十六隻。
対潜駆逐艦十六隻。
潜水艦十六隻(伊号、潜高、呂号合わせて)
駆逐艦や巡洋艦の半数は捕獲艦である。
空母は雲龍型の七番艦から十番艦である。
「邪魔するぞぃ……」
三川の司令室に一人の老齢の海軍士官が入ってきた。
「ッ!?別当艦長ッ!!お久しぶりです」
相手は畝傍艦長の別当大佐だった。
別当はそう言いながら三川に敬礼をする。
勿論三川も返礼する。
「海兵学校以来じゃの」
「はい、教官にたくさんの事を教えてもらいました」
「儂は自分が体験した事を語ってるだけじゃ」
別当は日本海海戦を経験した事もある古参の士官である。
別当は日本海海戦以降は、駆逐艦や巡洋艦等の小型艦艇の道を歩み、畝傍艦長になるまでは海兵学校の教官をしていた。
別当は一升瓶の日本酒を取り出す。
「久しぶりに生徒に会ったんだ。飲むぞ」
「いや、自分はまだ勤務中なのですが……」
三川が時計を見ると、まだ午後8時半。
司令長官の勤務時間は一応10時までである。
「むぅ、仕方ないのぅ。少し待ってやるか」
別当はその辺をふらつくと言って司令室を出た。
―――2時間後―――
三川と別当は三川の自室で酒を飲んでいた。
「ところで教官。何故教官が此処に派遣されたのですか?」
既に顔が赤くなっている三川が別当に尋ねる。
「連合艦隊司令部の意向でのぅ。畝傍はまだ大した実戦を経験しとらん。輸送船を狩って、経験を積んでもらうのじゃよ」
「そういえば畝傍の乗組員は……」
「うむ、皆女性じゃ。儂としては女性を戦場に送るのは遺憾じゃが、時代は変わっていくものじゃ。戦艦から主力が航空機に変わったようにのぅ……」
「教官……」
三川は別当の言葉に何も返せなかった。
「……それにの。司令部はインド洋を最後の決戦にしたいようじゃ」
「最後の決戦ですか?」
「うむ」
別当はくいっと酒を飲む。
「インド洋での決戦を優位にすべく、鮫退治と輸送船狩りが遣印艦隊の任務じゃろう?何のために対潜駆逐艦を派遣してるのじゃ?」
「はぁ、それは分かっているのですが、潜水艦と輸送船を狩るのはあまり軍人にとっては……」
「馬鹿者ッ!!一に空母、二に戦艦ではないッ!!日本にとって脅威なのは潜水艦じゃ。史実でも輸送船団が大損害を被っておるのじゃ。そんな頭だから第一次ソロモン海戦で輸送船団を見逃すのじゃ。少しは臨機応変をしろ」
「うぅ………」
三川は別当に怒られ、身を縮こませる。
「ところで三川。マダガスカルに大規模な輸送船団が到着したと聞いたぞ」
話を変えた別当に三川は感謝しつつ、顔の表情を変えた。
「はい、中東方面に向かうと我々は予測しています」
「攻撃方法は?」
「潜水艦と空母による攻撃を企図しています」
「ふむ……」
別当が腕を組む。
「何か問題でも?」
「ん?いやなに、潜水艦と空母の攻撃だが、儂らは何のために派遣されたのじゃ?」
「そりゃあ、中東方面に物資を運ばせないように通商破壊を……」
「そうじゃろう?なら、何故畝傍や重巡で攻撃せぬのだ?」
「……教官。何か考えがおありのようですな」
三川はニヤリッと笑う。
「うむ、大規模な輸送船団じゃが空母は恐らく護衛空母だろう。……作戦としては史実のマリアナ沖海戦時のアウトレンジ作戦でいこうと思う」
別当はたまたま視界にあった将棋の駒と地図を持ってきた。
「まず、アミラント諸島に潜水艦(潜高)部隊を配置させて、雷撃は一度だけにする」
別当は潜水艦を香車に例えて、地図に並べる。
「一度だけですか?」
「うむ、その後、護衛艦の爆雷を凌いで輸送船団の後方に就かせて船団を監視させるのじゃ」
「成る程」
三川が頷く。
「そして、ソコトラ島付近に艦隊を配置し、三波に及ぶ航空攻撃を敢行させるのじゃ。その間に畝傍を主力とさせる部隊で輸送船団に留めを刺すのじゃ」
別当が歩、飛車、金将等をソコトラ島付近に置く。
「成る程、史実の日本が考えた作戦を再現するのですね」
三川が満足したように頷く。
「全く、それくらい思いつかんか」
別当は酒を飲む。
別当が時計を見ると、既に夜の11時を指していた。
「老体に夜更かしはきつい。そろそろ帰るわい」
「教官、力を貸して頂きありがとうございました。この作戦を参謀達と検討してみます」
「なぁに、日本のためなら何時だって力を貸すわい。それじゃあのぅ」
別当は空になった日本酒を持って司令室を出た。
三川は畝傍に帰っていく別当をいつまでも敬礼し続けた。
三日後、別当の作戦は参謀達には五分五分だったが、やってみる価値はあると判断されて採用された。
出撃準備が完了していた潜水艦部隊がアミラント諸島に向かって出撃した。
その7時間後に、マダガスカル島に哨戒任務に就いていた伊号潜水艦から緊急入電が入った。
『小型空母四隻、巡洋艦八隻、駆逐艦、輸送船多数ノ船団ガ出港ス』
電文を受けとった三川は直ちに全艦に出撃を命令した。
既に出撃準備を完了していた艦艇は次々とコロンボ港を出撃。
一路、ソコトラ島付近の海域に向かった。
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