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意外なお迎え

不意にルシナリスは、歩みを止めた。彼の前には、森が広がっている。

暗い森の中…何処へ向かうのか、と思った途端、声が聞こえた。

「ルシェ、遅~い!待ちくたびれちゃったわ!」

「…黄龍(こうりゅう)、仕方ないだろう。マレーリアの方々は、遅くに着かれたのだから。」

「…本当に黄龍は、待つのが苦手なんだね。

初めてルシェから聞いた時は、疑ったけど…ね。」

高く可愛らしい少女の声と、彼女を諌める低い男性の声、彼女の現状を語る、やや低めの男性の声。

三人の声に、ルシナリスは答えた。

「黄龍…貴女は、向こうで待っているのでは無かったのですか?

皚龍(がいりゅう)、レア…黄龍の相手は、大変でしたでしょう。御苦労様です。」

ルシナリスの言葉で、件の声の主達が姿を現した。一人は真っ白な羽を持つ、金髪の少女で、後の二人の男性は、真っ白な髪と虹色の瞳を持つ者だった。

彼等の出現に、マレーリアの人々は息を呑んだ、三人の内、二人は紛れもなく、神龍という存在であった。

残る1人は、風の騎士。

滅多に会えない神龍の存在に、向かう先に神々が待っていると確信出来る。

となると、この森の先は……。

「ルシナリス殿、向かう先は、光の聖地なのかい?」

マレーリア国王の質問に、彼は頷き、二人の風の存在を呼び寄せた。

「この先は暗いので、人間の方々では進み(にく)いと思いましたから、風の方々に助力を求めたのですが…。」

「悪い、ルシナリス。俺が、黄龍を止められなかったんだ。」

「申し訳ないね。

珍しく黄龍が、好奇心を露にしたものだから、私も止めらなかったんだよ。」

風の性質を持つ者達は、好奇心剥き出しの瞳に敵う訳が無い。()してや普段、そんな振りを見せない相手なら、尚更だった。


「だって…あの方のお知り合いだって、聞いたから、見てみたかったんだもの。」

しょんぼりとする黄龍の背後から、少年の声が聞こえた。

「もう見たんなら、いいだろう。黄龍、帰るぞ。

皚龍、レア、ルシェ、黄龍を連れてって行くけど、いい?」

闇から現れた様な少年の姿に、マレーリアの人々は警戒したが、その背に龍特有の、黒い被膜の羽を見つけると、神龍の一人と判り、その警戒を解く。

()いぞ、緇龍(しりゅう)。我が主も待っている事だし、直ぐにでも連れて行ってくれ。」

皚龍から承諾の言葉を貰った緇龍は、離れたくなさそうな黄龍の手を引っ張って、闇の中に消えて行った。それを見送ったルシナリスは、溜息を()き、マレーリア国の人々に詫びを入れた。

「御見苦しい所を御見せして、申し訳ございません。貴方々の到着を、待ちわびた者が多いので、先程の様な事になってしまいました。」

「別に良いよ。

あんな可愛い娘に、こんなに歓迎されているなんて、嬉しいからね。」

砕けた口調で、ルシナリスの謝罪を受け止めるエーベルライアムに、護衛の者達は頭を抱えた。

確かに今は、公務では無い。

だが、神龍の姿を見て、可愛い娘だと主張する王に、苦笑しか出なかった。

見た目は可愛いかもしれないが、剣の腕は傍にいる紅の騎士より遥か上。邪悪を封印出来る力を持つ者故、心正しき者の敵にはならないが、普通の女の子では無い。

そんな彼女を、極普通の女の子扱いをする、豪胆すぎる自分達の主に、呆れてしまった。彼らしいと言ってしまえば、それまでだが、フェルアハールは、その王と自分の兄が重なった。

光の神の神子達を、義理の兄弟と称した兄。

主も臣下も、似た者同士なのだな…と、心の中で思っていた。


「取りあえず、挨拶させて貰うよ。

マレーリア国の、一部の方はお久し振り、他の方々は初めましてだね。

私は、エアファン様とクリフラール様に仕える、空風の精霊騎士、エアレア。

こっちは、風の神龍の皚龍。

これから、君達を光の聖地へ、案内するから、よろしく。」

風の精霊らしい、堅苦しさを抜け切った挨拶で、エーベルライムも釣られて、私事の口調も出てしまった。

「エアレア様は、御久し振りですね。

あの時は父と一緒におられて、一向に話す機会が無かったのは残念です。

そして、皚龍様は、初めまして。一応、マレーリア国、国王のエーベルライアム・シエラバレド・キャフェア・イロア・マレーリアと、今は言います。

長ったらしい名前で、済まないね。

出来たら、御二人には、ライアムと呼んで欲しいな。」

後半を砕けた口調で話すエーベルライアムへ、アーネベルアが反応し、注意を促す。

「陛下…またそんな事を、言っているのですか?」

(いさ)める炎の騎士に、精霊騎士と神龍の方なら良いじゃないかと、反論していた。その姿に吹き出したエアレアは、笑いながら告げた。

「前も思ったけど、本当に君の父親のリケルも、君自身も、私達と似ているね。元は風の精霊だったって、言われたっても納得するよ。

ライアムだっけ、私もレアで良いよ。出来れば敬称抜きで、と言いたいけど…横の、炎の騎士のお叱りがあるから、無理かな?」

相手の許可を得たエーベルライアムは、エアレアの提案を受け入れようとしたが、彼に指摘された通り、炎の騎士のお叱りを受けた。

仕方無く、【殿】の敬称付きで呼ぶ事にしたが、当の国王は不満げだった。

まあ、精霊騎士という、神に仕える者相手では、普通の人間が呼び捨てにする事は、問題視されるようである。

「残念だな~。リケルと同じで、ライアムとは、友人になれそうだったのに…。」

「レア殿も、いい加減になさって下さい。陛下も陛下です。

神々に仕える方に、馴れ馴れしくなさっては、他の者に示しがつきませんよ。」

「……アーネべルア殿、我が主も、公の場で無い限りは、気にしませんが…。」

申し訳なさそうに告げるルシナリスに、アーネベルアは額に手を当てた。自分達の神々の性格上、公の場で無い限り、砕けた対応を望む。

彼等に習った様に精霊達──特に風の精霊──は、親しい者へ、普段通りに接する事を求める。

この事を思い出した炎の騎士は、溜息を吐きながら、己の主に話し掛けた。

「判りました、陛下。

公の場でない時は、レア殿の御意向に、沿っても良いでしょう。」

苦笑交じりで告げる彼に、エーベルライアムは嬉しそうに微笑んだ。

神の騎士とも言える、炎の騎士から許可を得た彼は、早速呼ぼうとしたが、神々のお会いするのだから、今は公務ですと、件の騎士に釘を刺された。

己の騎士の、公務と言う言葉に今度は、エーベルライアムが溜息を吐き、国王として彼等に対応した。

「皚龍殿、レア殿、ルシナリス殿。案内を頼みます。」

せめてもの抵抗の現れが、風の精霊騎士の呼び名に見えた。一応敬称付きなので、炎の騎士も、注意が出来ず、無言になっていた。

エーベルライアムの言葉を受け、風の神龍と風の精霊騎士は、彼等を光の聖地へと(いざな)った。 

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