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予期せぬ再会

 人間の方も、去年行けなかった面が現れているのか、多くの国々から、王族や貴族がルシフを訪れていた。

その中に、リシェアオーガが起こした大戦の、中心となった国・旧エストラムリア国──現在は、マレーリア国と名を改めた国──の王も供を連れ、訪問を果たそうと、ルシフに向かっていた。

「陛下。ルシフ国王に尋ねたい事があると、言われましたが…。」

走らせている馬車の中で、護衛の紅い髪の騎士が、件の国王に尋ねた。問われた若き国王・エーベルライアムは、微笑を湛え、その優しげな紫の瞳を細めた。

薄金の柔らかな髪が、彼の頬を霞め、より一層その優しさを醸し出している。

「ベルア、…覚えているかい?あの子の事を。」

あの子と言われ、思い出したのは、邪悪に染まった黒髪の子供。

光の神に負け、その身をかの神が預かった。

光の神子と言われているが、本当の処は判らない。神の役目を受けたその子が、ルシフで黒き髪の王を討ったとも、言われている。

噂でしかないそれが、何処まで真実か、定かで無かった。が、黒き髪の王に併合された国で、(まこと)しやかに話されているそれを、彼等は確かめる術が無い。

故に、今回のルシフの訪問を、エーベルライアムは決めたのだ。

他の国もその事を確かめる為、ルシフに赴こうとしているらしく、今回は厳選された国が、選ばれていると聞いていた。まだ新しい国である、マレーリア国が選ばれると、思っていなかった彼等は、この知らせに喜んでいた。

「覚えています…オーガという名前の、少年ですね。

…あの子が…同じ過ちを繰り返したとは、思えません…。」

「私も、そう思うよ。」

事の顛末を見届けている紅い髪の騎士・アーネベルアは、オーガが黒き髪の王と同一人物だとは、思えなかった。

彼に関わった者達は全て、同じ事を語っている。特に彼の友人のバルバートアは、完全に否定していて、今回、単独でルシフに向かった。

国王達とは別行動で、参加の取り付けをしたらしいが、相手方がラングレートの名を知っていて、即座に許可が下りたと言っていた。

そんな事を考えていたアーネベルアに、エーベルライアムは言葉を掛けた。

「べルア、今回の訪問に、不思議な事があるのだよ。

我が国は新しい国だ。なのに、許可がすぐに下りた。実は、先方が、我が国を旧エストラムリアと、知っていらしたのだよ。」

「それは、誠ですか?!」

友人の時と同じ事が、国王にも起きていた。これは何かあると思うのは、普通である。

罠…とは思えないが、何か一波乱あると思うアーネベルアに、国王は続けた。

「全ては、ルシフで判ると思うよ。

今回、私達の国とラングレート候が、優先的に選ばれたかのか、如何かも…ね。」

そういって、エーベルライアムは紫の双眸を閉じ、何かを考え出した。

全てはルシフで、解明する…。

その想いが彼等、マレーリア国一行の、共通の物でもあった。



 彼等がルシフに向かっている頃、既に、この国入りしているラングレート候は、辺りを散策していた。

祭りの準備を手伝いをしたくても、彼はこの国に取って、大切な客人。

暇な時間に、他の国の王侯貴族と外交を持つにしても、こちらへ向かっている自国の王を待った方が、都合が良い為、無駄に空き時間が出来ていた。

何もしないのも、考え物だと思った彼は、ルシフの人々の暮らしぶりや、祭りの準備の進行を眺める事にした。

着々と出来上がって行く、祭りの露店や演目用の舞台、下の広場にも野営用の天幕が増えて行く。

そんな中に、彼は見知った姿を見つけた。

自分より少しだけ、背の高い、体格の良い男性。

舞台の準備を手伝っている彼に、ラングレート候は声を掛けた。

「フェルアハール!フェル!!」

呼ばれた男性は、ラングレート候の方を向き、破顔した。そして、仕事を中断し、ラングレート候の方へ走ってくる。

自分と同じ薄茶の髪で自分よりやや薄い、水色の瞳を嬉しそうに輝かせながら、向かって来る男性へ、彼は微笑みかけた。

「バート兄貴…どうしてここへ?」

名を呼ばれたラングレート候は、それに答えた。

「生誕祭を見に来たんだよ。フェルは、如何してここに?」

「…俺は今、修行の一環で、旅の舞踊家達の護衛をしている。彼等が今年も、ここに来たから、一緒にいるんだ。」

弟の言葉に引っ掛かったラングレート候は、それを復唱した。

「今年もって事は、去年も来ていたのかい。その頃は確か、黒き髪の王が、ここを狙っていたって聞いたよ。

…良く無事だったね。」

弟の安否を気遣う兄に、フェルアハールは苦笑した。

相変わらずの心配性である兄の姿…その兄こそ、あの国家改革の真っ只中に居たのに、弟である自分の事を先に心配する。

それを思い、つい口にしてしまった。

「リシェア様がいたから、俺は見ての通り、無事だ。

バート兄貴こそ、あの大戦と改革の中心にいたんだろう。

怪我とかは、無かったのか?」

「私は無事だよ。知っての通り、国が新しくなって、私が家を継いだのだけど…ね。

フェルも、一度帰ると良いよ。ハルトも、心配しているから。」

ラングレート候になった事を告げる兄を、弟は心配した。あの父親の後を継いだとなれば、それなりに風当たりの強い筈。

こんな弟の考えを察してか、ラングレート候は言葉を続けた。

「心配は要らないよ。父上はあの改革で失脚して、私の功績を顧慮された陛下が、ラングレート家と何の関わりも無いと、判断を下された。

今は塔に幽閉され、処刑の日を待つばかりだよ。」

「そっか、親父は、やっと失脚したか…。

あっと、あれ?新しく出来た弟と妹は?」

数年前、届いた手紙にあった、新しく出来た兄弟の事を聞くフェルアハールに、ラングレート候は悲しげな微笑を浮かべた。

「義妹のエレラは、改革の最中に命を落としたよ。

…義弟のオーガの方は…行方知れずでね、ここに来た理由でもあるのだよ。」

ルシフは、神々の生誕祭を行う国。

今年の祭りは、特別にする意向を示している為、今回、神々が何ら関わってくると思い、彼はここに出向いた。

神々に直接、あの弟の事を聞けるのではないかと、期待して…だ。

「そっか、悪い、バート兄貴。辛い事を聞いたな。」

「仕方ない事だよ。

終わった事を悔やんだ所で、失った命は戻らないからね。」

自分自身を諭すように告げる兄に、フェルアハールは言葉を失くした。

その彼に、後ろから声が掛った。


「フェル、これは何処へ置けばいい?」

少年の声に振り向いた彼は、素早く指示を出した。

「リシェア様、あそこで良いですよ…って、何でそんな物を、リシェア様が、運んでいるんですか!!」

「何でって…エルトに聞いたら、持って行って欲しいと頼まれて…。」

返事を聞いて、急いで少年の許へ向かう、フェルアハール。

リシェア様と呼んだ少年が持っている、丸太一本を取り上げ、自ら担いで、指定の場所に置く。普通に考えても十代位の外見の少年が、運べる物で無い太い丸太は、先程までその少年が、軽々と担ぎ上げていた。

しかし、華奢な外見故に見兼ねた者達が、その少年が運ぼうとする端から、代理を買って出ていたらしい。

「リシェア様、こんな重い物を持ったら、貴方が潰れます。だから、他の者に替わる様にして下さいと、あれ程…。」

「これ位、大丈夫だ。重くない!寧ろ軽い!!」

反論をする少年の声を聞いたラングレート候は、驚いた顔をし、少年に呼び掛けた。

「この声……若しかして…オーガ…?」

聞こえたラングレート候の声に、二人とも視線を彼に向ける。

少年の姿を確認出来たラングレート候は、その表情を微笑に変え、少年に近付き、視線を合わすよう跪いた。

「やっぱり、オーガだね。元気そうで、良かった。」

目の前の金髪と青い目の少年へ、嬉しそうに話し掛けるラングレート候だったが、少年は不思議そうな顔を向けていた。

「…バート…義兄…上……?」

今にも消えそうな、小さな呟きが聞こえたラングレート候は、その少年を抱き締める。

無事で良かったと、囁く彼に少年・リシェアオーガは、尋ねた。

「人違いでは、ないのですか?」

「人違いではないよ。君は、私の義弟のオーガだろう。

姿が変わっても、私が間違う訳がないよ。違うのかい?」

自信たっぷりに即答され、リシェアオーガはその表情を崩した。前と違う姿故、気が付かれないと思った彼だったが、それは間違いであった。

ラングレート候は、姿の変った義理の弟を見分け、親しげに話し掛ける。

誤魔化そうとしても、無駄。

そう、彼には何故か、真実を見抜く事が出来たのだ。

あの大戦の時も、義弟が悲しんでいる事を見抜き、彼の事を憎む事無く、逆に心配していた。危険だという事で、義弟と対峙するアーネベルアから城の者の避難を、己の希望から前宰相の拘束を任され、彼等の戦いの顛末を見る事は叶わなかった。

光の神と戦い、怪我を負った事は、任された事を終え、エーベルライアムと合流した時に、その場にいた精霊騎士と、エーベルライアムの話で知った。

彼の身柄が、その神の預かりになった事も、その時に聞かされる。

その後、一度だけ、光の神が滞在していた光の屋敷へ、神々からの頼まれ物を届ける為に赴くが、彼と会う事は叶わず、その様子だけを精霊騎士達から知らされた。

然も、光の神が神々の住まう場所へ戻った後の彼の消息は、人伝(ひとづて)に聞かされるばかりで、どれが真実か、判断出来無いでいた。

その為、ラングレート候は、今回の祭りの参加を決めたのだ。

しかし、彼とて、万能では無い。まさか来て数日後に、知りたかった事実が、目の前に存在するとは思ってもみなかった。

姿を変えたという噂は聞いていたが、それを今日、目の当りにした。

間違える筈の無い、義理の弟…その無事な姿に彼は安堵した。 

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