第二章:その二
居間に入った俺を待ち受けていたのは高さ40センチほどの長方形テーブルの上に置かれた簡素な朝食だった。
昨日の残り飯を電子レンジで温めたものと、尻尾の方から全体の約三割ちょっと焼きすぎて焦げてうわっ苦っなアジの干物、飲み物はセルフサービスで冷蔵庫からお茶or牛乳をお好きなコップにどうぞってそれのどこがセルフサービスだ、せめてあとオレンジジュースくらい追加しろ、と言いたいところなのだが、全部ひっくるめていつも通りの相も変わらずな慣れしたんでしまったブレックファストメニューなのであって、今更オレンジジュースなんか出されても逆に疑心暗鬼に陥るだけだから、この欲望はひっそり胸の奥底にしまっておくことにしよう。
俺がひたすら箸に白米やらほぐし白身(三割黒身)を乗せて口に運んでいる間も、横で何やら姉が騒いでいた気もするが、この際オールシカトだ。
耳に入ってくる音声を脳細胞が自動解析しちまったところによると、今も俺の耳に張り付いていやがる半球について騒いでやがるのだからなおのことシカトだ。
残念だったな、どんなに騒いだって知らないもんを教えろなんて要求は俺に限らず通るはずがない。無理なもんは無理だ。だからシカトだ。ざまーみろ。
さて、飯も食い終わったし、残りの準備もしてさっさと行くとするか。
姉は結局俺が家を出るまで騒いでいた。最初は母さんも興味を持って姉の話を聞いていたようだったが、飯を食い終わる頃には俺同様、完全無視の回避体勢に入ったようで、テレビの中でニュースキャスターが黙々と伝聞している<民家に大穴!?謎の巨大生物>なんて今が朝なのか昼なのか分かんなくなるようなニュースに耳も目も傾けていた。
そんなもんいるわけないだろう、と思ってたのも少し前の出来事で、今何をしているのかと言うと、古めかしいのか掃除がされてないのか際どい感じの校門をちょうど通り過ぎたところだ。
正直なところ、突然過去に行ったり、謎の半球があったりしたせいで、もしや登校途中にも何か起こるんじゃないだろうなと内心ヒヤヒヤしてたのだが、これが期待外れというかなんというか、まったく何も起こらなくてほっとしたというか残念だったというか、とにかくなんとなく釈然としない感覚が突然俺の中に住みつきだしやがったんだから困りもんだ。
ムシャクシャしたまま駐輪場にチャリを施錠そして放置、校舎の壁沿いに歩き昇降口へと入り外履きから上履きへとフォルムチェンジ、苛立ちとだるさを同時に感じながら階段を登り、できるだけ音をたてないようにして教室の引き戸を開け、内部へと足を踏み入れた直後、思い思いにグループを作って話をしているA組の連中が視界に入ったのだが、そのまた直後、俺の視界にでかでかと映し出された上がり目尻の大きなぱっちり二重を見た途端イライラが倍増したのだがなぜだろう。
「遅いわよ、進!まったく、高校登校二日目でこんな遅刻ギリギリに来る人なんて初めて見たわ」
その原因は、眼前に現れた顔が昨日の夢矢瑠璃そのまんまの顔だったからだ。
というよりおまえは一体何年高校生やってんだ。
「あんたバカじゃないの?あたしはまだ15歳、この国には飛び級制度はありません、ということはあたしが高校生になって一年目、しかもまだ二日目の新米高校生ってのは誰もが知ってるこの世の常識よ」
その蔑むような表情はやめろ。本当に俺はバカなんじゃないかと不安に陥る。
「ま、そんなことはどうでもいいわ」
どうでもいいのかよ。
「いいのよ。それよりも……」
瑠璃はキョロキョロとあたりを確認したあと、距離が近かった顔を、それこそ目と鼻の先と言わんばかりの距離までいきなりグイッと近づけてきて、そして右手を口の前で半筒型にし、小声で、
「……未来人を信じれるようにはなった?」
どうやら俺のさっきから苛立ちが増したという感情の異変はこのことを予知していたようである。
だが、その予知に気付けなかったためか、更に苛立ちが増してしまい、現在このムシャクシャをどこにぶつけようか検討中だ。
よってただでさえ意味がなかったこの会話は、これ以上続けるのはゲーム機本体を持ってないのに買ってしまった専用ゲームソフトくらいに更に意味が無く、教室を見回した結果ちょうどこの苛立ちを発散させてくれるだろう相手を見つけた俺は、朝の姉同様、しつこく話しかけてくる瑠璃を完全無視し、席に座りつつも仏スマイルを振りまいてる野郎のもとへ、一歩一歩を敢えて強調しながら歩を進めた。
更新が遅くなりました;もし定期的に読んでいてくれてる方がいたなら心から感謝しつつ、本当に申し訳ありません。もっと早く投稿できるようにがんばりますんで読んでいてくれてる方もそうでない方も宜しくお願いします。