アラート
それほど遠くない未来。
人類の技術は遥かに進化していた。
様々な機械が発明され、人々の生活はとても便利なものになった。
特に自動車の自動運転が開発された時には世界中の人々が驚いた。
何しろ経由地や目的地を設定するだけで後はハンドルを握る必要もなく自動車が勝手に運転してくれるのだ。
車に乗りながら読書をしたり居眠りをしたりも出来てしまう。
また、自動運転の自動車は信号や白線、更には標識や障害物まで感知できてしまう為、交通事故の発生件数はゼロになった。
交通戦争と呼ばれた時代は終わりを告げ、警察署からは交通課が無くなった。
この便利な発明によって世の中は一種の安息を手に入れたかに見えたが、便利の裏では困った事態も起きていた。
「住職!またですよ。」
「ふう・・・またか・・。」
とある田舎の古ぼけた寺ではここ数年異常な事態が起きていた。
「こう毎日毎日死体が届いたら墓がいくつあっても足りませんよ!」
小坊主が悲痛な声を上げる。
この寺には毎日数台の自動車が辿り着く。
運転手の代わりに死体を乗せて。
死体を降ろすまで車は出て行ってくれないものだから寺の前はいつも大渋滞が起きる。
仕方なく死体を引き取ると車はどこへともなく去っていく。
一口に死体と言ってもその種類は様々だ。
後期高齢者から重病人、一家心中・・・。明らかに他殺の死体も届く。
死体の処理に困ったのか、それとも弔ってくれる者がいないのか。はたまた葬儀代を浮かそうなんていう理由で届けられた場合もあるかもしれない。
まるで車の棺桶だ。
最近では数が多すぎて警察もまともに取り合ってくれない。
えらい時代になったものだ。
住職はため息をついた。
寺だけの話しではない。
毎日大量のゴミが焼却場に届けられ、職員が悲鳴を上げているという噂も聞いた。
「いくら便利になったといってもなぁ・・・」
再び住職はため息をつく。
機械や技術が発達すればするほど、人間の持つ「人間らしさ」というものは希薄になっていく気がする。
人間は進歩しているように思えて実は退化しているのではないかと住職は思う。
ゴミと同じように命を捨ててしまうおぞましい獣に。
こんな時代に宗教家に何が出来るのか。自分は何を成すべきなのか。
毎日仏に向かい問いかけてみるが答えは出ない。
「住職ーーー!」
住職が途方に暮れていると、小坊主が駆け寄ってきた。
「何じゃ、また死体か。」
「いえ!さっきの死体の首にダイヤモンドのネックレスがかかってました!これは高く売れますよ!」
小坊主が満面の笑みを浮かべる。
「はぁ・・・」
住職はまた大きなため息をついた。