新国の王の到着
その夜、ルシフに、マレーリア国王御一行が到着した。
出迎えたのはルシフ王のサニフラールと、後ろに控えるこの国の神官達、先に到着していたラングレート候とその弟だった。
「マレーリア国の方々、ようこそ、ルシフへ。
私はルシム・シーラ・ファームリア・シュアエリエ・サニフラール、神々から、この国を任された者です。」
「初めまして、ルシム・シーラ・ファームリア・シュアエリエ・サニフラール殿。私はエーベルライアム・シエラバレド・キャフェア・イロア・マレーリアと申します。
新国の我等の、生誕祭への参加を許可して頂き、有難うございます。」
挨拶を交わす二人の王だったが、サニフラールが許可に関して、口を開いた。
「この度、参加する国々を選んだのは、私達ではありません。
初めの七神の御方々が、直々に選ばれました。ですから感謝の言葉は、七神の御方々に申し上げて下さい。」
知りたかった事実を、突き付けられたエーベルライアムは、表面上、平静を保っていたが、内心は、驚き、納得した。
七神が選んだ国…それに含まれるという事は、先の大戦に関係した国だという事。つまり、七神は何らかの意図で、今回の国を選んだ事になる。
ルシフの王が告げた事に対して、彼は、
「では、七神の御方々にお礼を言いたいので、神々が祀られている神華の塔の神殿へ、赴いても構いませんか?」
と尋ねた。その言葉を受けて、サニフラールは微笑を添えて、返事をする。
「御用意した部屋へ入られた後、こちらから案内の者を向かわせます。
その者に従って下されば、七神の方々に御逢い出来ますよ。」
彼の言葉に従い、マレーリア国王御一行が宛がわれた部屋に入り、出迎えに来ていたラングレート候の兄弟と話をした。
「ラングレート候も、もう、着いていたのかい…早かったね。
おや?そちらの彼は、誰だい?」
「申し訳ございません、陛下。一刻も早く、ルシフに赴きたかったのもので…。
陛下達より、先に着いてしまいました。
それと、この者は、私の弟のフェルアハールです。」
「初めて、御目に掛ります、エーベルライアム陛下。
私はフェルアハール・ファス・ラングレートと申します。」
昼間とは違う、貴族らしい装いのフェルアハールだったが、幾分か、窮屈そうに見えた。彼の様子に気付いたエーベルライアムは、優しい笑顔のままで、声を掛ける。
「そんなに緊張しなくていいよ。私も堅苦しいのは、苦手でね。
公務以外は、フェルって呼んで良いのかな?」
愛称を呼ばれ、困惑気味のフェルアハールに、バルバートアは苦笑した。
この新しい国王は、堅苦しい事を嫌う人で、公務以外は周りの者を愛称で呼ぶ。それ故の言葉であったが、前の国王を知っている者は、大概面食らう事になる。
「…陛下。また悪い癖が出ましたね。」
しかめっ面で指摘する紅の騎士に、当の国王は平然として言い放った。
「べルア、別に、何か問題がある訳じゃあないだろう?
私は、彼…ガイナレムとは違う。
公務でない限り、周りに壁を作りたくないのだよ。」
前国王の名を出し、己と性格が違うと公言する、眼の前の王。
元々臣下として国に仕えていた身であったが、血筋と人を引き付ける人柄のお蔭で、先の改革では先頭を切り、国を解放すべく力を尽くした。この結果、今の国が出来、他の者から国王になる事を望まれた。
自身は他の者を国王にして、補佐役を務める気であったのだが、周囲の反対に遭い、断念せざる負えなくなった。
国王らしくても気にするなと、周りに言い出すようになった彼に、反旗を翻す者はいない。寧ろ、敬い、従う者が増えていく一方であった。
そんな国王の言葉に、フェルアハールは答えた。
「…判りました、陛下。
ですが、私が貴方に対し、敬語を使うのだけは、禁じないで下さい。」
ラングレート候の兄弟ならではの回答に、エーベルライアムは、残念そうな顔になった。私的な時は、敬語を使うなと、言えなくなった事に落胆したのだ。
「…君達は、やっぱり兄弟なんだね…。
バートも、ハルトも、君までも、同じ言葉を返すんだもんな。」
国王らしくない口調の呟きに、周りの者は苦笑した。
たまに出る、エーベルライアムのこの口調は、臣下時代の物で、未だ直らないものである。身近に感じるそれ故に、敢えて誰も注意をしない。
まあ、公務で出る事が無いだけに、野放しにしているとも言えよう。
そんな折、彼等の部屋の扉を叩く音がする。
先程ルシフ王が言っていた、案内の者が来た事を告げていた。
「マレーリア国の方々は、御在室ですか?」
他の者は警戒を示していたが、若い男性で聞き覚えのある声に、アーネベルアが反応した。扉の傍にいる者へ指示を出し、声の主を部屋に招き入れる。
入って来たのは、銀髪の騎士…真っ白な騎士服に身を包み、その腰には、白地に銀色と金色の細工のある剣を帯びていた。
その騎士に警戒を顕にするが、招き入れた炎の騎士は、微笑を湛えていた。
「貴方が案内役か?」
「はい。」
真面目な顔で話し掛ける国王に、銀の騎士は、短い返事と共に頷く。
未だ警戒をする騎士達の中、一人警戒をしていないアーネベルアに、エーベルライアムは気付いた。
「べルア、君、何か知っているの?」
聞かれたアーネベルアは頷き、彼と話をする許可を、エーベルライアムから貰い、件の騎士と相対した。
「御久し振りですね、ルシナリス殿。
貴方が案内役ですか…。ルシフ王も、御茶目な事をされますね。」
名を呼ばれた銀髪の騎士・ルシナリスは、彼に一礼をし、微笑を添えて、答えた。
「ええ、本当に。あの方々は、御茶目ですよ。」
複数で答えるルシナリスに、彼等は不思議に思い、ルシフ王と誰が?と考えた。その様子にルシナリスは、正解を言った。
「貴方々の案内を、サニフラール殿と大神官殿、そして、我が主に頼まれました。
御三方供、面白がって御出でしたよ。」
明かされた名で、これを仕掛けた相手がルシフ王と大神官までは判ったが、眼の前の騎士の主は、炎の騎士以外、判らなかった。
それもその筈、纏っている服には装飾が無く真っ白な無地、腰の物だけが、光の精霊剣だと判るのみ。
光の精霊剣士にしては、洗練された仕草で、全く隙が無い。故に、初対面で警戒したのであったが、炎の騎士であるアーネベルアが、親しげに声を掛けた。
敵で無いとは判るが、何者かが判断付かない。
周りの騎士達の困惑に気付いた、当の本人は微笑のまま、挨拶をした。
「遅ればせながら、初めまして、マレーリア国の方々。
私は、光の精霊騎士・ルシナリスと申します。先程述べた様に、我が主から、貴方々の案内を申し付かっております。」
光の精霊騎士と名乗った彼に、エーベルライアム達は驚いた。
精霊騎士の主と言えば、特定される。
ルシナリスの言葉で、警戒を解いた彼等は、光の騎士に案内を受けたが、神華の塔へ向かわず、他の方向へ向かう彼を、エーベルライアム達は不思議に思った。
このままいけば、外に出る。
その予想通り外へ案内された一行は、ここへ来た道を逆行している事に気付いた。
ルシナリスも、この御茶目な悪戯に一枚噛んでいる、確信犯です。(^_^;)