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闇と光の訪問

 あの黒き王の脅威が去って、一年が経つ……。

ルシフでは例年通り、七神の生誕祭を行う為、上や下への大騒ぎとなっていた。そこへ、久し振りに、リシェアオーガが訪れた。

薄緑の無地の騎士服を纏い、黒騎士を従えての訪問だった。

「リシェアオーガ様、何故ここへ?」

彼等を最初に見つけた、銀髪の大神官補佐のヴァルトレアは、金色に輝く髪の持ち主に問った。彼は微笑を湛え、答える。

「忙しい所、悪いな、ヴァル。今日来たのは、生誕祭の手伝いと…ある提案だ。

サニフとアスは、何処にいる?」

私的な用事の為、彼等の事を愛称で呼ぶリシェアオーガに、ヴァルトレアは薄緑の瞳で微笑み、

「丁度、一段落した所です。陛下と大神官様の処へ、御案内します。」

と言って、彼等を執務室へ連れて行った。

何時もながら、上品な装飾のそこには、大量の書類と睨めっこをしている短い薄茶の髪の青年・サニフラールと、それを片端から、片付けている白い髪の老人・ガリアスの姿があった。ヴァルトレアは彼等に、リシェアオーガの訪問を告げると、即座に入室の許可が下りる。

入って来たのは、普段着と思われるリシェアオーガと、黒い騎士服を着た精霊。

彼等の姿に、サニフラールも、ガリアスも微笑んだ。

「リシェアオーガ様、ようこそ、御出でなさりました。

して、どの様な御用件でしょうか?」

サニフラールの代わりに声を掛けるガリアスへ、リシェアオーガは簡素に答えた。

「生誕祭の事なのだが…去年、私が開始の(うた)(うた)っただろう。

今年は如何するのか、聞こうと思って…。」

「その事ですか…そうですね…如何しましょうか、陛下。」

急に話を振られたサニフラールは、困惑した顔になった。

今年はあの脅威が無くなった為、少しでも特別な物にしようと、模索中だったのだ。

リシェアオーガが言う通り、去年の開催時で彼に詠わせた物を、今年は如何するか、頭を悩ませていた所でもある。しかし例年通り、ルシフ王であるサニフラールか、次期大神官候補であるヴァルトレアが詠うのも、考えものだと思っていた。

祭りの開始も特別にしたい…だが、また、眼の前のリシェアオーガに頼むのも、迷惑だろうか…そう、彼は考えていた。


そして、意を決したサニフラールは、青く真剣な目をリシェアオーガに向け、この事を提案をした。

「…それですが…

今年は、あの黒き髪の王の脅威が去った事ですし、特別なものにしたいのです。

……リシェアオーガ様、御迷惑でなければ、今度も開会の詩をお願いしたいのですが…如何(いかが)でしょうか?」

口籠りながら告げるサニフラールに、リシェアオーガは微笑み、自分達がルシフを訪問した理由を話した。

「サニフ、今日は、その事で来た。七神の方々も、今年の生誕祭は特別な物にしたいと、言っておられた故、我等が来た。

……開会の詩を、私とアレィに任せてくれないか?」

「リシェアオーガ様と、アレスト様にですか?

宜しいですが、黒騎士様は、何をなさるのですか?」

黒き王の侵攻の時に、この場へ加勢に来た、闇の精霊騎士達。

彼等を統率していたのが、黒騎士と呼ばれるアレストだった。

既に面識のあるサニフラールは、彼がリシェアオーガと共に、ここにいる事を不思議に思い、問った。

返された質問に、名指しされた黒騎士・アレストは、無表情に見えるが、実際の所、微笑んで伝える。

「自分、闇の竪琴の、担い手。リシェア様と、一緒に、初めの詩、詠う。」

「光と闇の竪琴で、初めの詩をと思ってな。後、開会式の余興もだが…。

無論、七神から許可というか、是非やって来いと言われた。……迷惑か?」

「迷惑ではありません。喜んで…いえ、是非、お願いします。

…光のと闇の竪琴の共演なんて…皆が喜びます。

?余興ですか?…お任せします!!」

喜びに浮きたった声で、言葉を綴るサニフラールに、ガリアスも苦笑した。だが、リシェアオーガの提案は、歓迎する物だった。

例年通りの、開会の詠い手では無く、特別だと知らしめる事の出来る、詠い手達。

神々に護られ、七神を(まつ)るルシフに相応しい、光と闇の竪琴の担い手…。

今年の開会式は、楽しみだと、ガリアスとサニフラールは思った。


 悩み事の一つが消えた事で、サニフラールと、ガリアスの仕事も(はかど)り出した。

開会式の彼等の衣装は、彼等が持参している為、必要は無かったが、ルシフで普段に着る物が欲しいという事で、ヴァルトレアが仕立て屋に案内した。

国一の仕立て屋の中は、てんやわんやであった。後、一か月と迫った祭りに、新しい衣装を作る者が多く、ある意味、嬉しい悲鳴を上げていた。

そんな中、色々な衣装を広げて検討している、彼女達の前に現れたヴァルトレアへ、視線が集まる。ここの店主らしい、やや太めの女性が、ヴァルトレアに声を掛けた。

「ヴァル大神官補佐様、今日の御用は何でしょうか?開会式の御衣装ですか?

サニフラール様のですか、それともヴァル大神官補佐様のですか?」

衣装の注文に来たと思った彼女は、まだ注文の無い、開会式の衣装の事を話し出した。彼女の様子に、大神官補佐は、申し訳そうな顔で答える。

「エルカナ殿、残念ながら、今回は必要無いのです。

ですが、…他の用事で参りました。」

「今回も、注文はないのですか…仕方ないですね。では、どういった御用………

え?えええ!…後ろにおられるのは…リ・リシェアオーガ様!!!」

店主・エルカナの叫びで、他の御針子も、ヴァルトレアの後ろに注目した。そこには、金色の髪と青い瞳の少年と、黒髪と青銀の瞳の男性。

衣装の作り甲斐のある素体…いや、人物が二人、揃っていた。

「もしかして、リシェアオーガ様とアレスト様の御衣裳ですか?」

「そうですよ。」

彼等の遣り取りを見届けたリシェアオーガは、微笑みながら店主に向かって頷き、簡素に衣装の注文をする。

「エルカナ…だったな。私とアレィが此処で着る服を、何着か欲しいのだが…。

装飾は必要無い。祭りの手伝い用に、着るのもだからな。」

リシェアオーガの言葉に、残念そうな顔をするエルカナだったが、祭りの手伝い用では仕方無かった。

作り置きの、作業服を何着か出し、彼等の体形に合う物を見繕う。代金を渡して選ばれた服を、そのまま持ち帰る事にしたリシェアオーガは、彼女に声を掛けた。

「今年は頼めなかったが、来年は何かしら衣装を頼む。

と、寸法はこれだ。渡しておく。」

渡された紙には、3人分の寸法が書いてあり、エルカナは首を傾げた。不思議に思い、問うと、リシェアオーガは、苦笑気味に答えた。

「全部、私の寸法だ。無生体、男性体、女性体となる。

両方の性別を示す時は、女性体とほゞ同じ寸法だ。」

説明され納得したエルカナは、その紙を大事そうに抱え、貴重品を入れる箱に仕舞った。それをお針子達は、暖かな目で見守った。

来年こそは、リシェアオーガ様の衣装を!と、意気込みがエルカナから見えていた事は、周りの誰もが感じ取っていた。


「リシェア様、来年も、ルシフ、来る?」

作業用の衣服を持ち帰る時、アレストがリシェアオーガに尋ねた。

来る心算(つもり)だと答えると、自分も一緒に来るとアレストも宣言する。

過保護な保護者の一人になっている、闇の精霊騎士は、何かとリシェアオーガの世話を焼きたがっていた。

彼に関わった他の精霊騎士も、この闇の騎士同様、何かと彼を構っている。

その証拠に、ここには既に、光と大地、木々の精霊騎士達が来ている。

人々に交じって、生誕祭の準備を手伝っている彼等と、気配を精霊と偽って、さり気無く混ざっている神々…。

このルシム・シーラ・ファームリアだけで行われる生誕祭を、今年だけは特別な物としたいと言う意気込みが、神々にも、精霊にも見えた。

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