Thinker 2
○
「ああ、やってきた?」
「なにを」
「今度の即売会に載せる奴。お前のプロットないと絵、書けないって。あとゲームの奴。それもお前待ちで作業止まってるから、早くしろって」
「ゲームの方は、俺噛まないって言ったはずだけど」
あのクソ気持ち悪いエロゲー。なんであんなものの為に僕が書かないといけない!
「ま、そう言わず」友人A、田原は愛想笑いを浮かべていった。「お前の文が好評ってことじゃん。冥利に尽きるだろ?」
どんなにSSで、二次創作で、エロで好評受けたって、そんなの嬉しくないんだ。
欠片も。
表面を取り繕ってるだけなんだ。当たり前の計算をしているだけなんだ。どこかで見た流れをパクってるだけなんだ。
それは僕が書いているわけじゃないんだ。
上手にこなしているだけなんだ。
むしろ気持ち悪くて寒気がするんだ。
嫌で嫌で仕方がないんだ。
お前等のむき出しの欲望には、反吐がでるよ。
なのに。
「……ったく、しょうがねぇな。とりあえず同人の方は昨日徹夜でやっといたから、感謝しろよ。ゲームの方はよく仕様がわかんねーぞ」
「そか。じゃあ明日十時、会議来いよ」
「どこ?」
「スカイプ」
「ケー」
お前は僕をどうしようっていうんだ。
○
なんとなくの流れで入った文芸サークルは、ものの見事に名ばかりのオタサーだった。自分にしかない何かを表現しようなんていう奴は皆無で、その時その時の流行の二番煎じをして、得意げになってるやつらばかり。僕は表にこそ出さないが、そんな奴らが気色悪くて仕方なかった。彼らが創り出したものは、僕にはなんでもないもののようにしかみえない。日本語の羅列、ドットの集合、インクの染み。それだけのものでしかなく、そこに意味を、価値を見いだすことなんて、どうしてもできなかった。
嫌悪感しか感じなかった。
そんな嫌悪感をテーマに、物語の最後で美少女ヒロイン達をボコボコにするライトノベルを書いたら、斬新だと捉えられてウケた。誰も裏に潜むテーマになんて気づかなかった。表面的な誉め言葉を受け取るたび、僕は心の中で嘲笑った。
はぁ。
全く僕も、いい性格をしている。
バチが当たったのだろうか。最近僕は、彼らのような人たちが作ったもの以外、それまでは大好きだった物語達をも、読めなくなっていった。
ドストエフスキーも、太宰治も、夢野久作もダメ。
ジャンプを読もうとして手が震えているのに気づいたときは、さすがに驚いた。
僕は、物語がよめなくなった。
気付いてしまったのだ。
名作、と世間一般に言われる物語も、彼らが、自らの欲望のままに作り上げた物語も、本質的には何の変わりもない。
等しく、意味がない。
読む意味が。書く意味が。存在する意味が。
物語に関わる行為はすべからく、空虚だ。
それに気付いてしまったから。
読了いただきありがとうございます!
最後までお付き合いいただけたら幸いです。