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新しい兄弟達

抱き締められている件の義弟・リシェアオーガは、困惑していた。まさか、この姿の自分が判るとは思っておらず、改めて名乗りを上げる…筈だった。

然も、横にいるフェルアハールが、バートこと、バルバートアから聞いていた、もう一人の義兄とは思っていなかった。

似ているな~とは薄々感じていたが、本当の兄弟とは考えていない。

血の繋がった親戚か何かか、他人の空似と思っていたのだ。

フェルアハールと言えば、驚きを隠せなかったらしい。大きな声を上げていた。

「え…バート兄貴、リシェア様を知っているのかい?

あれ?オーガって言ったら……えええ、もしかして、手紙にあったあの…。」

「そうだよ、フェル。あの子だよ。」

言葉を言い終る前に、バルバートアは返事を返した。抱き締められているオーガこと、リシェアオーガは、観念したように溜息を()き、微笑んだ。

「…バートには、敵わないな。

私を一目で見分けるなんて…血の繋がった家族以外で、バートが初めてだ。」

腕を彼の背に回し、嬉しそうに言うリシェアオーガに、バルバートアは物足りなさを覚えた。愛称だけで呼ばれた事で、何と無く寂しさを感じたのだ。

それに気付いたような声が、リシェアオーガの後ろからする。

「リシェア、その人を、義兄(あに)と呼んであげないのかい?

変わってしまった今の姿の君を見分けたのだし、ずっと君の心配をしていたのだから、その資格はあるよ。」

この場にいる者で、リシェアオーガだけが聞き覚えのある、低い男性の声が聞こえ、彼等はその声の主を見た。

緑の髪と紫の瞳の男性。

体格はややフェルアハールの方が大きいものの、その背だけは彼の方が高い。服装は、フェルアハールやリシェアオーガと同じ、作業用の軽装だった。

彼は、ゆっくりとラングレート候達に近付き、バルバートアと同じ様にリシェアオーガへ目線を合わす。バルバートアから手を離し、キョトンとした顔のリシェアオーガは、その顔を見入って、

「良いのですか?兄上。」

と言葉を返した。微笑んで頷く実兄に、自然と笑顔になるリシェアオーガ。

そして、改めてラングレート兄弟に向き直った。

「御久し振りです、バート義兄上(あにうえ)。と、初めまして、フェルアハール義兄上。」

極上の微笑を添えて、挨拶するリシェアオーガに、バルバートアは再び微笑み、フェルアハールは、その場で見惚れた。

この様子に、実兄である男性は納得して、彼等と挨拶を交わした。

「遅ればせながら、挨拶をさせて貰うよ。

初めまして、私の名はカーシェイク。

この子、リシェアオーガの、血の繋がった実の兄だよ。

君には短い間だけど、リシェアがお世話になったね。私の代わりに兄として接してくれて、尚且つ、あの子を保護してくれた。

感謝するよ、有難う。」

「初めまして、カーシェイク様。私はマレーリア国の貴族で、バルバートア・ドレア・ラングレートと申します。…噂の通り、この子は…神子(みこ)でしたか…。

でも、良かった。オーガが無事に、本当の家族の許へ戻れたなんて…。私としては、少し寂しいですが、喜ばしい事…ですね。」

大地の神・リュース神の特徴と、光の神・ジェスク神にそっくりな顔立ちに加えて、カーシェイクという名で、彼の正体が知の神であると判ったバルバートアは、微笑を曇らせてしまった。

彼の兄弟という事は、自分の義弟だったオーガが神子である事実。

手の届かない所へ行ってしまった義弟を、残念に思えたのだ。だが、その考えは、彼等・実の兄弟に否定された。

「バートで良いかな?リシェアは、今でも君の義弟きょうだいだよ。

畏まった席でなければ、敬称は外して普通に接して良いし、この子が転びそうなら、助けてあげて欲しい。リシェアは、まだまだ幼く、危なっかしい子だからね。

君なら、私も喜んで任せられるし、手を貸して欲しい…駄目かな?」

「…兄上、私は、そう簡単に転びませんよ。

でも…バート義兄上…普段は、前と同じ対応をして欲しいし、敬称も使わないで欲しいんだ。他の者達には、私が説得して、納得させるから…お願いして良い?

勿論、フェルアハール義兄上もだよ。」

カーシェイクから、意外な提案をされたバルバートアは、唖然としたが、リシェアオーガの可愛らしいお願いで、普段の表情に戻った。

判りましたと告げる彼に、リシェアオーガは再び抱き付いた。

前と変わらない、優しい気配。

受け止めてくれる腕に、実兄と同じ物を感じる。

過保護とまではいかないが、それに近い扱いを受けていた、あの頃を懐かしく思う。

その腕が今、再び自分に差し伸べられている事実と、兄が増えた喜び。実兄と義兄達が仲良くする光景は、リシェアオーガにとっても、嬉しい事だった。

……只、過保護な兄が増えた事実は、気付かなかったが……。


「そうだ、バート達なら、リーナも義妹(いもうと)扱いしても良いよ。

リシェアの義兄あになら、その権利はあるからね。」

カーシェイクからの、思わぬ承諾の言葉に、ラングレート兄弟は再び、驚きの余り、面食らった顔になった。

知の神であるカーシェイクに、リーナと呼ばれる妹がいる事を知っていたが、何故にその許可が下りたのか、不思議だった。

その答えを、リシェアオーガが暴露する。

「リーナは、私の双子の兄弟だよ。

だから、バート義兄上とフェル義兄上にとっても、義妹になると思う。

カーシェ兄上、そうでしょう?違う?」

自然と、年相応の言葉使いになったリシェアオーガに、カーシェイクは違わないと、喜んで頷いた。

中々子供らしい口調を披露してくれない実妹が、自分に向けて、その口調で話し掛けてくれた。それは彼にとって、かなり嬉しい事だったらしい。

満面の笑みを湛え、彼等の承諾を聞くカーシェイクとリシェアオーガ。

後で改めて、リーナに会わせる事を約束した実の兄弟達は、祭りの準備に戻った。残ったラングレート兄弟は、お互いの顔を見つめ合った。

「何か、大事が起きたみたいだ。あのリシェア様が、俺達の義弟だったなんて…。」

「私も、聞かされた当初は驚いたけど、カーシェイク様の御様子を見れば、納得したよ。

オーガは、あの方々に家族として愛され、可愛がられているってね。手の届かない所へ行ってしまったと、諦めたのに…こんな嬉しい結果になるなんて…。」

「嬉しい?バート兄貴、それって、まさか…。」

確信に触れそうな言葉を飲み込んだ、実弟のフェルアハールに、バルバートアは微笑んで告げた。

「また、新しい妹と…兄でいいのかな?出来ったって、事だよ。」

彼等を新しい兄弟と称した、目の前の実兄を、弟は呆れた顔で見つめた。家族の事に関しては、愛情深い兄だったが、ここまでとは思わなかった。

彼等、神々の事を臆せず、新しい兄弟と断言する、自分の長兄に脱力した。

「ああ、忘れてた…。バート兄貴は、そう言う人だったよ。

家族が増える事を喜んで、その家族の世話を焼く事が、趣味だったっけ。大らかな人だと思っていたけど、ここまでとは思わなかったな。」

「?フェル、家族は多い方が楽しいし、増えるのは大歓迎だよ。

彼等がどんな境遇の者であろうと、私の家族である事は変わらないよ。

大らかだとは…酷い言い草だね。」

楽しそうに会話する兄弟に、風は優しく吹き、ルシフに彼等の心を運ぶようであった。

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