歩く男
男は歩いていた 冷たい風を胸に受けた時は
頭を下げて歩いていた
風を背に受け 押されるように 歩いた時もある
夜の灯に 寝ぐらを取り 朝を迎え また歩きだす
春を迎え 新緑と生命の芽吹きを 胸に感じ
心は綻び 生きる喜びを覚える
咲き誇る 花々 色とりどりに 笑いかけてくる
男は歩くことを忘れ 花園を見て回り
思いのままに 楽しき時を過ごす
騙されて涙 騙すことも 身に着けていた
花の香りに息苦しく 男は歩きだした
暑い夏 汗を流し 男は歩いていた
影は黒く短い 涼を求め日陰を探す
せせらぎの水の音 静かな佇まいに 疲れを癒やす
ひと時の眠り 男の胸は孟てくる 身と心は火照り
煩悩が蠢き 果てぬ望みの やるせなさは 狂おしい切なさに
女の姿を 追ったことも 心通わせ 身を重ねたこともある
夏の日の 出会い 花火遊びの 魅力に溺れた 夏の夜
男は忘我を 歩きに求め 遠くを目指す
秋風が いつしか 心地いい
花草木の色も 夏色から秋色に 変化して来た
コスモスは 疲れた心を抱き 慰める
青空は高く 渡り鳥の群れは ブイジ飛行で 南を目指す
野山は 紅葉と黄葉 落ち葉は地面を飾り 地を肥やす
秋色は 思い出人を懐かしみ 長き影を 月に照らす
名月は 人々の思いを酌み取り 思いを照らす
男は 落ち葉を踏みしめ 落ち葉とともに歩いている
寒暖晴雨は冬模様 冬が訪れ
男は 恋をして妻を 愛し抜き2児を 温かな家族を築いていた
子は成人し社会に 息子は死 娘は母に 妻は息子を追っていった
時代・季節に合わせ 男の歩き姿も変わる
北風 吹雪に 前傾姿勢の頭が下がる
温かな 穏やかな陽射しに 姿勢は伸び 頭も上がる
男の顔と表情に 喜怒哀楽がある
今の顔は どの表情なのか
男は歩き続けている 行き着く未来はどこなのか
そこは 歩き続けた 価値がある所なのか・・・
価値のない 道程だけの 人生だったのか・・・
道程の価値が 人生の価値 なのであろう。