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戦の神

 光の神とその双子の神子、精霊騎士達に案内されて、マレーリア国の人々は、白い館の前に着いた。白い輝きを放つその館は、ルシフの王宮兼神殿と同じく、光の神の輝石で創られていると、想像出来る。

神の華に包まれた館の前には、多くの人影が見える。

神々と精霊達…そして、彼等を出迎える神龍達。

森の入り口で会った黄龍と呼ばれた少女と、彼女を迎えに来た緇龍と呼ばれた少年も、その中に含まれていた。彼等の姿を発見した皚龍が、逸早く合流する。

そして、彼等を迎えるべく、向き直す。

「リシェア様、こちらへ。」

緑の髪の女性に呼ばれ、また後でと、義兄に声を掛けて、離れたリシェアオーガが、彼等と合流する。皚龍と同じく、彼等に向き合い、神龍達と共に一礼をした。

「「「我等の望んだ王が目覚める為とは言え、貴方々旧エストラムリア国へ、多種多様なご迷惑をお掛けして、申し訳ございません。」」」

神龍達の謝罪の言葉に、彼等は驚き、再び納得した。

神龍王の真の目覚めには、一度、その身を邪悪に落とす事が必須。己の身を染める邪悪を、自ら浄化する事…それが、目覚めの条件の一つとなる。

旧エストラムリア国を大戦へと導き、破滅に追いやった、オーガと呼ばれた少年。

今まで、彼が歩んで来た道は、それを示す。

自然とマレーリア国の人々の視線が、リシェアオーガへ集まり、それを感じた彼女は顔を上げた。

「私が生まれ持った役目に目覚める為とは言え、貴方々に御迷惑を御掛けした。

誠に、申し訳無いと思っている。」

真剣な面持ちで、丁寧に詫びを入れる少女に彼等は、先程の神子としての態度とは全く違う、一面を見た。

神龍の王・リシェアオーガの堂々たる姿。

王としての心構えと態度、そして、真剣な眼差しで、己の過ちを心の底から謝罪出来る、気持ち。あの時見た、心の奥に悲しみを隠した、冷酷で無表情な顔とは違う、真摯な表情と強い意思。

護る者を見定めた眼差しに、騎士達は息を呑んだ。


リシェアオーガが戦の神としての役目を、人の世に混乱を起こした罰として受けた事は知っていたが、今の彼女には、請負った義務での護る者を定めていない。

自分達と同じ、己の意思で見つけた護る者を、その心の内に住まわしている。

この事は、傍に控えている神龍達にも言えた。

主である王が認めたからでは無く、彼女が認め、神龍達も認めた者が、彼等の護る者として存在している。

ふと、アーネベルアはその存在が、リーナと呼ばれる少女かと思った。

しかし、彼女のそれは、家族として護る者。

家族への愛情から来る物。

ならば、誰が…という想いが過る。この疑問の答えは、直ぐに判る事となる。


彼女の謝罪にエーベルライアムは、ジェスク神に告げた事と同じ物を返した。

その言葉に彼女は感謝の言葉を返し、微笑んだ。

今まで見た事の無い、リシェアオーガの優しい微笑…父親であるジェスク神を思わせるそれに、マレーリア国の人々は見惚れた。

以前、オーガと呼ばれていた頃にアーネベルアとバルバートアが経験した物事が、今ここで自国の人々の身の上に起こった。

あの時アーネベルアは、その理由を知らなかったが、今なら判る。

光と大地の神子…それ故、心からの微笑に人は、魅せられる。

前の物は無邪気な微笑だったが、今のは優しい微笑…慈悲に溢れた、美しい微笑とも言えるもの。

最後に見た、悲しみの籠った物とも違う、心から湧き出る自然な微笑。だからこそ、微笑んだ本人の意思に関係無く、自然に相手が魅了される。

「神子や神々の微笑が、こんなに美しい物だとは思わなかったよ。

オーガ君、いえ、リシェアオーガ様、お幸せそうで何よりです。」

エーベルライアムの言葉で一瞬、驚いた顔になったリシェアオーガだったが、有難うと返事を返し、再び笑みを浮かべた。

「確かに、幸せだと思う。

沢山の家族に囲まれ、愛され、他の精霊達や神龍達にも愛されている。

…そして何より、義務からでは無く、心から護りたい者達が増えて、私が探し求めていた剣の使い道も見つかった。

私の剣は護りの剣。

全ての愛おしい者達を護る剣が、私の追い求めていた剣の使い道だ。」

愛情に飢えていた子供が、満ち足りた事を告げ、自分の進む道を見定めた。剣に生きる者が探すその使い道だが、彼女の選択した道は一番厳しい。

しかし、戦の神という役目を持つ者らしい道であり、神龍の王らしくもあった。

その姿に、自然と周りの騎士達が跪いた。

目の前の神は、自分達、騎士の神。

武器を扱う者全ての、敬愛の対象である神。

護る為の剣を持つ神へ向かって、最高の敬意を払う彼等に、リシェアオーガは言葉を失くし、戸惑いを見せる。神龍や精霊騎士が跪くのは、毎度の事なので慣れて来たが、目の前のマレーリア国の王と騎士達まで、己に跪いているのだ。

貴族の者達は、神に対しての普通の敬礼をしているにも拘らず、目の前の剣を扱う者達は、彼女に向かって、最敬礼をしている。

剣を前に置いて跪き、深々と首を垂れる。

彼等の姿に七神は満足し、リシェアオーガへ声を掛けた。


「リシェが本当の意味で、戦の神となったんだな。」

まだ、戸惑っているリシェアオーガに声を掛け、その肩を自分に引き寄せる男性。黒い髪と銀色の髪で、左は夜空の色で右は昼空の色の瞳を持つ彼は、優しげな眼差しで彼女を見ている。

腰を屈め、己の目線を傍らの少女に合わせたその男性、空の神であるクリフラールが小声で問う。

「リシェ、何故彼等が、お前に最敬礼を捧げたか、判るか?」

「…多分…敬愛する者と、認めたから…でしょうか?」

返って来た返事で、その通りと告げるクリフラール。そして、彼は付足した。

「お前は戦神であり、守護神でもあるんだ。

俺やジェスと同じ、世界の守護神・シーラエムル・ルシム。この行動は、彼等がそれを認めた事でもあるんだ、シーラエムル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガ。」

リシェアオーガは、クリフラールとジェスクが、守護神(シーラエムル・ルシム)としての呼び名を持つ事を知っていたが、まさか、自分がそう呼ばれるとは思っていなかった。

シーラエムル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガ、神殿にて使われる神聖語で、守護神・リシェアオーガ。

母と父の名が間に入った、守護神としての彼女の呼び名。

「伯父上?!私が…シーラエムル・ルシムですか…?!

確かに、護りたい者達はいますが…。」

「…あのな、リシェ。

守護神の条件て言うのは、家族以外にも護りたい者がいる事だぞ。お前はその条件に、当て嵌まっているだろ。

資格は十~分、あるぞ。」

言われて納得した彼女は、跪いている者達へ向き直り、声を掛けた。

「皆の者、楽にして欲しい。

これから宴を始めるのに、このままでは堅苦しくて敵わないから、これより敬礼は一切無しだ。」

他の神々が告げる様な言葉が、リシェアオーガの口から漏れ出した。

それを聞いた彼等は敬礼を崩し、目の前の神を見つめる。

七神と同じく、堅苦しい事を嫌う神。特に光の神・ジェスク神はその傾向が強く、彼女にも受け継がれている事が伺える。

付いてくる様に手を差し伸べる彼女へ、アーネベルアが近付いた。

「リシェアオーガ様。今度は私に、同伴させて頂けませんか?」

差し出されたままのリシェアオーガの手を取り、告げられた言葉に、彼女は微笑んで頷いた。そして、マレーリア国の人々に向かって、こう言った。

「マレーリア国の方々、オーガという名は何かと呼び難いだろうから、リシェアで良い。それと他の王族の前でも、リシェアオーガと呼ばずに、リシェアだけで通して欲しい。」

何か(たくら)んで良そうな顔で、明るく告げられ、彼等は目が点になった。今まで見た事無い表情なだけに、その新鮮さに驚いた様だ。

そんな中、一人だけ平然とした顔の国王が、リシェアオーガに話し掛けた。

「リシェア様、何か、企んで御出ででしょうか?」

横にいた国王・エーベルライアムから、楽しげに問われ、彼女は答えた。

「まあな、生誕祭の余興の為とでも、言っておこうか。」

微笑を湛えがら返った答えにエーベルライアムは、悪戯に乗った気分となった。時に神々は、他愛の無い悪戯を仕掛ける事が多々ある。

その事を神殿の者から聞いていた彼は、今の状況が同じだと気付いた。無論そこにいる彼の臣下達も、リシェアオーガの言葉を聞いて、自国の王と同じ考えに至った。

神々の悪戯に参加しよう、そう彼等は決心した。

……まあ、楽しい悪戯である事は、間違い無かったが。

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