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昔の名との決別

 生誕祭の当日。

何時もの様にルシフの王が、恒例の詩を披露すると思いきや、そこに現れたのは、光の騎士と闇の騎士だった。

彼等の手には、神々の業物を(かたど)ったらしき精霊の竪琴。

光のそれと闇のそれに、黒き王の恐怖が去った後の生誕祭を飾るに相応しいと、参加した者達には映った。

光の神から祝福された者の特徴──見事なまでに金色に輝く光髪と空の瞳──を持つ、光の精霊騎士である少年の服装は、正に光の神の騎士服そのもの。

裾模が月と星で飾られ、左には白地に金色の装飾が施されている、精霊剣が存在していて、その額と両腕には、光の神を象徴する月と太陽の飾りが光輝いている。

もう一人、闇の神から祝福された者の特徴──闇の様な黒髪と月の光を宿す銀の瞳──を持つ、闇の精霊騎士である青年の服装も、闇の神の騎士服そのもの。

性別は違えど、裾の月と星の装飾は同じで、右には黒地に紫の装飾が施されている、精霊剣が存在していて、こちらも少年と同じく額と両腕には、闇の神を象徴する月と星が輝いている。

それを踏まえ、再び参加者の視線が竪琴へと戻る。

神の御業を模ったと思われたそれは、本物の光の竪琴・ジェスリム・ハーヴァナムと、闇の竪琴・アークレィア・ハーヴァナムという事が知れ渡った。


参加者が、それを確認したと判った奏者達は、あの一節を紡ぎだす。

ルシフの生誕祭の開幕を告げる、創世の詩。

二人の絆を持つ奏者の演奏と咏声は、この小さな国中へ響き、人々の耳に、目に、創世の場にいる様な錯覚を起こした。

七神が(かたち)を持ち、目覚める姿…空の神から始まり、最後の炎の神が目覚める(さま)を、奏者達は奏で、参加者達の目の前で再現させた様に思えた。

彼等の詩が終わりを告げ、その幻も消え去った頃、二人の奏者は天高く、手を差し伸べる。その手に、細く華奢な手が重なる。

光の騎士には闇の乙女、闇の騎士には光の乙女。

何も無い虚空から二人の乙女が舞い降りる様に、騎士に手を取られ、地に足を付ける。

美しい乙女達の姿と、精悍な騎士達の姿。

共に神々の特徴を持つ彼等へ、参加者達から感嘆の溜息が出る。

それを見計らって、二人分の声が掛る。

「「これにて、神々の生誕祭を始める。皆の者、楽しんでくれ。」」

ルシフ王の声と共に、もう一人、男性の声が重なる。その声を合図に乙女達と騎士は一礼をして、その場を去り、声のした方向へ走り寄って行った。

厳密に言えば、走って行ったのは光の騎士と乙女、そして、闇の乙女の三人で、闇の騎士だけは彼等を護るかの様に、その後をゆっくりと付いて行く。

彼等の向かった先には、光の神の特徴を持つ男性…いや、光の神その人だった。

周りには七神を含む、他の神々の姿。

その中で光の神は、三人の子供達と闇の騎士へ微笑み掛け、労いの言葉を掛けていた。特に光の騎士と乙女は、かの神へ寄り添い、嬉しそうに微笑む。

その仄々とした雰囲気に流されそうになるが、今回参加した王族の者達は、自分達の目的を明らかにした。


「七神の方々に、御質問があります。

先の大戦を起こした者は、如何なりましたか?」

マレーリア王国の直ぐ隣の国の王が、意を決して七神に質問をする。それを皮切りに、他の王族の者達が各々聞きたい事を口にし始めた。

「私共の方では、その者が其処に居られる光の神、ジェスク様の預かりになったと聞き及んでおります。

真実かどうか、確認出来ておりません故、その事を御教え下さい。」

彼等の言葉に、真摯な顔で耳を傾けていた神々は、互いに頷き合い、名指しされた光の神が口を開く。

「あの者の事なら、心配は無い。

もう邪気は無く、普通の子供として存在している。」

この言葉に周りの王族たちは驚くが、もう一つの質問の答えにはなっていなかった為、不安を解消出来無いでいる。彼等の様子で、光の神はその続きを言う。

「そなた達の知っている通り、その子供は我の預かりとなっている。

して…他に質問があるのか?」

光の神の問いに、他の王族が口を開いた。

「ジェスク様、その子供は…貴方様の神子と聞いております。

ですが今、その神子様の御姿を、何処にも見受けられませんが…如何されたのですか?」

あの緑の髪と瞳の神子の姿が、見えない事を指摘された光の神は、深く長い溜息をく。そして…傍らにいる光の騎士へ、視線を向け、再び人間達へそれを戻す。

「我が子達なら、此処に揃って居るが…この子に何用か?」

光の騎士を指して言う父神に、何も知らない彼等は更に驚いた。

あの子供とは、似ても似つかぬその姿に、不審な眼差しが集まる。これを察した光の騎士…いや、光の神子は、父親から離れ、彼等の前へ出る。

「私が、その邪気だった者だ。だが、今は違う。

私の中の邪気は浄化され、私は…此処に居る光の神と大地の神の神子として、戻っている。」

真剣な眼差しで答える神子の傍に、何時の間にか、騎士達が集う。

騎士達の動きが、神子を護るかの様に見えた彼等は、警戒を(あらわ)にする。

そんな王族達の行動を見ていた、マレーリア王国の人々の中から紅の髪の青年が、その神子の傍へ近付く。


そして…彼は、王族たちの方へ向き直し、厳しい視線を送る。

「そこな方々、光の神子に敵意を向ける事は、如何いう意味を示しているか、御判りか?」

前に出た神子を護る様に立ちはだかる青年騎士へ、注目が集まり、王族達は彼の服装を確かめる。

紅の地に炎を纏う装飾、左腰には……同じく、炎の纏う紅の剣。

精霊剣とも違うそれに彼が、紅の騎士・炎の騎士だという事に気が付く。

彼へ何か言おうとするが、今度はマレリーア国王がその場へ赴く。珍しく腰には剣が帯び、厳しい顔で他の王族を見据える。

「各国の方々…確かに、この方は我等の国を始め、その周辺諸国へ害を及ぼしました。

しかし、それは育てた者達を失い、隙が出来た所を邪気に突かれたからであって、この方自身の意思ではないのですよ。

貴方々にも、その可能性がある事をお忘れですか?

邪気は…邪悪なるモノは、我等の心の隙を突く。例え、聖身君子ですら、悲しみの隙を突かれては一塊も無い事を…お忘れか?」

怒りを含めたエーベルライアムの言葉に彼等は、一瞬だけ無言になったが、心に蟠る不安は拭えない。そんな中でも勇気をふるい、口を開こうとした者がいたが、マレリーア王国の王と騎士の後ろから、声が掛る。

「ライアム、べルア、下がれ。彼等との話が、まだ着いていない。

そなた達の行動には感謝するが、これでは我の言い分が伝えられぬ。」

あの少年の不服な声が、別の口調で聞こえ、この声に渋々従うエーベルライアムとアーネベルア。そんな彼等へ、少年は優しい笑みを送る。


彼等の開けた道を進んだ彼は、再び、あの王族達の前に出る。

彼の腰には、白い剣の存在は無い。

父親の許へ戻った時に、光の騎士へ返していたのだ。服装も先程とは違い、上着を羽織っていて、それは光と大地の神子を象徴する物…に見えた。

白地の騎士服には月と太陽、緑の蔦と紫の房の果実が、その上の長い上着には神子を示す金糸の線と紫の線、そして……見た事も無い装飾…首を上げ、正面を見据えている金色の長龍があった。

この長龍の姿は、神龍を示す事を彼等は知っている。しかし、この装飾を纏っているのは、光の神子。

その矛盾で不思議がる王族達に、神子が再び口を開く。

「今の我が名は、オーガ・リニア・ラングレートでは無く、

リュージェ・ルシアリムド・リシェアオーガ。………そして、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガにして、ルシム・ラムザ・シェアエリエ・リシェアオーガ。」

以前の名との決別を述べ、新たな名・神子としての名と神としての名、加えて…生まれながらにして持っている名を告げる。

この三つの呼び名に、彼等は言葉を失う。

一つは光と大地の神子を示す物、もう一つは神の名…残りの一つは…今までの事柄の原因を示す物だったのだ。

彼等の知っている事は、ルシム・ラムザ・シェアエリエとは神龍を纏める王の事であり、その成り立は一度、邪気に身を落とす事が必須である事。

その後、己の心の中にある内なる邪気を消し、真の姿──光の祝福の特徴のある姿──に戻れた者が、この王となる。

かの王は神龍を統べ、邪悪なるモノを滅ぼす存在であり、光の神と空の神と同じ、世界の守護者である存在。

目の前の少年が名乗った物は、それを意味し、やがて…周りに控えている騎士達が、神龍である事に気付く。やっと目覚めた王を護る…いや、王の傍で控える彼等は、何処か誇らしげに少年を見ている。

自分達の王の言葉を一句一句、逃さぬ様に聞きっている様にも見えるが、実際はそうで無い。自分達の王へ、敵意を向ける者を見極めていたのだ。

王と名乗った少年は、それを咎める事無く、先を続ける。

「今の名を信じれないのなら、証拠を見せるぞ。」

そう言って少年・リシェアオーガは、何も持たない右手を真横に伸ばす。その途端、その手には燻した金色の長剣が現れる。

装飾は金色と銀色の長龍と共に、様々な色の神龍の姿。

一目で神龍王の剣と判るそれに、大概の王族は納得した。

少年が今まで歩んで来た道は、大いなる神から与えられた試練。少年自身と、世界に与えられた試練と確信し、納得した彼等はその場で跪く。

「「「新しい神であり、神龍王様…我等の非礼、御許し下さい。」」」

彼等の謝罪の言葉を受け、リシェアオーガは微笑んだ。

「許すも許さないも…我は気にしていないし、許しを請うのは我の方だ。

そなた達に、大いなる迷惑を掛けて済まない。

今後は、そなた達を護る為に我は存在する。それが七神からの我への罰であり、我が最たる望みだ。」

彼の謝罪の言葉に彼等は顔を上げ、その姿を目の前にする。

そこに浮かぶのは、優しげな表情…慈愛に満ちた新しい神の微笑に、光の神のそれが重なる。

偽りの無い、光の血筋に彼等は、安堵の微笑を浮かべた。

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